36 プロローグ・転生魔王、逃げる
第2章、開幕で御座います。今度は重くない、楽しい話になるはずです・・・多分
ここから読みやすいように書き方や文字数を変えていこうと思います。
変わらずの御贔屓をよろしくお願いします!
まったく、どうしてあろうことか、魔王である私がコソコソ逃げ回らないといけないの!
薄暗い路地を脇目も振らずに駆け抜ける。
自分の荒い息が耳障りだけど、今は身体強化を掛ける訳にはいかない。
魔力を感知されたら即座に追いつかれる。
魔王と言えど、体自体はごく普通の18歳の女なのだから、魔法で強化を施さねばこの程度でしかない。
定期的に後ろを振り返り、追手が居ないかを確認する。
遠くから足音は響くが、とりあえずすぐ近くにまでは迫っていないみたいだ。
一度立ち止まって呼吸を整えるべく、膝に手をついて、肩を大きく上下させる。
霞みがかる頭でこの後どうするか知恵を振り絞る。
流れる汗も無視して、周囲に意識を向ける。
(とりあえず何処かに隠れる?いや、この国に空き家なんてなさそう。でも逃げ回るのもそろそろキツイかも)
何とか落ち着いてきた体を起こし、天を仰ぐ。
魔導具によって映し出されている今夜の空模様は満月。
人工的な月明かりは明る過ぎて、身を隠すのにはあまりに不利過ぎる。
というか、多分私を探す為に光量を上げているかもしれない。
堪らず顔を顰めてしまう。
頼る手も無く、逃げ道も無い。
強引な手を使えばどうにかなるけど、寧ろあいつ等はそれが狙いかもしれない。
流石の私も、100年の間に進歩した技術に後れを取るとは思わなかった。
聖痕1つとはいえ、まさか魔導具に抑え込まれるとは思いもしなかった。
変人が多いとは聞いていたけど、まさか世に出してない、ぶっ飛んだ性能の魔導具を開発してるなんて!
「こっちに人の気配があるぞ!」
マズい、意識を逸らし過ぎた。
幾つかの足音が段々と大きくなってくる。
迷っている暇はない、覚悟を決めるともう一度走り出す。
「囲い込め!地の利はこちらにあるのだ、第1や第2の小娘共に後れを取るなど許さんぞ!」
野太いおじさんの声が響き渡る。わざわざ魔導具で声を拡大しているようだ。
「教導院より先にあの方をお迎えするんだ!学院生の本気を見せる時だぞ!」
今度は若い、感覚的には私と同い年か、下くらいか。それに応えた声もやはり若く感じる。
「都市の安寧の為にも、私達が先んじて接触するのです。焦らず、確実に、敵意は無いと示しなさい!」
妙齢の女性の声が静かに、だけどはっきりと届く。この人達は一応友好的な接触をしようとしているみたいだ。
「今回ばかりは目立ちたくないとは言わせませんよ!第2に日が当たる好機ですよ!」
「えぇ~、そういうのは他に任せましょうよ~」
気合の入った男の声に、気怠げな声の女性が答える。こちらは内部の温度差が激しいのかな。
「フフフ、あの方は私が最初に見出したのです。新たなる研究の為、そして私の為、必ずひっ捕まえてみせます!」
最後の声は、もはや思い出したくも無い。私がこんな状況に追いやられた元凶だ。次に会ったらぶん殴ってやる。
そんな決意を秘めながら走る。ひたすら走る。
せっかく自由になったのに、また厄介事に巻き込まれるなんて真っ平御免だ。
そんな私の願いも空しく、様々な思惑が入り混じった声が響き渡った。
「「「「「聖痕の所有者を我らの手に!」」」」」
新たな国、新たな登場人物、新たな物語、色々とやりたい事があるので、引き続き頑張っていきます!