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〈第二部開幕〉転生聖女の逃亡放浪記  作者: 宮本高嶺
第九章 オセリエ伝統皇国・エオール革新統国相克記 後編

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355/381

355 求めた答え

時は流れ、少女は十歳を迎えた。

数年の時は少女の心の傷を癒やし、だけどその顔に笑顔が戻る事は無かった。


ネイに連れ出され、ささやかな誕生祝をしたその帰り道。

少女と二人きりで夜道を歩くネイが、ふと思い出したかのように少女に何かを差し出す。

「、、、これは?」

「祝いの品じゃよ。渡し忘れてしもうてな」

差し出されたそれを、少女は無表情で受け取る。

「、、、小物入れ、ですか?」

「そうじゃ、中に妾からの贈り物も入っておる故、帰ってから一人で見るのじゃぞ」

「、、、ここでは駄目ですか?」

「むぅ、、、こんな事をしたのは初めて故、小恥ずかしいのじゃ」

小さく笑みを零すネイ。

それに釣られてか、少女の口元が微かに上がる。

それに気付いたネイが、だけど敢えて触れる事無く優しい笑みを浮かべて少女を見つめていた。


これも、私の記憶にある事だ。

確か中には手紙が入っていて、物だけじゃなくて思い出も仕舞っていけ、みたいな事が書いてあった。

いや、重要なのはそこじゃない。

あの小物入れ、あれは地下で見つけたあの箱だった。

確かに、あんな箱の事だけは憶えていない。

何なら嫌悪感すら抱いた代物なのだ、大事にしたとは思えない。

きっと、この後に何かが起こるのだ、、、だって、十歳の誕生日は、私が、、、


それは唐突だった。

ネイの庇護下に入ったお陰で抑えられていた邪神の聖痕の力。

それが突然発動し、世話係の女性を死に至らしめた。

少女は何が起きたのか分からず、周りの大人達は慌てふためき、そして。

「全員直ちに出て行け」

ネイの言葉に、彼等が逃げる様に去っていく。

あとに残されたのは、少女とネイ、それと、

「、、、妾の領域でよくもやってくれよった。この借りは必ず返すぞ」

女性の亡骸に触れながらそう呟き、ゆっくりと顔を上げて少女を見つめる。

「其方は無事か?」

「、、、はい、私はだいじょうぶです」

何処か険しいネイの口調に、少女が俯いて答える。

それに気付いたネイが慌てて笑みを浮かべ、少女の頭を撫でようと手を伸ばし、

「っ!?」

それはネイ自身も無意識だったのだろう。

伸ばされた手は頭を撫でる事は無く、まるで弾かれる様に少女の頬を叩いてしまった。

乾いた音が部屋に響き、ネイが己の手を見て呆然をする。

そして、

「、、、ごめんなさい」

少女は赤くなった頬を抑えながら小さく謝り、部屋を飛び出して行ってしまった。

「なっ、違うのじゃ!リサよ、済まぬ!済まぬ!」

僅かに遅れて駆け出すネイ。

だけど、その僅かな時間が全ての始まりとなった。

十歳の少女の足では遠くには行けない、そのはずだったのに、ネイから離れたその数瞬こそが邪神の狙っていた事だったのだ。

聖痕が発動し、少女は転移をしてしまった。

気が動転したネイはそれに気付けず、館や周囲を探し回った。

そしてもしやと思って部屋へと戻り、それに気付く。

「、、、何故、リサの部屋がメルダエグニティスの領域と化しておるのじゃ。いいや、違う。リサが居た事で逆に悟らせなかったのか、、、妾の体が無意識に動いたのは、それが原因か、、、よくも!」

全てに気付いた時にはもう手遅れだった。

そして、悲劇の幕は開かれた。


転移した少女が辿り着いたのは、生まれ故郷のすぐ近くだった。

遠くから漏れる灯りを追って歩いた少女は、一軒の家へと辿り着く。

暗くて良く見えなかったからその時は気付かず、だけど窓からそっと中を覗き見て気付く、、、そここそが少女の帰りたがっていた場所だと。

そして、家の中の光景こそ少女が夢見続けていた帰る場所で、、、




「誕生日おめでとう、リーナ」

「おめでとう!」

「わーい、ありがとう!パパ、ママ!」




あれは、誰?

なんで、私の場所に、知らない子が座っているの?

どうしてパパとママは、あんなに笑顔なの?




それが切っ掛けだ。

もしももう少し大人だったら、気付けただろうか。

もしもネイに叩かれていなければ、冷静になれたのだろうか。

もしも、そう、もしもだ。

結局、全ては仮定の話でしかない。

例えその光景が、聖痕を介して見せられた幻覚であったとしても、私にとってはそれが現実だった。

怒り、悲しみ、虚しさ、絶望、、、十歳の子供が、その心が、そんなものに耐えられる筈が無い。

立て続けに起きた事に、遂に少女は昏い場所へと落ちていった。

そして、代わりに現れたのが、もう一人の私、、、邪神メルダエグニティスだ。

正確に言えば、彼女の魂を上書きされた私だけど、それは最早些細な事だ。

ドアを破壊し、寝ていた両親を襲い、殺した、、、それだけだ、、、


「リサ、、、なのか?」

突然、声が聞こえた。

顔を上げると、何故か視点が低い、、、いや、これは、あの時の私の目線?

「生きて、いたのか、、、?」

父の顔が恐怖に固まる、、、違う、あれは抑えきれない喜びの表情だ。

「そんな、、、どうして、、、」

母の顔が怒りに歪む、、、違う、あれは涙を堪えているんだ。


だからどうした。

私からすれば、二人とも私を捨てて暢気に生きていた裏切者だ。


だから、殺した。

胸の聖痕に己を委ね、感情のままに。

「ぁ、、、リ、サ、、、ご、めん、な、、、」

だから、父の最後の言葉なんて知らない。

「リサ、、、守れなくて、、、ごめん、ね、、、」

だから、母の最期の言葉なんて知らない。


だから、私は、、、





















「リサ、、、いつまでも、、、愛してるわ、、、」




響く悲鳴。

それは町の人のものではなかった。

そう、母の最期の言葉に正気を取り戻してしまった、私のものだった。

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