392 悪意の集う街
フェオ―ル王国第一王女 ミーリス・フェオール
謎の襲撃者を退け、私とプリエール様の二人だけとなってしまった旅路。
一応、フェオールへ事の顛末を綴った手紙を送りはしましたけれど、例え応援が派遣されたとしても私達には追い付けないでしょう。
従って、ここから先は私とプリエール様の二人だけで進まねばなりません。
しかし、不安はありません。
プリエール様が語って下さった想い、それは私の想像を遥かに超えるものでした。
そしてそのような御方を遣わせて下さったミデン様、その御覚悟も。
ですから、私が泣き言など言う訳にはいきません、必ずや聖女様を見つけ出すのです。
それから長い道のりを経て。
今、私達が居るのは目的としていた街を見下ろせる小高い丘の上。
予定よりも更に早く到着出来たのですが、
「まさか、プリエール様があれ程に魔導車の運転に慣れておられるとは思いませんでした」
「長く生きていると色々と経験をしますので」
恥ずかしながら私は魔導車の運転はからっきし、反対にレオニルは早くから運転技術を磨いていて国内でも随一の運転手でもありますが、プリエール様の運転はそれを更に上回る程の腕でした。
最小限の揺れしか感じないのにかなりの速度を出されていて、しかし怖いと感じない程の安定感で、まだまだ掛かると思っていた旅程がかなり短縮されたのです。
ですが、こうして現実を目の当たりにするとその感動も消えてしまいます。
「まさか、本当に街一つが占領されているなんて・・・」
望遠魔導具で街の様子を観察しているのですが、想像以上に酷い有様です。
建物は幾つかが破壊されたり燃やされたりした痕跡があり、無事な建物は寝床に使われているようなのですが、時折何処からか連れ去られてきたのであろう女性が引き摺られていくのも見えてしまいました。
中で何が行われているかなど考えたくもありませんが、目を背ける訳にはいきません。
今すぐにでも飛び出していきたい所ですが街に居る者達、当初はただの犯罪者集団だと思っていたのですが、一部だけ明らかに異質な者達が混じっているのです。
彼等は外壁の上で近付く者が居ないかを監視しており、街の中の事などまるで無関心かのように視線すら向けません。
私の隣で同じく街の様子を観察していたプリエール様が小さく溜め息を吐き、
「・・・塀の上に居るのは邪教神団の者達ですね」
呆れた様な、だけど僅かな怒りを滲ませた声を漏らします。
「邪教神団ですか?彼等が何故ここに・・・いえ、まさか」
「はい、彼等がわざわざこんな所に居る理由は一つでしょう」
予想を遥かに上回る状況です。
邪教神団がここに居る理由など、聖女様以外にはありません。
「遅かったという事でしょうか」
「まだ分かりません。そもそも、邪教神団がリターニアを狙う理由が無いのですから」
プリエール様の言葉に私は彼女へと向き直ります。
「理由が無い、ですか?聖女様は邪神の脅威となるから、排除しようとしているのでは?」
私の問いにプリエール様もこちらへと向き直り、首を横に振ります。
「いいえ。実際に会ったミーリス様ならばお分かりでしょうが、もうあの子にそんな力はありません。邪神と別たれ、聖痕も奪われている。確かに、あの子は存在自体が邪神によって創造されてはいますが、今更それを取り戻したところで大きな意味も無い。邪教神団が独自に脅威と見做している可能性もありますが、であれば街の状況が謎となります。みすみす危険な存在を生かす必要が無いのですから」
確かに、言われてみればその通りかもしれません。
それに、あの悪辣たる邪教神団の事ですから、万が一にも聖女様を討ち果たしたとなればさぞや大々的に喧伝して回る筈。
それすらも無いという事はやはり聖女様はまだ生きておられ、そして恐らくはあの街に囚われたままという事になります。
状況と情報を確認し、一度魔導車に戻った私達は今後の策を練り始めました。
「応援を待ちたい所ですが、悠長にもしてはいれません」
「そうですね。邪教神団がリターニアをどうするつもりなのかは分かりませんが、何時までもあのままという事も無いでしょう」
危険ではありますが、逆に私とプリエール様だけであるなら潜入するという手も打てます。
プリエール様も同じ考えのご様子で、私が口にせずとも静かに頷いて下さいます。
ですが、問題なのはそこから先、
「あとは聖女様が何処にいるかさえ分かれば良いのですが・・・」
「残念ながら、ここまで近付いても尚あの子の気配は感じ取れません。となれば、恐らくは結界の内に囚われている可能性があります。それもかなり強力な・・・ですが、そちらは私が何とか出来るでしょう」
プリエール様にはあまり無茶をして欲しくはありませんが、今回は私も相応の覚悟を決めなければなりません。
更に作戦を詰め、装備を整えた後に日が沈むのを待って、私とプリエール様は魔導車を近くの林に隠して占領された街へと向かいました。
林の中で風を纏い、姿を周囲に溶け込ませるのですが、これはプリエール様の神力を用いています。
魔力を感知する魔導具がある可能性を考慮してですが、私の魔力を温存するというプリエール様の提案でもあります。
そうして夜闇に紛れて、何事も無く私達は街の外壁に取り付く事が出来ました。
「では、手筈通りに。どうかお気を付けください、ミーリス様」
「プリエール様も、どうかご無理はなさらずに」
短く言葉を交わし、私達は外壁に沿ってそれぞれ別方向へと別れていきました。




