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転生聖女の逃亡放浪記〈総合評価520&110000PV感謝!〉  作者: 宮本高嶺
第二章 アンスリンテス魔道国珍道中
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61 幕間・秘めたる野望

傍目に見ても上機嫌で魔導教導院へと戻ってきたダゲッドは人払いをすると執務室の椅子へとドカリと腰を下ろした。

つい先程まで行われていた代表者会議。

元々はアドネアとの打ち合わせ通り、例年と同じ代り映えのしない組織対抗戦に、少しだけ小細工を弄するだけの面白みの欠片も無い物になるはずだった。

勿論、彼女に何かしらの目的があるのは重々承知しているし、それをも利用して自身の目的、いや野望を果たそうと密かに画策していたのもまた事実。

しかし、

「ガハハハ!まさかあのローディアナの片割れがあんな面白い提案をしてくるとは!アドネアよりもあの小娘を使った方が利口だったのではないか!?この私とした事がとんだ節穴だったな!」

余りの面白さに堪らず自身をも卑下するが、そこに負の感情は一切なかった。

それどころか、これまで散々見下してきたオーフェの評価を一気に引き上げたほどであった。

そうして一頻り興奮の余韻に浸った後、戸棚から酒瓶を取り出すとグラスに注いで一息に飲み干した。

「さてと、いつまでも愉快にしている訳にも行かんな。直にアドネアの女狐から連絡でも来るだろうが、果たしてどう出る事か」

すっかり夜も更けた町を望む窓に目を向け、しかしそこで思い直したように机から一つの魔導具を取り出す。

「まぁアレは放っておいても構わんか。それよりも、()()()()に報告だけはしておく必要はあるな」

独り言ちながら魔導具を起動しようと手を翳し、しかしその手を戻して魔導具を机に放り投げる。

グラスに酒を注いで、今度は軽く口を付けていく。


程よく酔いが回ってきたのか、ダゲッドはふと昔の事を思い出していた。

ダゲッド・ケンネスタ。

彼が生まれたケンネスタ家は古くはフェオールにおいて有数の貴族家として存在していた。

魔王との戦いが終わり、ようやく訪れた平和な世界に於いて、ケンネスタ家はフェオールの更なる繁栄の為に一つの決断を下した。

当時、アンスリンテスが国として纏まり、特に魔導具の普及に寄与した事を大きく捉えたフェオールの上層部はその技術を国に齎すべく日々議論を重ねた。

しかし意見は纏まらず、会議は紛糾し続けた。

それを重く見た当時のケンネスタ家当主は自らその地位を返上し、アンスリンテスへと潜入する事を決めた。

それも、二度と戻る事の無い片道の潜入。

それ以来、彼らはアンスリンテスで地道に活動を続け、少しづつ信頼を勝ち得ていった。

そうしてダゲッドの父親の代にて遂に魔導教導院の幹部へと至り、そして。

「ああ、ようやく我が一族の悲願が果たされる時が来た」

父から、祖父から託された物を思い返し、思わず目頭が熱くなる。

無論、まだここからが本当の戦いである事は理解している。

それでも、この最大の好機を目の前にして昂りを抑えきれずにいる。

そしてそれは一族の願いだけでなく、彼の個人的な目的にも大いに近付く事でもあった。

魔導教導院の院長となった時、ある出会いがあった。

当時からプライドの高い男であったダゲッドが、唯一友と認めた男。

自身よりも若くして魔導開発局第一の局長に上り詰めた天才と呼ばれたローディアナという男。

何がどうして交友を深める事になったのかもはや思い出せないけれども、彼と過ごした時間はダゲッドにとって小さくない物となっていた。


だからこそ、それが失われた時の喪失感と無力感は想像を絶した。

彼自身、ここまで肩入れする気など毛頭なかったにも拘らず、事実としてその死は大きな楔となってしまった。

その時ばかりは、ダゲッドはケンネスタ家の使命を忘れて友の死の真相を追い求めた。

そしてその真実を知った時、ダゲッドは得も言われぬ焦燥感に駆られた。

アンスリンテスは今のままではいけない。

どんな手段を使ってでもこの国を守り切らねばならない。

ひいては、それはかつての祖国を守る事にも繋がるのだと、一族の使命を果たす事にも繋がるのだと。

その日から、ダゲッドはあらゆる手段を用いて魔導教導院の兵力を強化してきた。

ローディアナの忘れ形見がその遺志を継いだと聞いた時も、その本心を押し殺して敢えて敵対的な態度を貫いた。

自身の行いがやがて糾弾される物だと理解しているからこそ、それで守るべきものが守られるのならばと。


そして、その決意の最後の一押しとなったのはフェオールに居る連絡部隊からの一つの報告。

曰く、聖痕の聖女が紆余曲折を経てアンスリンテスへと渡った、と。

その素性について報告を受け取った数日後に、その報告と合致する旅行者が現れた。

それを利用しない手は無いと決断したダゲッドは、強引な手を使ってでもその者を引き込もうと画策した。

無論、無関係の者を巻き込む事に多少の呵責は感じはしたものの、それでも彼は動いた。

一悶着の末に今日、最後の舞台は整えられた。

組織対抗戦にて力を示し、聖痕の聖女を合法的に引き込む。

そして、来るべき時に備えるのだと。

誰にも知られる事の無い決意を胸に、放り出した魔導具をもう一度手に取る。

「使える物は何だって利用する。ああ、ここまで来たんだ。例え()()()であろうと、上手く使いこなしてやろうではないか」


誰にも明かせぬ静かな決意に、窓際に留まっていた一羽のフクロウが小さく首を傾げて応えた。

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