47 そして巻き込まれる
当然の事ではあるけれど、私は100年程前の時点で魔法に関しては頂点を極めていたと言っていい。
何故ならば、魔王だったからである。
いや、魔法を極めたからこそ魔王足り得たのかもしれないけれど、それを考えた所で詮無き事と言うヤツだろう。
とにかく、その技能は魔力共々含めて今の私にも受け継がれている訳で、だからこそフェオールでも好き放題出来たのである。
だけど、出来るからと言ってそれが世間一般に於ける常識的な範疇で無い事も当然理解はしている。
だからこそ必要以上には力を行使しなかったのだし。
だけどまぁ、気が抜けていたのだろう。
無事にフェオールを脱し、アンスリンテスで自由を満喫したのだからそれは仕方がないと自分でも思う。
とはいえこれは、、、
「リターニアさん」
「はい、、、」
研究所内の個室から外に出た私達は今、違う階にある会議室に来ていた。
私とオーフェ、それからどうやら各担当部署の責任者さんとやらが集められ一堂に会している。
「まず先に、ムリヤリとは言え協力頂いた事に感謝を」
至極真面目な態度で頭を下げるオーフェ、それに追従するように責任者達も頭を下げる。
対する私は若干どころじゃない気まずさを感じながらもとりあえず頷き返しておく。
「しかしながら、貴女の魔力の扱い方は私の想像を遥かに上回るものでした。失礼ながら、あれを基にした魔導具開発は今の我々では実現には程遠いと判断させていただきました」
「そうね、アレは少しやり過ぎたわ。一応、誰でも出来そうなやり方は示せると思うけど」
余りにも堅苦しいオーフェに堪らず別の手段を申し出る。
こうして部外者を招き入れてくれてるワケだし、それに対しては礼を返したいと一応は思っている。
「それは有難い事ですが、実を言うとリターニアさんをここに招いた理由には実は別にあるんですよ」
「別の理由?」
「はい。ああ、各位、今から話す事は口外厳禁です。所長として命じます」
厳としたオーフェの言葉に場の空気が一気に緊迫する。
「リターニアさんは私と同じく聖痕を持ってます」
その一言で、彼らの表情が明らかに強張った。
色々と思う所はあるけど、今一番気になるのは。
「聖痕持ちがこの町に居るのはよろしくないって感じ?」
「そうですね、常であればもちろん何も考える事はなかったのです。しかし、今この町は少々揺れ動いている時期なのです」
「聖痕絡みの厄介事、って感じではなさそうね」
「この国にある役職に総責任者というものがあります。ご存じかと思いますが、アンスリンテスという国は、特に5つの組織が大きな力を持ち国の運営を担っています。ですが、当然ですが国の長が5人も居ると色々と不都合が生じます。それを取り纏めるのが総責任者なのです」
話を聞いてふと思い出した事がある。
数年前、まだ私が故郷に居てこの国の噂話を商人から集めている時に、アンスリンテスはしばらく不安定になるという話を聞いた。
その商人は詳しい事は知らないと言って改めて情報収集に向かったそうだけど、残念ながら彼が戻る前に私は城に連れて行かれてしまった。
今の話からすると、もしかすると。
「まさか、その総責任者が居ないの?」
「む、まさかお気付きになるとはさすがですねぇ。実は総責任者の決定には幾つかの条件があるのです。常ならば難しくも無い話だったんですが、まぁお隣さんが色々あったでしょう」
苦笑いを浮かべつつ肩を竦めるオーフェに、私も同じく苦笑いを返す。
色々と思い当たる、というか当事者だし。
「加えて、海を挟んだ西のお隣さんもここ数年キナ臭い情勢でして、総責任者となる条件を満たす者が居なかったのです。さらに間の悪い事が続きまして」
曰く、先代の総責任者でありオーフェの前任でもある魔導具開発局第一の局長さんが病で亡くなったそうで。
加えて、彼の奥さんであった魔導開発局第二の局長が心労から倒れてそのまま引退を表明。
5つの組織のうちの2つの長が抜けるという異常事態まで加わってしまいより混迷が深まったのだという。
「それが今から5年程前ですかねぇ。まぁその後色々あった末に私がここを受け継ぎまして。まぁそういったドタバタのせいもあって、昨年辺りから総責任者をどうするかって話が再浮上している訳です」
とまあ、こんな具合で実は裏で色々とゴタついているらしい。
しかし、
「この国の実情は分かったわ。でも、それと聖痕を持つ私がどう関係するの?」
結局はこの疑問に尽きるのだ。
「今回試して頂いた魔導具の改良もそうですが、各組織の急務は優秀な人材の確保です。事業を拡大する為にはそれなりの人手が要りますし、それを取り纏めるだけの力を持つ者が求められますからね」
なるほど確かに、それならば聖痕を持つ私はまさにうってつけと言える。
加えて、オーフェという聖痕保有者が既に1つの組織の長となっているのは、他の組織からすれば大きな脅威となりうる。
だけど話はそれだけでは済まないようで、重い口を開くようにオーフェからさらなる情報が齎された。
「実は、貴女の素性が既に各組織に知られてしまっているようなのです」
いよいよ話が動き出します!お楽しみに!