395 堅牢なる要塞へ
フェオール王国第一王女 ミーリス・フェオール
翌朝。
シャワーで体を流し、鏡に映る自分を見つめます。
「・・・なんて夢を見ているのです、私」
何とも恥ずかしい事に、昨夜眠りに就いた私は思い出すのも悍ましい淫らな夢を見てしまいました。
それだけでなく、眠りながら手も動いてしまっていたようで、その・・・
「はぁ・・・」
深い溜め息を吐き出し、汚れてしまった物を洗濯魔導具へと放り込みます。
そして、もう一度自分の体、特にお臍の下辺りを確かめます。
夢の中の私、その姿は我が目を疑う程に妖艶で、しかもまるで聖痕のような紋様がその下腹部辺りに浮かんでいたのです。
勿論、そんな物はありませんし、ましてや、
「・・・聖痕が紅く光るなんて、有り得ませんよね」
軽く魔力を流して左手の聖痕を浮かび上がらせます。
淡い光を放つそれは、いつも通りで何故かホッとしてしまいます。
頭を振って気持ちを切り替え、出掛ける準備を整えます。
今日は物資の買い出しと、足となる船を調達に行くのです、余計な事を考える暇はありません。
既に準備を終えていたプリエール様と合流し、必要な物を売っていそうな店を探しに行きます。
とはいえ、今回もまた潜入となる上に、その難易度は先のものとは桁違い、となると必然、持っていける物も限られます。
「魔導具の類はやめましょう。要塞島は魔力検知が厳重と聞きます、迂闊な物を持ち込めばそれだけで居場所がバレる危険があります」
以前学んだ知識を引っ張り出しながらプリエール様と共有していきます。
「なるほど。となると、魔法は極力控え武器による攻撃、それも暗器の類が良さそうですね」
自然な動きで店を流し見ていたプリエール様が、その視線をある店へと向けました。
「あそこならそれなりの物が揃えられそうですね」
その視線を追って私も確認しましたが、確かに普通の武器屋とは趣が違う感じがします・・・その雰囲気のせいでしょうか、その店の周りにだけ人が寄り付いていない気がします。
「・・・何だか、怪しげですね」
「そういう店ほど掘り出し物があったりします。ご安心下さい、念の為私の力で探ってみましたが、何も不審な点はありませんでしたよ・・・」
そう告げ、そのまま真っ直ぐとその店に向かうプリエール様。
「・・・?」
一瞬、その姿に違和感を感じますが特に変化は無いので、多分私の気のせいでしょう。
すぐに後を追って私も歩き出しました。
古めかしいドアを開き、中へと足を踏み入れます。
「アラ?いらっしゃ〜い」
店の佇まいとは正反対の明るい、何処か甘ったるさすら感じる声が奥から聞こえました。
見ると、店員らしき女性がニコニコと笑みを浮かべながら私達を見つめていました。
驚きというか不自然というか、こんな店には似つかわしくない若い女性が慣れた手付きで背後の棚に飾ってあった短剣を手に取り、
「お探し物はコレ?」
まるで、こちらの心の内を見透かしたかのようにそう告げました。
私もプリエール様も表には出さないように警戒しつつ、答えます。
「何故、そう思うのです?」
「フフ、これでも武器屋の主人ですよ?お客様の身形、体付き、体の動かし方、そういった情報から何を求めているかを導き出すのは当然です」
そう話しながら彼女がゆっくりと立ち上がりこちらへと近寄ってくるのですが、何故かその動きが爬虫類のそれを連想させます。
「それに、私を警戒してらっしゃる・・・でしょ?」
貼り付けたような笑みのまま、彼女が私とプリエール様の背後へと周り込み、間に割って入ってきたのです。
「えっ・・・」
「・・・何を」
私とプリエール様の声が重なり、しかしそれを遮るように女の手が私の腰に回されました。
どうやらそれはプリエール様も同じのようで、何かを言い掛けていた口を噤んで俯いてしまわれました。
「プリエール、様?」
「アラアラ、こちらの方は素直ですねぇ」
そんなプリエール様の頬を女が舐め、ゆっくりと此方へと顔を向けてきます・・・いえ、どうしてプリエール様も、そして私も彼女を振り解こうとしないのでしょう・・・
「ん〜?中々しぶといですねぇ。やはり聖痕保有者には効き辛いんでしょうか」
「ぁ・・・な、にを・・・」
彼女の言葉が引っ掛かりますが、頭がボンヤリとして何も考えられなくなっていきます。
何かがおかしいと彼女の手から逃れようとしますが、逆にその手が私の顎を掴み、無理矢理視線を合わせられます。
「ご遠慮なさらないで?行きたいんでしょ、要塞島に」
「そう、です・・・」
「良かったぁ、ちゃあんと暗示は掛かってるようね。フフ、おバカさん達ったらホントに世話が焼けるんだから。寄り道した時は流石に驚いたけど、まぁこの後を考えたら刺激的よね」
彼女が何を言っているのかも分からず、だけどその瞳を見ていると何もかもがどうでも良くなってきます・・・そう、まるで蛇のように縦に裂けた瞳から、私は全く視線を逸らせないのです。
反対では、いつの間にか床に蹲って自身を慰めるプリエール様、その姿に何故か羨ましいという感情を抱き、
「お楽しみは後にしましょうね〜。ではでは、2名様を愛欲の坩堝へとごあんな〜い!」
意識が途切れる寸前に見えたのは、女の背から生えた翼と、私の目を覆う尾のようなものでした。




