399 秘めたる想い
聖痕の聖女 リターニア・グレイス
一先ず、私の置かれている状況をハッキリさせておきたい。
聖痕を使った無作為転移、その後に現れた暴漢モドキは何某さんの手の者であり、そいつは私を、いえ聖痕の聖女を求めている。
次に、私が居たのは南方大陸と呼ばれる地の北西辺り、新生フェオール王国の最北端に位置する場所だったらしい。
そこは色々な理由があって治安が悪いらしく、どうやら私は本当に危険な状況に置かれていたみたい。
で、私を助けた張本人たる何某さんはフェオールの末裔とは違う思惑で独自に私を探していた・・・その手段が何とも笑える話だけど、聖痕遺跡に来ていた一団、救世同盟という組織のメンバーの1人がスパイだったというのだ。
そして、300年以上を経て更なる改良を施された聖痕探知魔導具に私の聖痕が放つ力を記録させ、それを使って後を追った・・・そういった情報も即座に共有出来るようになったなんて、聖痕なんて無くても便利な世の中になったわね。
実際にそんな感じの皮肉を言ってみたけど、何某さんはまたしても困ったような笑みを浮かべて私を見つめるだけ・・・何なのだろう、そこに含まれている感情に覚えはあるのだけど、今の私にはそれが思い出せないし理解も出来ない。
邪神の影響故か、負の感情は敏感に感じ取れるのに、その逆の感情は全く分からない。
でも、それを悲しいとは思わない、思えない。
今の私が望むのはただ一つなんだから・・・
話が逸れたけど、暴漢モドキが私を連れて行った先はフェオール王国とは別の国、その名もガウルオム。
同じ南方大陸にあり、そこの南東に位置するその国は、今は亡国と成り果てている。
その原因を今、私は何某さんと見つめていた。
「あれがユル絶死圏。この南方大陸の中央に刻まれし生者を拒む地です」
言われずとも、私はそこに澱む邪神の瘴気を嫌と言う程に感じ取っている。
だけど不思議でもある、何せ邪神の領域はあの浮遊島であり、ここは寧ろ叛逆の狼煙が上がる地で、しかもそこにある4つの国の中央に存在しているのだ。
そんな場所に、本拠地に迫る領域を造り出す意味とは・・・
「この300年余りの時を、我らは闘い続けてきました」
まるで私の内に浮かんだ疑問に答えるように、男は語り出した。
「魔者や魔獣を相手に、我らは団結した・・・しかし、長く続く闘いは少しずつ人の心を疲弊させていきました。その結果、その者達もまた闇へと堕ちた・・・友が、仲間が、親しい者も見知らぬ誰かも、瘴気によって負の感情が増幅され、魔へと堕ちたのです。ユル絶死圏はそうして滅んだ国の成れの果て、負の連鎖によって永劫続く地獄と成り果てたのです」
「そういう事。邪神の意思とは関係無く、だけどある意味彼女の思惑通りの有り様に至った、まさにこの世界の末路の縮図ね」
私の皮肉に、今度は何某さんは無反応・・・但し、内に秘める怒りだけは燃え上がったようだ。
その感情を抑えながら、彼は努めて冷静に話を続ける。
「この南方大陸は北にある邪神の領域と、内に抱える絶死圏の両方に対応しなければならなくなりました。もしもこれが陸地の外周であれば、他国と連携して戦えたでしょう。しかし、あそこから溢れ出る魔なる存在はこの大陸にある4つの国に対して同等の勢力を差し向けたのです。結果、各国はそれぞれで対処せざるを得なくなり・・・我が国ガウルオムは滅んだのです」
詳細を敢えて省いたのは語りたく無いから、では無いのだろう。
認めたく無い、諦めたく無い、そんな感情が確かに感じられる。
まぁ、それでいて未だに正体を明かさないのも謎なのだけど・・・どう考えても亡国の王子様でしょうに。
ともかく、私が何処に居て何をさせられようとしているかは理解した・・・そしてこの男の目的も。
私との結婚は、謂わば政略的な物だ。
内外にガウルオムは健在であるとアピールすると共に、奪還したガウルオムが将来的に優位な立場になれるようにする為に聖痕の聖女の血を取り入れる・・・下卑た思惑よりかはまぁマシな扱いだろう。
何処かへと向かう魔導車の中、向かい合って座る私と彼の視線が合い、私はその顔を半目で睨み・・・男はそれを見て何故か頬を赤らめた・・・いや、何で?
「・・・何照れてるのよ」
「いえ・・・その、ですね・・・」
口籠る男がアチコチに視線を巡らせ、最後に意を決したようにもう一度私を見つめる。
「改めてですが、もう一度ちゃんとお伝えします・・・我が妻となって下さい」
「・・・聖痕の聖女の血がそんなに欲しい?言ったでしょ?私にはもう何も価値なんて・・・」
「いいえ、違います!」
突然の大声に、私も周りの連中も驚いて彼に視線が集中する。
それでも、彼は迷う事無く私の前に片膝を突くと、
「私のこの思いに邪な物は一切ありません。初めて貴女様の姿を見た時、その美しさに全身が貫かれたかの如き衝撃を受けたのです。私は貴女に出会う為に産まれたのだとさえ思った程に、一目惚れしてしまったのです。そんな貴女が側に居て下されば、私は如何なる困難にも立ち向かえましょう。邪神なぞ何するものぞ!そのような者も、あの絶死圏でさえもこの想いを阻む事など出来ますまい!どうか愛しの君よ、我が想いを聞き届け、受け入れては頂けませんでしょうか!」
「ちょっ、アンタ何を言ってるのよ!て言うか、私が恥ずかしいからやめてってば!」
あまりにも情熱的な告白につい言葉を失ってたけど、こういうのは時と場所を選んで欲しい。
流石の私もこれには困惑よりも羞恥の方が大きいし、何よりも周りの目が痛くて仕方が無いじゃない!




