390 北の地で待ち受けるのは
フェオール王国第一王女 ミーリス・フェオール
3日後。
私とプリエール様、そして護衛の兵士8名を含めた計10人による聖女捜索隊が編成され、速やかに準備を整えた後、フェオールを発ちました。
目的地までは魔導車で30日程掛かりますが、今回はなるべく早めの到着が望ましいので少し急ぎ気味で走り、25日程度での到着を目指します。
その為、途中の街には物資の補給以外では立ち寄らず、車中泊による強行軍で進む事になります。
ですので、今回集められた兵士は皆女性となっております。
勿論、彼女達は皆最前線での戦闘を経験した猛者ばかりであり、私も実戦経験を積んでいます。
ですので、あと確認すべきなのは、
「ところでプリエール様、不躾な事をお聞きしますが、戦闘経験はどれ程でしょうか」
その問い掛けに、プリエール様はゆっくりと私に視線を向けると、
「・・・武器を用いた戦闘でしたら、それなりを自負しております。しかし、魔法について残念ながらこの体になってからは全く扱えなくなっております」
その返事に、私は間違いを犯してしまったと気付きました。
プリエール様の状態について直接話して頂いたのに、その可能性について微塵も考えが及んでいませんでした。
「ごめんなさい、とても失礼な事を聞いてしまいました」
「構いません、戦力を把握するのは指揮官の務めです。それに、この体も色々と便利です。例え胸を貫かれようと、首を切り落とされようと私は死にませんから、その隙を突く事もっ・・・」
彼女の話を遮り、思わず手を握り締めてしまいました。
ですが、私にはこれ以上聞き続ける事など出来ません。
「その様な策は私が許しません。例え貴女自身の意思であったとしても、それは死の苦痛を何度も経験する事に他ならないのですからっ!」
果たして私の言葉は届いたのか、プリエール様は返事をする事無く、ただ無言で私を見つめていました。
そこで、漸く理解しました。
プリエール様が何故こうも感情の起伏が少ないのか・・・きっとこの300年の間、今語ったような事を何度も繰り返してきたのでしょう。
命尽きる事は無くとも、痛みを感じない訳では無いはず。
であれば、死に至る苦痛を何度も何度もその体に刻まれた事になる・・・そんな事を続けたら、やがて体よりも心の方が壊れてしまう。
そんなのは、あまりにも悲しい結末です。
ですから、私の側に居る間だけでもその様な捨て身の策は使って欲しくは無いのです。
何処かギクシャクとする中、魔導車は嫌になる程順調に進んでいきました。
幾つかの街を迂回し、領を通り抜けて10日程が過ぎた頃。
道程としては半分程といった辺りでしょうか、地図で調べた際に目印としていた街で休憩と補給をしている時でした。
「何だか街の様子が変な気がします・・・」
共に居る部隊長にそっと耳打ちします。
「はい、私も同感です。住人達が何かに怯えているような雰囲気を感じています」
さり気なく視線を巡らせながら彼女も私と同じ事を告げました。
今し方買い物をした店の主人も、擦れ違う人も、何故か私達から露骨に視線を逸らすのです。
そしてそのまま足早に歩き去る・・・それを誰もがしているのです。
これは明らかに異常、ですがその原因が分かりません。
そもそも、私達がここに来る事など王城の極一部の者しか知り得ませんし、服などの外見も一般の人に紛れるように変えてあります。
外から来た旅人を爪弾きにする、何て事もあると聞きますが、少なくともそれは我が国では行われていないはず・・・
「ミーリス様っ!」
突然、鋭い声と共に隊長が私を押し倒しました。
「くっ、敵襲!」
彼女が顔を顰めながらも声を上げると、物陰から護衛をしていた他の隊員達が飛び出してきます。
「っ!矢が!」
私を庇ったのは、飛来した矢を躱す為であり、しかしそれは彼女の右肩辺りに突き刺さってしまったのです。
「すぐに治療を!」
「ここから離れるのが先です。敵の姿どころか、気配すらっ・・・ゲフっ!?」
突然、彼女が口から大量の血を吐き出し、そのまま倒れそうになり、その体を咄嗟に支えます・・・が、
「そんなっ・・・隊長」
その時点で既に彼女の息は止まっていました。
矢に塗られた毒、それも短時間で死に至る強力な物が私達に向けて放たれていたのです。
「ミーリス様!お逃げ下さいっ!」
悲鳴染みた声に顔を上げると、隊員達は何処から現れたのか分からない者達と交戦しており、しかも次々に切り伏せられていたのです。
私に逃げるよう叫んだ兵士も、その胸を短剣で貫かれて地面に倒れ伏してしまい、あっという間に私一人が残されてしまいました。
「何者です!街中でこの様な事をっ!」
「ミーリス・フェオール。情報通りだ、捕獲しろ」
全身黒ずくめ、更には顔も目元以外覆われていて性別すら判断出来ない彼らの内の誰かが告げ、次の瞬間には襲撃者が私の腕を抑えて無理矢理立たせます。
「情報通りと言いましたね、貴方方の雇い主は何者です!?」
先程聞こえた言葉を問い質してみますが、予想通り返事は来ません。
代わりに腕を背中で締め上げられ、身動き一つ取れなくさせられてしまい、そして・・・




