41 魔導学院
アンスリンテス魔導国を代表する場所と言えば、誰に聞いても挙げられるのがこの魔導学院である。
そもそもではあるけど、一応世界各国にもそれぞれ教育機関は存在するという。
フェオールにも実はちゃんと小等院、中等院、高等院という学習機関があるのだが、基本的に貴族の子が通い、僅かながらに平民の才能ある子供が選ばれ通えるという物だった。
そしてその学習内容も貴族教養や社交、その他諸々という、よくある形式的な物でしかなかった。
しかしながら、この魔導学院はとにかく魔法に関する事のみを学ぶ場所である。
その内容も多岐に渡り、魔法の基礎から始まり、より実践的な扱い方、魔力の扱い方や鍛え方、それらを座学に実技と多くの方法で学べるのである。
更には魔導具についても、ここではその歴史や構造などの基礎を学べるのだ。
ここで学びを得た生徒達は卒業後、アンスリンテスにある別組織へと就職しよりそれぞれ特化した研究開発をしていくのだ。
そうして年を重ねた彼らはやがてこの魔導学院の講師として再びここへとやってきて、後進を育成する。
その循環こそが魔導国を魔導国たらしめる最大の財産である。
そんな説明をグウェイブ院長から直々にされながら私は学院の見学を堪能していた。
私がこの国に来たら学院を見学しようと決めていたのには当然理由がある。
その中でも特に気になっていたのは魔導具。
100年以上前、私がかつて生きていた時代には魔導具は希少かつ、扱い難い物として存在していた。
それが今では当然のようにありふれた物として普及し、人々を支えている。
その発展に私は敬意を持っていた。
無論、以前見掛けた人に仇為す魔導具とやらも存在し、恐らくそれは本来の手順で作られた物ではない、所謂違法魔導具であるのだろうけど、それでも魔導具を作り出す技術が一般的に広まっているのは時代の、人類の進歩に他ならない。
いつか人は、聖痕などという胡散臭い物をも凌駕する魔導具を生み出せるだろう。
その時こそ、人は新たな高みへと至れる、私は勝手にそう信じている。
かなり話がずれてしまったけど、とにかく魔導具には多くの可能性が秘められている。
その片鱗を少しでも覗いてみたいと思ったのだ。
そんな思いに耽っていると、いよいよ魔導具を学ぶ学舎へとやってきた。
今は講義中なのか、廊下に人影は見当たらない。
だけど、どの講義室からは賑やかな声が漏れ聞こえ、熱気すら感じそうだった。
「ちょうどここで魔導具の歴史を講義しています。既に連絡は来ているでしょうからこのまま入室しますぞ」
「はい、よろしくお願いします」
グウェイブがドアを開いて中に入り、私もそれに続く。
室内に居る生徒は50人程だろうか。
何人かはこちらに目を向けたけど、すぐに前へと視線を戻した。
講義を担当する講師も、院長に軽く頭を下げるも特に中断もする事無く講義を続ける。
さすがは魔導学院、これすらも日常茶飯事なのだろう、皆慣れた感じだ。
最後部の座席に案内され、院長と並んで席に着く。
講師の言葉に耳を傾けながらそっと室内を見回すと、アチコチに様々な魔導具が置かれているのが目に入る。
見た事がある物、初めて見る物、形も大きさもそれぞれで、その用途も多様なのだろう。
そんな中、講師の言葉がより響いて聞こえた。
「さて、魔導具の発展は、特に100年程前より活発になった。知っての通り、当時は魔王が打倒され、世界は混迷から脱するべく復興に力を注いだ。その中で魔導具の有用性が改めて認識され、量産と改良が課題となった。それらを進めるべく、当時聖痕を有していた初代アンスリンテス氏が研究機関を発足。それがアンスリンテス魔導国の礎となったのは有名な話であるが、権力の一極集中を危惧したアンスリンテス氏はさらに4つの組織を立ち上げました。この魔導学院もそうだな」
魔王と言う言葉に思わず反応しそうになる。
まぁ、自分で言うのもおかしいけど、あの戦いは多くの転換を齎したからね、こうして引き合いに出される事はこれからもあるだろうし、慣れておかないと。
それよりも講義だ、と意識を集中する。
壁に掛けられていた何かの表を指し示しながら講師が続ける。
「少し逸れるが、この国は今では5つの大きな組織が主だって運営をしている。とはいえ、他国とは一線を画す形態であり、国と言う体裁を取りはしているが実際には研究機関であるという認識で一致されている。この魔導学院を始め、魔法を研究開発する魔法教導院、魔導具の研究開発を行う魔導開発局第一、既にある魔導具の改良や改善を行う魔導開発局第二、そして一応は国と名乗る以上それを運営する組織が必要であり、それを行う中央議会。これがこの国の主な組織だな」
「実際には、今挙げられた5つの組織の長が定期的に会合を開き、運営を取り仕切っておるのです。かく言う私も、その席に着く者の1人なのですがね」
講師の話の合間に、院長が小声で捕捉をしてくれた。
それで私も1つ合点のいく事があった。
「実は以前、ある人と知り合いまして。彼女はアンスリンテスと名乗りました」
「市井に居るとなると、オーフェ君でしょうな。ええ、各組織の長は称号として、アンスリンテスを名乗る事になるのですよ」
懐かしむように微笑んだ院長は、私の推測に頷いて答えてくれた。
今更ではありますが、ネームドキャラは主要キャラです。つまりは、そういう事です?