353 魂を呑む
思わぬ形で目的を達成出来たけど、果たしてスコーネとフェアレーターは何処に飛ばされていたのか。
「間に合って良かったですぅ!アイツ、私達を大陸の外にまで吹き飛ばしやがったんですよぉ!」
「我も少々油断した。よもや、ワルオセルネイがああも迷い無く元の姿に戻るとは」
それで、大急ぎで戻ってきたという事か。
まぁ、ネイとしても最早私を殺すしか無いと悟って、確実にそれを実行しようとしていたのだろう。
だけど、何だか得体の知れない何かを感じるのは気のせいだろうか。
先の戦いにしてもだし、この二人にしたって本気で排除しようとしていたらフェアレーターは成す術も無いし、スコーネだって結界に封じ込めてしまえば無力化出来たはず。
そう考えてみると、全てネイの思惑通りとも思えて、唯一の誤算は私の暴挙くらいだろう。
あの時の慌てぶりは演技には見えなかったし、結局はあれで撤退を決めたようにも思えてくる。
「、、、考えても無駄ね。二人共、よく戻ってきたわ」
得意げに胸を逸らすスコーネと喉を鳴らして私に擦り寄るフェアレーターに声を掛けて、改めて視線をネイの館へと向ける。
果たして、ここに何が隠されているのか、それを暴いてやろう。
静寂に満たされた館の中、私達の足音だけが虚しく響き渡る。
人気は勿論無く、あるのは私によって魂を喰らわれた抜け殻だけ。
悪食が過ぎたと自分でも思うし、胸の辺りが苦しく感じるのは気のせいでは無いだろう。
まぁ、所謂食べ過ぎというやつだ。
余りにも大量の魂を喰らった反動が出てきているけれど、それもその内治まる。
そんな事よりも、今はやるべき事に集中しよう。
「前に来た時もだけど、何となく変な感じがするのよね」
「変、ですかぁ?」
「うむ、確かに何かがあるのう。しかし、これは一体、、、」
相変わらずなフェアレーターはともかく、スコーネも何かを感じ取ってはいるらしい、けれどそれが何なのかはやはり分からず。
となると、魔法的な阻害では無く、神の力による封印とかだろうか。
もしそうだとしたら、それだけ厳重に隠そうとした何かとは一体、、、
「スコーネ?」
いつの間にか足を止め、壁を見つめるスコーネに気付いて声を掛ける。
「、、、この壁、何とも言えぬものがあるのう」
呟く彼女の隣に立って同じ場所を見つめてみる。
一見、何も無いただの壁であるけど、、、いや。
右目の聖痕で壁とその周囲の魔力の流れを見てみると、ある一点にだけ集中する所がある。
罠という感じはしないし、魔力である時点でこれはネイの手によるものでは無く、他の者によって施されたものだと分かっている。
そしてその術者はこの館の中で死んでいて、それでも効果が残っているという事は魔導具の類。
となると、答えは、、、
「スイッチね」
念の為に指先へ魔力を集めておき、スイッチに触れる。
すると、小さな音と共に壁が天井へと上がり、人一人が通れる通路が現れる。
「おお、やはり聖痕には敵わぬ。しかしまぁ、何とも面妖な絡繰りじゃのう」
目を丸くするスコーネと、その隣で呆けているフェアレーターを促して現れた通路へと進む。
狭い通路の先は階段だけがあり、それを降っていく。
かなりの距離の階段の先、微かに灯された魔導具の光に導かれて辿り着いたのは、小さな部屋だった。
館とは違い、地面の土を掘り返したままの武骨で、何処か寂しさを感じさせるその部屋の奥に、小さなテーブルと、その上に置かれた小さな箱が一つ。
「、、、スコーネ。あの箱に近付きたくないんだけど」
「奇遇じゃな、我もだ」
「うぅ、、、何だか寒気がしますようぅ」
それを見た私達全員が思わず足を止め、不快感を口にする。
そう、たかが小さな箱一つが、これまでの何よりも恐ろしく感じるのだ。
体の奥底、つまり魂が感じ取っているのだ、、、あの箱には触れてはいけないと。
だけど、、、そんな物を何故ネイが持っているのか。
こうまでして隠し、だけどあっさりと放棄していったのか。
「、、、二人はここに居なさい」
ゆっくりと足を踏み出し、箱へと近付く。
一歩踏み出す度に魂が震え、それが体へと伝わってくる。
それを抑え込み、箱へと距離を詰めていく、、、そして。
「、、、何だか吐きそう。いえ、いっそ何もかも吐き出してしまいたくなるわね」
手を伸ばせば触れられる距離、そこで感じる不快感は想像を遥かに超えるもので、だけどだからこそ確かめないといけない。
何故なら、この感覚を私はかつて感じた事があるからだ。
「、、、まさか、ヤーラーンのアレと繋がるなんてね」
そう、ヤーラーンで見たあの青い宝石、結局何も分からず仕舞いだったそれと、この小さな箱は全く同じ感覚を齎している。
この二つは、きっと本質的には同じ物だ。
ヤーラーンではラウの手が加わり悪意に満ちた兵器へと成り果て、多くの命を喰らった。
だとすれば、、、この箱もきっとそうだ。
だからこそ、魂が恐怖している、、、これはきっと、魂を呑み込む物だ。
そして、他ならぬ私が恐怖を抱くという事はつまり、、、