46 成功とは99回の失敗の果てに至るもの
研究室でのすったもんだが終わり、何ならそこでようやく自己紹介と相成った訳だけど、ようやく私はオーフェからここへ連れてこられた説明を受けた。
当然だけど、私とオーフェは2人だけで、場所も研究室の奥にある個室である。
そこで頼まれたのは何て事は無い、魔導具の開発過程に際してその材料に魔力を込めるという事だった。
曰く、魔導具の開発において最も障害となるのが各素材の繋ぎ方だという。
説明を聞いても全部理解し切れなかったけど、何とか理解出来た部分だと特に例の鉱石が大きな不確定要素なのだという。
その鉱石を魔導具に埋め込む際に魔力を通して馴染ませると同時に変質させ、溜め込める魔力の容量の増加と消費量の効率化を促すらしいのだけど。
「現状、変質化効率が芳しくないのですよ。具体的な数字は差し控えますけど、目標の半分にも届かなくてですねぇ」
そう言いながら実演したオーフェが完成した魔導具を差し出す。
正直、違い何て分かる訳がないんだけどとりあえずその魔導具に目を向けてみる。
「あ、普通に見ただけでは分からないかと。そうですねぇ、魔導具の魔力の流れる経路を追ってもらえれば何となく理解できるかと」
なるほど、と頷きながら目に魔力を込めて改めて魔導具を見つめる。
すると、鉱石から流れ出る魔力が魔導具全体へと走っているのが浮かび上がってきた。
それと同時に。
「あれ?」
唐突に感じた違和感に思わず声が漏れる。
「お?さすが私の見込んだだけはありますねぇ」
その声にオーフェがウンウンと頷きながら相槌を打つ。
それを聞き流しながらさらに注意して魔力の流れを見つめる。
そこで違和感の正体がようやく掴めた。
端的に表すと、鉱石から流れ出す魔力が不安定なのだ。
大きく流れたり小さく流れたりを繰り返し、その間隔も不定期で不安定。
その影響で鉱石が劣化していくのが目に見えるようだ。
「それはまぁワザと分かりやすく作ったんですけど、実際の開発でもそれに近い事が起きちゃってましてね」
傍らに置いていた別の魔導具を手に取りながら説明を始めるオーフェに、私は向き直って考えを述べる。
「確かに、オーフェの言う通り周りの材質と喧嘩しちゃってるわね。何となくだけど、鉱石と周りの部品との間になんかズレというか、変な感じがするのよね」
「そうなんですよ。そこまでは私達も解明しているのですけど、鉱石の種類を変えても部品の造りを変えてもダメだったんですよぅ。シクシク」
泣き真似をするするオーフェは適当に放っておいて、今の言葉を改めて反芻しながら手元の魔導具を観察する。
頭の中で幾つか考えを組み立てて、何となく道筋が見えた事をオーフェに告げる。
「多分だけど、鉱石に込める魔力の属性を変えてみたらいけるんじゃない?」
「魔力の属性、ですかぁ?それはどういう、、、?」
流石は研究者か、私の言葉に一瞬で表情を引き締めて姿勢を正した。
「そう。魔力はあくまで周囲に働きかける為の起爆剤みたいなものだけど、だからといって無秩序に放つ訳ではないでしょ」
言いながら右手を机に上に差し出して掌を上に向ける。
「例えば、火を放つ魔法」
魔力を集めて手の上に小さな火を起こす。
「こうして火を作り出すのは魔力操作の基礎として習うでしょ。大抵の教え方は火を想像しながら魔力を集めろって教えると思うんだけど、実はそれは間違いなのよ。本来は魔力そのものを火に変換するのが正しい形。もちろん魔法によって違いはある。身体強化なら何処に魔力を送り込んで、どの部位に働き掛けるのかを明確に思い描ければそれだけ効果が大きくなるし、回復なら傷を見ながら本来の状態を思い描くと効果が強く早く現れる」
火を消して、代わりに純粋な魔力の塊を浮かび上がらせる。
「こうしてただの魔力を使うと何に対しても応用が利かせられるけど、その反面効果が薄い。これに属性、まぁ方向性を与えてやると融通が利かなくなる代わりに効果が大きくなる」
「つまり、魔力を正しく変換してやると特化する代わりにその方向性内なら柔軟に扱える事になるのでは?」
「流石ね。それこそが身体強化や回復の神髄なのよ。もちろん攻撃魔法も同じで、火なら火に固定される代わりにその形態を自在に操れる」
手の上の魔力を火に変換して、更にそれを蛇の様に細長くする。
「いい?この火は私の魔力そのもの。普通の人だとイメージした火が形になるからその姿で固定されてしまうけど、魔力を変換した火だとそれは火の形をした魔力なの。だから、魔力を操るのと同じように火を操れる」
蛇の形になった火をグルグルと回転させる。そこから球形にして今度は鳥の様な姿にする。
「ね?魔力を精密に操れる人ほどこうして自在に形を変えられるのよ」
ふと視線を上げると、目をまん丸にしたオーフェと、いつの間にか集まっていた他の人達も口をあんぐりと開けて食い入るように私の火の鳥を見つめていた。
うん、これは間違いなくやり過ぎた。
なんとありきたりなタイトル!(笑)