表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生聖女の逃亡放浪記〈総合評価520&110000PV感謝!〉  作者: 宮本高嶺
第九章 オセリエ伝統皇国・エオール革新統国相克記 後編
359/363

359 その先へ

聖痕遺跡、その結界は余りにも脆かった。

軽く触れるだけで砕け散り、何かが起こる訳でも無く。

だけど、その地はやはり邪神が封じられた場という事もあり、降り立つだけでも相当に不快感を感じてしまう。

「何だか拍子抜けね」

「要だからこそ、手出しせずにおったのやも知れぬのう。しかし、それにしては不用心が過ぎるがな」

「うげぇ。何だかここの空気、甘ったるくて気持ち悪いですよぅ」

二人の言う通り、余りにも何も無く、聖域故か私達には相性が悪い。

だけど、それとは別の何かを感じていて、それはどうやら私だけのようだ。

前に来た時にはこんな感覚は無かったから、恐らく邪神の力に目覚めたせいだろう。

だけど、その感覚は嫌なものではなく、寧ろ心地良いというか、懐かしい感じすらしている。

「、、、気のせいね」

言い聞かせるように呟き、遺跡へと歩き出した。


木々の間を抜け、あの小さな石室へと辿り着く、、、その前に、一つの影が立ちはだかる。

「予想通りよな」

待ち構えていたネイが口を開く。

まぁ、その台詞は私としても同じものではあるのだけれど、だからこそ分からない事がある。

「待っていたにしては、罠も何も無いのね?」

「今更そのような手が通じるなど思うてはおらぬ。寧ろ、この先へ案内するつもりで居た」

ネイの言葉の意味が分からず、思わず眉を顰めてしまう。

だけど、どうやらそれ以上を語るつもりは無いらしく、踵を返すと石室の中へと入っていく。

どうやら付いて来いという事なのだろうけど、一体何を考えているのだろうか。

ともあれ、ネイがそう言うのなら何を見せてもらえるのか楽しみにしておくとしよう。

そう考えながら石室に足を踏み入れ、、、


気付いた時には、景色が一変していた。

「空が、、、近い」

まさに、手を伸ばせば届きそうな程に近く感じる空。

だけど、今は夜のはずなのに何故青空が広がっているのだろうか。

「おお、何とも懐かしき地よな」

隣に立つスコーネが珍しく柔らかな笑みを浮かべて、何かを懐かしむ様に目を細めてその景色を眺めていた。

「何だか綺麗な所ですねぇ」

フェアレーターでさえも、いつもの感じとは少し違う目で地面や空を見回す。

それに倣う様に私も辺りを見回し、少し先に人影が立っているのを見つける。

私達以外ならネイしか居ない、そう思って声を掛けようとして、

「、、、違う」

その影が、ネイではない別の何者かと気付いて目を丸くしてしまう。

ここは邪神の魂が封じられし地であり、かつての神々が過ごしていた地でもある。

そして今は、何者をも寄せ付けない場所のはず、、、なのに。

「これこそ、其方をここへ招いた理由じゃ」

背後から現れたネイが前へと出ていき、人影へと歩み寄る。

「久しいの」

「ワルオセルネイ様、お久しゅう御座います。あれから如何ほどの時が過ぎ行きましたか?」

「数千年といった所か。メルダエグニティスの封印の為とはいえ、シゲルムごと其方らも眠らせねばならぬかったからのう」

「我等皆、世界の為と運命を定めました。しかしそうですか、やはり封印は、、、」

親し気に話し掛けるネイとは対照的に、敬う様に首を垂れたまま話をするもう一人、その姿に何か違和感を感じ、すぐにそれに気付く。

「噓でしょ、、、アイツ、人じゃない」


両目の聖痕で確かめてみたけど、この地に居た影は人の姿をしながら人では無かった。

でも、だからといって神だとか、ましてや魔物でもない。

「一体何なの、アレは」

隣のスコーネに声を掛けてみると、いつの間にか鋭い目つきへと戻っていた彼女が低く唸るように話す。

「アレはかつての住人じゃ。古き人、と言えば伝わるか」

「古き人、、、つまり、神々の時代に生きていた人?」

「そうじゃ。ああ、我もようやく思い出したぞ。神の住まう地、シゲルム。そこには神だけでなく、人々も住んでおったのじゃ。まぁ、飼われていたとも言えるがな、故に、彼奴らに名は無い。ただ当然の様に神に仕え、清らかな魂のまま死へと至る、憐れな家畜じゃよ」

そんな事だろうとは思った、けれど、そんな連中をも巻き込んでまでこのシゲルムと呼ばれる地を封じるなんて、、、

「神ってのは何処までも傲慢なのね」

「故にメルダエグニティスは神を憎み、人を嫌う。まぁ、その本心はついぞ誰にも理解出来なんだがな」

もしも同じ光景を邪神が、いえ、もう彼女をそう呼ぶのは止めだ。

メルダエグニティスがこんな光景を見ていたのだとしたら、人を虫扱いするのも納得だ、、、あれは、意志の無いただの物だ。

そんな存在に、一体何を見出せと言うのだろうか。

そして、そんな奴と言葉を交わすネイは一体何を思っているのだろうか、問い質さないといけない。

会話を終えたネイがこちらへと戻ってくる、けれど、厳しい視線を送る私に気付いたのか、ある程度まで来て足を止める。

視線に込められた私の意志を感じ取ったのか、ネイは暫し口を閉じたまま私と向かい合う。

その背後、例の人影は何をするでもなく、ただじっと私を見つめていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ