52 暗躍する者達
結局、表立っての対応はオーフェが受け持ち、それを隠れ蓑にリーフェが裏から情勢を探るという事で一旦話は纏まった。
2人が動いてる間、私は基本的には身を隠しておく事になったのだけど。
幸いというか、グウェイブ院長に勧められた宿は現状において最も安心できる隠れ家としても機能する事が分かった。
と言うのも、身を隠しながら宿に戻った私に、店主が開口一番でその安全性を説明してくれたのだ。
話を聞くと、グウェイブ院長も既に状況を把握していたらしく、私が留守の間に連絡をして取り計らっていてくれたのだ。
無論、手放しで彼に全幅の信頼を寄せるにはまだ早いと思うけど、ここが誰の影響下でもない事は確認済みなので、お言葉に甘えてしまおうと判断したのだ。
そして今現在、私は自室でオーフェとリーフェから送られてくる手紙に目を通しているのだった。
魔導開発局第一での騒ぎから早3日。
私は基本的にこの宿の中だけで過ごし、外の状況はオーフェ達姉妹からの手紙で確認している。
とはいえ、現時点ではまだどこの勢力も大きな動きは見せていないという。
まぁあくまで表向きは、であって、実際裏では相当なやり取りが既に始まっているらしい。
そして案の定、魔導開発局がとにかく激しい動きを見せている。
幸い、オーフェ達やグウェイブ院長の働き掛けのお陰か、彼らは宿に居る私には直接干渉をしてきていない。
しかしながら、周囲には常に監視の目が張り付いていて、一歩でも外に出たら即捕捉されてしまうのは想像に難くない。
こうなる事が分かっていたからこそ、あの2人は私に動かない様に言ってきたのだけれども。
「正直、直接じゃない方法ならいくらでもあるワケだしね」
宿の自室に備え付けられたソファにゆったりと腰掛け、視線を窓の遠くに投げかけながら独り言ちる。
窓の外を眺めてはいるけど、実際に私の目に映っているのは全く違う光景である。
これは使役魔法と呼ばれる物で、多く用いられるのは動物を一時的に支配下に置きその行動や、今みたいに視界を共有したり出来る魔法だ。
基本的には扱い方さえ学べば誰でもすぐに使える初歩的な魔法の一つではあるけど、その効果は人によって差が出るのもまた当然である。
初心者などが使うと動物の動きがぎこちなかったり、魔力が漏れてしまい相手が上手だと逆にその魔力を辿ってこちらの居場所を暴かれたりしてしまう。
対して熟練者が使うと、違和感なく動物を扱えるし当然見破られ事も無い。
とはいえ、使役魔法はその動物の行動を意のままにするので、その生態に詳しい物が居たりすると違和感を持たれる事も少なくは無い。
今でこそ魔導具が発達した影響で使役魔法はあまり使われなくなったが、それこそ100年前は使役魔法を用いた情報戦が命綱だったし、それ故に軍隊には必ず動物に詳しい物が同行していたりもした。
加えて、この使役魔法が廃れた原因として良く挙げられるのが、術者が無防備になる点だろう。
繰り返すけど、この魔法は動物を支配下に置いて操る物である。
であれば当然、その行動の制御に意識を割く事になり、当然それは本来自身を動かす物を割り当てる事になる。
必然、使役中は自分の体は動かせず無防備になる。
そして、戦場ともなればその体を誰かが守らないといけないし、術者は身動き一つ取れないからそれを防衛するとなると、少なくない人員を割く必要が出てくる。
無論、そのリスクに見合うだけの成果が挙げられるし、逆に役目を果たせなければ即座にお役御免にされる重責ある立場だった。
前置きが長くなったけど、つまりは使役魔法は本来1人で居る時にはあまり使用をお勧めできない物なのだ、、、普通なら。
私は今、近くに居た猫ちゃんを使役して町の状況を観察している。
たまたまベランダの手摺で日向ぼっこをしていた子が居たからご協力願ったのだけど、この子がまぁお利口さん。
私が何処に行って欲しいか、凡その位置を伝えるとあっという間に向かってくれるのだ。
しかも何度か位置を修正させるとそれを憶えたのか、段々とその位置取りがまさに理想的な場所に行ってくれるようになったのだ。
お陰で私は情報収集に専念出来るようになったきた。
さて、ここでもうお気付きかもしれないが、私の使う使役魔法はその辺の連中の者とは格が違う。
私のソレは動物の意識を支配しない、共存型なのだ。
相手の動物の意識はそのままに、私の意識を少しだけ送り込む形になっている。
私がお願いする形で動いてもらい、その視界を借りているのだ。
これはまぁ、前世での私の経験が基になっていて、つまりは人との繋がりが全くなかった私がそれを打破すべく編み出した物で、しかも支配する事を嫌ったが故に共存しお願いする手法を取ったのだ。
その結果、私の使役魔法は外的にも内的にも全く看破される事のない物へと進化している。
そして今、猫ちゃんの目を通してようやく見つけられたある人物に、私は接触しようとしている。
「さて、私もそろそろ動くとしますか」
その場所を目指して、私は猫ちゃんとの共有意識を保ったまま立ち上がった。
主人公もコッソリと動いてました、それ故のタイトルです。