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転生聖女の逃亡放浪記〈総合評価520&110000PV感謝!〉  作者: 宮本高嶺
第九章 オセリエ伝統皇国・エオール革新統国相克記 後編
356/364

356 そして魔王が誕生した

愛。

それは一体何なのだろうか。

きっと、全ての人がそれは祝福だと答えるだろう。

だけど、私にとっては呪いと成り果ててしまった。


母が最期に残した言葉によって、正気を取り戻してしまった少女。

だけど、その先に待ち受けているのは父と母の死体と、己の手に残る命が散る感触だけ。

そんなものを十歳の子供が受け止められる訳など無く、

「、、、」

最後に選んだのは、自らの死、、、そのはずだった。


胸の聖痕はそんな事さえ許さず、私を突き動かした。

心が壊れた体を操り、手当たり次第に命を貪り、その果てに。

「メルダエグニティス!」

「、、、」

「貴様あああああああああああああ!!!」

ネイが見せた事も無い怒りを露わにし、少女へと飛び掛かる。

無防備なままそれを受けて組み伏せられる少女。

その虚ろな瞳に、ネイが更に怒りを膨らませる。

「何という、、、痛ましい事を、、、違う、これは妾が招いた事。なればこそ、、、責務を果たすのみ。例えそれが、この子に恨まれる事になろうとも、、、」

ネイの手が胸の聖痕へと伸ばされる。

それに抗う様に紅い光が奔り、だけどネイはそれを意に介さずに聖痕に触れる。

「無駄な足掻きじゃ。ここは妾の領域、裏でコソコソとしておったようじゃが、ここで仕舞いじゃ!微睡みの彼方へと失せるが良い!」

その体から眩い光が放たれ、それに抑え込まれる様に紅い光が消えていく。

その最後に、

「無駄、ねぇ。本当にそうかしらね?」

少女の口から、少女とは思えない言葉が放たれる。

「!?」

それに気付いたネイが手を離し、だけどその時にはもう少女は気を失い、聖痕も光を失っていた。


それから数日後。

少女は目を覚まし、だけどそれだけだった。

あるゆる事に一切の反応を示さず、ただベッドに横たわるだけの存在。

その横で、

「、、、記憶を消すしかない」

ネイが少女の頬を優しく撫でながら呟く。

それに対して答えなどあるはずが無く、、、


「本当に宜しいのですか?」


ネイの隣に現れた全身をローブで覆った謎の人物。

その小柄な何者かはフードを取り、ネイに首を垂れる。

「グレイスか。マンベルの巫女が何用じゃ」

グレイスが、マンベルの巫女?

突然齎された情報、だけど今の私にそれをどうこうする暇など無く、

「、、、女神様の望みを果たしに」

「、、、この子を殺すか」

「いいえ、違います」

ネイの言葉を否定し、真っすぐに彼女を見つめるグレイス。

その口から、衝撃の言葉が告げられる。


「この子の内に入らねばなりません。邪神の復活を阻止する、、、その為にこの子の魂を護らねばなりません」


ネイが弾かれる様にグレイスの肩を掴む。

「何を言うておる!それが何を意味するか分かっておるのか!」

「無論です、ネイ様。だからこそ私自らが出向いたのです」

一度目を伏せた後、開いた目を少女へと向ける。

「、、、私と大差無い年齢の少女が、このような過酷な運命を歩まされているのです。この魂を賭す覚悟で無ければ何も成せません」

「愚か者が。其方とて幼子じゃろう、それが何を悟ったかのような口を聞くか!」

そうか、グレイスは確かに私と同じ位の年齢だった。

でも、こんなにも小さい頃からマンベルの巫女をやっていたなんて、、、

「ネイ様」

宥めるような口調のグレイスに、ネイが気勢を削がれて一歩下がる。

「、、、済まぬ」

「いいえ、大丈夫です。それよりも、大事なお話が御座います」

覚悟の込められた言葉に、ネイもまた平静を取り戻して頷く。


眠り続ける少女、その横でネイとグレイスが言葉を交わす、、、それは、私にとっても無視出来ない内容だった。

「今はまだその時ではありません。邪神が封印の彼方へと押し込まれ、こうして私も動ける様になりましたが、この子の内に入れば事情は変わります」

「、、、そうじゃな。既に魂は彼奴の領域とされておろう。今この時に其方が入り込めば即座に排除されてしまおう」

「故に、策を講じます、、、この子の記憶を消すと同時に、改竄を行ってください。この子と私が敵対するように」

、、、まだ、続きを聞かないと。

「如何にする?今更其方を悪とするなぞ、世が許さぬぞ?」

「、、、、、、彼女を」


そういう事か。

グレイスは、邪神に悟られない様にする為に私の記憶を弄らせた。

私のした事をそのまま残し、だけどそれは全て私の意思であったと。

それを裏付ける為に、ネイは兵を出し、そこから始まる事となる、、、魔王の物語が。

記憶が抜けていたり、妙な違和感があったのはそのせいなのだ。


「、、、じゃが、内にある負の感情はどうする。それが膨れてしまえば、彼奴の餌にしかならぬぞ?」

「、、、それは全て私が引き受けます。長い年月を掛ける事となりますが、そうすれば彼女は最後の手段を取る事となります」

「、、、移痕の儀か、、、本当に良いのか?それでは其方が全てを背負う事になるのだぞ?」

グレイスは少女の顔を見つめ、険しいままだった表情を微かに和らげる。

「マンベルに産まれ、巫女を継いだ時点であらゆる覚悟をしております。そう育てられましたから、、、ですが、この子は違います。何の責務も咎も無い子が何も報われず愛される事も無いなど、私は見過ごせません」

「、、、妾からすれば其方も同じぞ。それに、始まりは仮初と言えど愛し子を悪とせねばならぬなど、、、、、、これも我が罪か」

ネイの言葉を最後に二人は視線を交わし、グレイスは転移で去る。

そして、ネイはもう一度少女の頬を撫で、部屋を出て行った。

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