35 エピローグ・真説、聖痕の伝承
聖痕を持つ者には、多大な責務と、力が伴う。
そんな序文から始まるその石碑には、太古より受け継がれてきた聖痕に関する伝承が記されている。
半分程は、聖痕を得たならば果たすべき使命がある、などと負うべき責任、背負わされる使命が刻まれており。
そこから先には、聖痕が危険な側面も持つと警告が記されていた。
特に警鐘を鳴らす出来事として、ごく最近の歴史、かつてあった魔王との戦いについてが挙げられている。
魔王と呼ばれた存在、しかしそれもまた聖痕を宿し、それ故人々から迫害を受けたのだ。
その果てに、その者はいつしか魔王と呼ばれ、自らそう望まれたと猛威を振るった。
ならば、魔王を生み出したのは、他ならぬ当時の人々ではないのか。
聖痕について正しい知識を知らなかったから、知ろうとしなかったから。
魔王は生まれた。そして魔王を斃す為に、別の聖痕を持つ者が立ち上がり。
そうして、聖痕が絶対的な物ではないと訥々と記された石碑は、フェオール王国王都ブライテス、その中央の広場に置かれた。
誰もが目に触れられるように、決して忘れてはならない事があると後世に伝え続ける為に。
そして、
歴史に記される事の無い、一つの真実。
100年の時を経て起きた一つの事件。
それについて、石碑にはこう記された。
魔王を討つために身を捧げた、かつての聖女、グレイス・ユールーンの真実。
そして、長い時を経て、聖女の祝福を受けた一人の女性による、蘇った魔王の討伐。
その真実を知る者は、一様に口を揃えたという。
その者は、役目を果たして、姿を消した、と。
だが、もしも人々が大事な事を忘れてしまったら、彼女は再び戻ってくる。
聖痕と共に。
その時、果たして現れるのはどちらなのか。
聖女か。
魔王か。
それは、本人しか、知り得ないことだろう。
これにて本当に第1章完結でございます!ここまでお読みいただきありがとうございました!
第2章もお楽しみに!