402 戸惑いと違和感の中で
フェオール王国第一王子 レオニル・フェオール
ミーリスの足取りが途絶えた。
アイツを騙る手紙に、直後に帰還した負傷した情報部員の報告。
その後すぐに編成した救援部隊に俺も加わり、魔導車5台にもなる大規模な人員が出動したのが二週間前だ。
道中、レオンデルと通信魔導具で情報のやり取りを続けたが、結局最初の情報以外に新たなものは無く、それはつまりミーリスを追った部隊も全滅した可能性が高いという事でもある。
緊急事態故、魔導車に設けられている速度制限装置は解除し、通常の倍以上の速度で走り続けている。
そう、本来なら魔導車は安全面から馬車よりも少し速い程度の速度しか出せないようにされているのだ、なのにミーリス達が乗っていた魔導車は明らかにそれ以上の速度を出していたと報告されている。
制限装置を解除する方法は確かにある、けれどそれは我が国が許可を出したうえで専任の技師によって初めて解除出来る。
では、ミーリス達が乗った魔導車はどうやってそれを解除したのか・・・既にレオンデルには調べさせているけれど、恐らく我が国の者の仕業ではないとの事だ。
だとすれば、可能性は一つ・・・邪教神団には様々な者が加わっている、そこにもしもその手の技術に長けた者が居るとすれば、或いは解除も不可能ではない。
国の許可と言ってもどの魔導車に誰が解除を行い、誰が乗るのかを書類として提出させるだけに過ぎないのだ、抜け道何て幾らでもあるし、事実違法改造した魔導車に乗る奴もそれなりに居る。
つまり、そういう技術は既に一般にまで拡がってしまっているのだ、止める手立ては中々立っていないのが現状だ。
ミーリス達が邪教神団の捕まり、魔導車ごと移動したと考えればまだ納得はいくし、同時にかなりマズい状況であるという事も嫌でも理解させられる。
(無事でいろよ・・・)
内心の焦りを抑えつつ、そう祈るしかない。
情報部員の言っていた街に着いた・・・あまりにも呆気無く。
何者かから届けられた手紙にもこの街に関する事は書かれていたけど、ただの通過点程度の内容だったから特に気にしてはいなかったのだが・・・
「邪教神団め・・・よくも・・・」
街に人気は無く、だけどどの家もごく最近まで人が住んでいた形跡が残されていた。
そして騎士団が総出で探索した結果、街から少し離れた森の中で死体が発見されたのだ・・・それも大量の。
確かめる術が無いから憶測でしかないが、恐らくこの街の住人達だろう。
何せ女子供にお年寄りまで、余す事無く皆殺しにされていたのだ・・・それも、その誰もが喉を切り裂かれていた。
「殿下、目的をお忘れなく」
騎士団の副長であるオルヌスが感情を抑えた声でそう告げる。
「分かっている。これ以上犠牲者を増やすワケにはいかないからな」
俺もオルヌスも努めて平静でいるけれど、当然そう簡単に割り切れる物ではない。
邪教神団がどれ程の規模でフェオールに入り込んでいるかも分からない、だけどこうして街一つが滅ぼされているのだ、その脅威はもはや国難レベルと考えるべきだろう。
「ミーリスの行方の手掛かりは?」
「残念ながら。しかし、僅かですが魔導車の轍らしき物がありました。方角は北東方面です」
「レオンデル、どうだ?」
通信魔導具越しに何かを捲る音が聞こえ、次いで弟が誰かと言葉を交わす僅かな声が聞こえた後、
『そこから北東ならフェノムの街があるね。領都手前の街だから規模は大きい、誰かしらが何かを見ている可能性はあるよ』
「了解だ。俺達はそこに向かう、この街は任せていいか?」
『うん、既に対応しているよ。あとの事は大丈夫』
流石は優秀な弟だ、なら俺も俺でやるべき事をしよう。
それから更に数日後、フェノムに到着した俺達は手分けして情報収集を始めた。
最初のうちはミーリスと思われる目撃証言も得られたのだけど、アイツが泊まったという宿から先の情報が不自然なまでに途絶えた。
宿の店主も一泊だけで受け、翌日以降は全く姿を見ていないと心配していたくらいだ。
「クソ、明らかにおかしいだろ、この状況は」
人気の無い路地裏で焦りを吐き出す。
俺と共に来ていた騎士達は護衛の数人の残して情報を集めに行っている、彼らの方で何か得られればいいが・・・
「殿下!」
物思いに耽っていると騎士の一人が慌てた様子でこちらへ駆けてきた。
「どうした!?」
その様子から何か不測の事態が起きたのかと俺も駆け寄って声を掛ける。
「そ、それがっ!」
その騎士が息を切らせながらも報告を始め・・・俺は耳を疑った。
フェノムから少し北へと進んだ草原、そこに俺達は来ている。
先に来ていた騎士達が慌てた様子で魔導車と仮説のテントとを行き来する中、俺はオルヌスに案内されてそのテントの一つへと入る。
「ミーリス!」
「レオニル?どうして貴方までここに居るのですか?」
中央に置かれた椅子、そこに座っていたのは驚いた事にミーリスだった。
「どうしてじゃねぇよ!怪しい手紙やら足取りが途絶えたりだ、大騒ぎだったんだぞ!」
「あー、そういう事ですか・・・まぁ、恥ずかしい話なのであまり言いたくは無いのですが、実は・・・」
ミーリスにしては珍しい、苦笑いを浮かべるその様に俺は何とも言えない違和感を感じる。
いや、俺も俺で気が動転しているのは確かだし、一先ずはミーリスの話を聞かないとだ。




