397 予感
フェオール王国第一王子 レオニル・フェオール
今日の分の課題を終え、ようやく一息付けて体を伸ばす。
日々のあれやこれやに忙殺されている気分ではあるが、それも全ては将来の為だ。
まだ時期は決まっていないけど、そう遠くないうちに俺はフェオールを背負って立たねばならない、その為に今日も今日とて勉強勉強また勉強。
「レオニルお兄様!」
などと考えていたら、少し離れた場所で何かしらの本を読んでいたミレネアがトコトコと駆け寄って声を掛けてきた。
「ん?どうした、ミレネア」
「ミーリスお姉様はご無事でしょうか。聖女様の捜索に出られてから半月が過ぎましたが・・・」
心細気に俯く妹の頭を優しく撫でてやり、
「アイツが強いのは知ってるだろ?それに、レオンデルも様子を見てくれてるから、安心しろ」
俺の言葉にパァッと笑顔を浮かべたミレネアが元気良く頷き、また自分の座っていた椅子に戻って本を読み始める。
ミレネアは第2王女で今年で10歳になる俺の妹だ。
まだまだ幼さは残るが、ああして自分で色々と勉強したり、周りに気遣いも出来る良い子だ。
そして今話に出したレオンデルは第2王子で年は15、要は俺の弟だ。
今年学院を卒業したアイツは、王位継承権を放棄すると同時に国の情報管理部に就き、俺達のサポートに付いてくれている。
この前のマンベルからの報せなんかもアイツの下に届いているし、今回のミーリスの旅もアイツの所が裏からサポートしてくれていたりする。
何とも恵まれた環境であるが、だからこそ将来アイツらの上に立つ俺が泣き言なんて言ってられない。
今日の課題は終わったけど、今から復習と予習をしとかないといけないし、体も鈍らないように剣を振っておきたい。
ミーリスが面倒事を引き受けてくれたんだ、それを無駄になんてさせられないからな。
1日の疲れを風呂で流し、そろそろ寝ようとしていた時だった。
「兄さん、少しいいかい」
ノックの音と共に、何故か囁くように声を抑えたレオンデルが入ってきた。
「こんな時間にどうした・・・何があった」
その顔を見た瞬間、何かがあったと悟る。
「ミーリス姉さんから手紙が届いたんだ」
「ミーリスから?」
レオンデルが取り出した1通の封筒。
恐らく何処かの街で買ったありふれたそれをレオンデルが開け、中の手紙を俺に差し出す。
だが、その間も弟の表情はイマイチパッとしない。
「何が書いてあった?」
「とりあえず読んで欲しいんだ。兄さんの意見が聞きたい」
引っ掛かりのある言い方をする弟から手紙を受け取り、中を読んでみる。
要約すると、少々予定外の事は起きたが概ね順調である事、兵士達の士気も高く、道中も適度なリラックス状態を維持出来ている事、などなどが書かれていて、文末には目的の街の捜索が終わったら一度手紙を送る旨が書かれていた。
もう一度読み返し、違和感が無いかを確かめるけど特には・・・
「どう思う?」
レオンデルの声に顔を上げ、手紙をヒラヒラと振って見せる。
「いやぁ、特にはなぁ。普通の経過報告って感じじゃないのか?」
「そっか・・・兄さんでも気付かないのか・・・」
小声で呟いたレオンデルがそのまま考え込んでしまい、どうしたものかと視線を巡らせた時だった。
弟が持ったままの封筒、何故かそれが気になり、そっと引き抜いてそれを眺める。
特に変な部分は無いし、裏にはちゃんとミーリスの名前も・・・いや、待て。
「レオンデル、これは本当にミーリスからの手紙なのか?」
「・・・何か気付いたのかい?」
「アイツがこの手の手紙を出す時は本名は使わない。じゃなきゃわざわざ普通の便箋を使う意味が無い」
俺の言葉にレオンデルがハッとした顔で封筒を確かめる。
「そっか、そうだね。この手紙が真っ直ぐ僕の所に届いた時点でおかしいとは思ったんだけど、それのせいか」
「お前の勘はいつも正しいからな、よく俺の所に来てくれた」
「いや、問題はこれからだよ、兄さん。ミーリス姉さんの身に何かが起きてる・・・」
そうだ、この手紙はミーリスの無事を偽装した物、つまりアイツの後を追わせたくない何者かが居るという事・・・
「廊下が騒がしい?」
思考を中断させる足音が聞こえ、それはこちらへと近付いてきていた。
そして、
「レオニル様!夜分遅くに申し訳ございません!」
近衛の緊迫した声が聞こえ、レオンデルがすぐに扉を開く。
「何事かな?」
「っ!レオンデル様、こちらに居られましたか!今し方情報部の者が帰還したのですが、危急の事態故すぐにレオニル様にご報告申し上げる必要があるとの事です!」
振り返ったレオンデルに頷き、俺達はすぐに部屋を飛び出した。
城の中庭には人集りが出来ていたが、俺達が出てくるとそれはすぐに左右に割れ、道を作ってくれた。
その間を駆け抜け、介抱されている情報部員の側に屈み込む。
「どうした、何があった!?」
見ると、ソイツの体には幾つもの傷があり、中にはかなり深い物まであった。
「殿下・・・このような姿で申し訳ございません」
「構わん、報告してくれ」
「はい。ミーリス様一行は途中の街にて邪教神団の襲撃を受け、ミーリス様とプリエール殿を残し全滅。その後、我々を振り切るように魔導車は速度を上げて目的地へと向かい、その後完全に見失ってしまいました。二手に分かれ、追跡組と報告組とで別行動を取ったのですが、我らも何者かの襲撃を受けました」
「襲撃?相手は?他の者は!?」
「相手は不明、恐らくは邪教神団と思われますが、確証はありません。他の者は・・・皆・・・」
なんて事だ。
ミーリスを騙る手紙を見た時点で嫌な予感はしていたが、まさかこんな事態になるなんて・・・いいや、後悔するのはそれこそ後だ。
「トーレス!」
「ここに!」
騒ぎを聞いて駆け付けていた騎士団長を呼び、俺はすぐに指示を出す。
「救援部隊を作れ。ミーリスの身に何かが起きている!」
「承知!夜明けまでに出立準備を整えます!」
俺の言葉に力強く答え、トーレスが周りの騎士達を従えて走っていく。
「レオンデル、お前は情報を集めろ。どんな些細な事でも何かを感じたら全て俺に報告しろ!」
「分かりました、直ちに!」
他にも幾つか指示を出し、俺もまた父上の下へと向かう。
場合によっては、俺も出ないとならなくなる。
それに何よりも、アイツは俺の妹だ、その窮地を黙って見ていられる程薄情ではない。
「待ってろよ、ミーリス」
逸る気持ちを抑え、俺は大階段を駆け上っていった。




