40 旅の目的と意外な出会い
一悶着ありはしたけど、ようやく落ち着けた私は改めてオーフェと店内を巡っていた。
そもそも、私がこの店に来た理由はこの町を観光する為の道案内魔導具を探す為。
それを告げると、ようやく店主らしくあれこれ確認して、丁度いい物を見繕ってくれた。
暴走した挙句迷惑を掛けたからと、選んでくれたのは試作品の魔導具だった。
「これはですね、今度目玉商品として売り出そうとしてまして。これまでの単一的な案内ではなく、なんと地図を表示して、行きたい所を触るとそこまで案内してくれる優れ物なんですよ!」
はしゃぐように説明しながら、実際に操作をして見せてくれる。
手のひらに収まるサイズの魔導具に触れると、そこから町の全景が浮かび上がった。
どういう原理なのか説明してくれたけど、流石に全部は理解できなかった。
要約すると、どうやら地脈を利用して町中に設置された専用の特殊魔導具と共鳴、それらから情報を受け取る事で地形を認識して、それを投影しているらしい、、、うん、さっぱり分からない。
加えて、その浮かび上がった地図に触れると現在地からそこまでの道を案内してくれるというが、これもまるで分からない。
でもスゴイという事だけは分かったし、私としては願ったり叶ったりな代物なので、有難く頂戴する事とした。
「あ、お代は要らないので、代わりにそれの使い勝手とかを教えて欲しいんですよ。ある程度町を巡ったらこの店に来て下さいな~」
なるほど、体のいい実験台にされたか。まぁ便利なのは確かだし、それくらいならついでで済む。
「分かったわ。しばらくは町に留まるから、気が向いたら寄ってあげる」
「それでいいですよ~。毎度あり~ニシシ」
最後の笑いが若干怪しい気がしたけど、とりあえずは見逃そう。
ヒラヒラと手を振って店を後にすると、早速魔導具を起動する事にした。
私がこの国に来たいと思った理由。
生まれ育った町はフェオールとアンスリンテスを繋ぐ宿場町だった事もあり、多くの情報もまた、人と共に出入りしていた。
当然、アンスリンテス魔導国の情報も、この国の気質もあってたくさん聞いてきた。
その中で、特に私が気になったのが魔導具について。そしてもう一つ、興味を惹いたのが。
「これが魔導学院、、、」
目の前に聳える大きな建物。
魔導具の導きでようやく辿り着けたこの場所こそが、その理由である。
フェオールの王城を一回り位小さくした程度のそこは、この国のみならず、世界で唯一魔法について学ぶ事が出来る場所だ。
魔法と一口に言っても、実際には魔力についての基礎から、魔法のアレコレ、魔導具に関する知識等、およそ魔法が絡む物事全てを学ぶ事が出来る。
それ以上に魅力とされているのが、入学するにあたって必要とされるものは唯一つ、即ち、情熱である。
年齢も、性別も、生まれも育ちも、魔法を扱えるかなど全て捨て置き、ひたすら魔法について情熱を持ち、貪欲で、向上心があるか、それだけである。
だからこそ、この国は多くを受け入れ、世界に羽ばたかせる。魔導具の技術を世に放つ事を厭わないのもここの考えが基礎となっているからである。
そしてもう一つ、私がこの国に来た暁には必ず魔導学院に寄ると決めた理由がある。
大きな門を潜り、広大な庭園を進んだその先、開け放たれた玄関を抜けたその先にある受付へと向かう。
「すみません、体験見学をしたいんですが」
「あ、はーい。ではこちらにお名前と希望日数、見学したい内容を記入お願いします」
眼鏡を掛けた受付の女性から筆記具と用紙を受け取り、サラサラと書き込む。
この国についてからしばらくは名前と、髪とかも誤魔化してはいたけど、追手やお尋ね者情報も出ていないのを確認出来た時点で全てやめている。
全てを書き終えると用紙を受付に渡して、しばし待たされる。
その間に受付として開放されている広間をのんびり見回していると、
「おや、これはまた、何とも強い魔力をお持ちだ」
背後から声を掛けられて振り返ると、長い白髪に、これまた長いお髭を伸ばしたローブ姿の老人が立っていた。
だけどそれ以上に、その人から溢れる魔力に驚いた。並の人の数倍はあると感じてしまう程だ。
「目も宜しいようだ。突然失礼した、あまりの魔力につい引き寄せられてのう」
嬉しそうに目を細めたご老人は居住まいを整えると、流れるように軽く頭を下げた。
「私はグウェイブ・ランザーディル・アンスリンテス、この魔導学院の院長を務めております」
「い、院長!?」
思わず声が出てしまい、すぐに私も頭を下げる。
「院長様とは知らずご無礼を。私はリターニア・グレイスと申します」
内心焦りつつも、何とか言葉を紡ぐ。いや、まさかいきなり院長と出くわすなんて思わないでしょ普通!
「ハハハ、そう畏まらずに。ここは身分も年齢も、全てが魔法の下に平等。私も常日頃から学徒に混じっております故、お気になさらずに」
その厳かな見た目とは裏腹に、気さくに話す彼に私も気付かない内に強張っていた体から力が抜ける。
「ありがとうございます」
「学生ではありませんね。もしや見学ですかな?」
「はい、ここの噂はよく聞いていましたので、一度来てみたいと思っていまして」
私がそう言うと、これまた嬉しそうに頷いて、何と直々に案内をしてくれると申し出てくれた。
丁度案内の人からも声が掛けられ、院長と共に来た私に一瞬だけ驚き、しかし慣れた手付きで院長に後を引き継いだ。
受付さんの慣れた対応に、この院長様は普段からこうしているのだろうなと密かに苦笑いしてしまった。
第1章では王宮暮らしに軽く触れる事はありましたが、第2章で学院暮らしは特にありません。話が纏まらなくなるから!(笑)