58 オーフェの提案
オーフェの声が議場に響く。
私も、他の皆も、あのダゲッドですらも口をあんぐりと開けたままオーフェを見据えている。
そんな中、オーフェだけは相変わらず満面の笑み、というかなんか誇らしげに一仕事してやったぜみたいな感じを出してるんだけども。
段々と落ち着いてきた思考が、そのまま逆方向へと振り切れていく。
「オーフェ、アンタねぇ!」
「まぁまぁ落ち着いてくださいな。これは我々は当然として、リターニアさんにとっても損ではないのですよ」
私の怒りに、それでもオーフェは慌てる事無く堂々と向き直る。
「いいですか皆さん。これまでの対抗戦、国民からどう見られてるかご存じで?正直、つまらないって声が大半、なんてもんじゃないんですよ。私の調べた限りでも7割近くがそう感じているのです。つまりはもう飽きられてるのです。アドネアさんが言う通り今のこの国は少々危険な状況で、そんな中でいつも通りの事をしても余計に反感を買うだけですよ?特にダゲッド氏!」
「む、な、なんだ!私がどうしたと言う!?」
ビシリと指を向けられたダゲッドが口の端をヒクつかせながらも怒鳴り返す。
それでも意に返すことなくオーフェは他の面々の顔を見回す。
「アナタのやり方がどう見られているか分かっているのですか?今回の事だけでなく、これまでの事も含めて!ぶっちゃけ、アナタに対する国民からの求心力はどん底なんてもんじゃあないのです!」
「っ!ぐっ!」
唐突にこき下ろされて顔を真っ赤にしながら、それでも思う所もあるのか言葉にならず口をパクパクとさせている。
「だからこそ、この好機を利用しない手はないのです。まずリターニアさん」
「えっ!?な、何?」
唐突に話を振られて思わず背筋を伸ばしてしまう。
「もうここまで来たからには腹を括ってしまいましょう。具体的には、力を出し惜しみせず我々を跳ね除ければいいのです!期間中、とにかく逃げ切れば勝ちなのですよ!」
言われて、確かにと納得してしまう。
いや、勢いに押し切られた感はあるけど、ゴチャゴチャとややこしく考えるくらいならその方がいっそ清々しいまであるのもまた事実。
そうして私が1人納得している間に、オーフェが残りの4人に向き直る。
「そして我々の方も、これまでにみたいに当たり障りの無い催しで適当になる位なら、たまには全力で事に当たるのも必要かと。ましてや、リターニアさんは聖痕を持つ御方。その力を相手にどこまでやれるのかを見せつければ、誰もが文句なく納得するでしょう?」
彼等もオーフェの言葉に何度も頷いている。
ダゲッドも組んでいた腕を解いて顎に手を当てて思案している。
ややあって、そのダゲッドが顔を上げた。
「ならばオーフェよ、規定を改めて定める必要があるだろう」
「モチロンです。とはいえ、難しく考える必要もまたないかと。人に対する傷を負うような行為、破壊行為、その他公序良俗に反する行為、それらだけ禁ずれば良いかと」
「なるほど。それならば分かりやすく評価出来ますし、勝敗も分かりやすいですね」
「あー、人員はどれくらい使っても?」
アドネアが納得を示し、リーフェが追加の確認を始める。
そうして詰めの話し合いが進められていき、私も幾つか質問をして不備が無いか確認する。
結局、会議は日が暮れるまで続き諸々の規定が定まった。
私も、何だかんだで面白そうだと乗り気になってあれやこれやと口を出してしまったのは仕方が無い事だと思いたいけど。
そうして今日は解散となった。
最初は重苦しい雰囲気で誰もが沈んだ表情だったのに、今は皆が皆良い顔になっている。
終始仏頂面だったダゲッドですら、満足そうにガハハと笑いながら帰っていたのだから。
グウェイブ院長も当初は心配そうに私を気遣ってくれていたけど、最後の方では満足そうに笑みを浮かべていたし、アドネアも肩の荷が下りたように肩から力が抜けていた。
リーフェも大きく表情が動きはしなかったけど、纏う雰囲気が柔らかくなったように感じたのでとりあえずは大丈夫そうだ。
そして、
「いやぁ、何とか乗り切れましたねぇ」
一際清々しい顔で横に立つオーフェに、私は少しだけ目を細めて肘で小突く。
「アンタねぇ、こういうのはせめて確認なりしてからにしなさいよね」
「すみませんねぇ。でも、こうでもしないとあまりに一方的でしたからね、これでリターニアさんにも納得してもらえるだろうと信じてましたよぉ」
フニャリと気の抜けた笑みで右手をヒラヒラさせるオーフェに、私も脱力するしかない。
「まぁ、最後の方じゃ色々面白くなりそうな感じだったしいいけど。でも、これで私はオーフェとも連携が出来ないわよ」
「それはさっき取り決めた約定がありますからねぇ、何とかなりますよぅ」
そう、特に大きな成果としては、私が正式に各組織から事前に助力を得られるようになった事だろう。
これで、ただの観光客が不慣れな町を逃げ回る為の準備が遥かに全身させられる。
やるからには、徹底的に逃げ回って勝って見せようじゃない!