表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生聖女の逃亡放浪記〈総合評価520&110000PV感謝!〉  作者: 宮本高嶺
第九章 オセリエ伝統皇国・エオール革新統国相克記 後編
348/364

348 代償

私の言葉にトゥテラリィの顔が凍り付き、だけどその意味に気付いて怒りへと変貌する。

「テメェ、性根まで腐りやがったか!」

猛々しく吼え上げ、だけどありったけの理性で飛び掛かるのを堪える。

「あら、意外ね。私の言葉を信じるの?」

「クソが。テメェ、さっき一瞬だけ巫女さんの魂の気配を出しやがっただろ。オレがそれに気付かねぇワケねぇだろ」

そう、彼の言葉通り、私は彼に向けて巫女の魂を解放すると言った際にわざと彼女の気配を表出させた。

これは勿論、私が嘘を言っていない事を示す為でもあるけれど、本当の狙いは別にある。

「オレを手駒にしようってか?いいや、テメェの狙いはそんなモンじゃねえな」

「へぇ、本当にお利口ね。じゃあ、私が何の為に餌を撒いたと思う?」

私の問いに彼は更に怒りを見せ、体を震わせる。

だけど、それ以上は何もしない、、、いや、出来ない。

それも当然の事、私の中にはまだ巫女の魂が残っている、敢えて消化し切らずに残している。

「アンタを倒すのに力は要らなかったわね。私を殺せばあの子の魂も共に消える、、、本来の流れに戻れない魂はこの世界に留まり、余分な魔力となってやがて魔物を産む。見てみたい?あの子の魂から産み出される魔物を。その魔物が人々を、世界を脅かすのを」

そう、これは私に取り込まれた魂の運命だ。


メルダエグニティスが担っていた魂の管理、神々が居なくなった今も、それは自然の摂理として機能し続けている。

それは偏に、メルダエグニティスが今も尚死んではいないからであり、邪神を殺せなかった理由の一つだ。

本来なら、他の神が担う事になる筈だったのに、その神々も邪神との戦いで居なくなってしまった。

遥かな時が流れた事で、魂の管理自体は世界を維持する摂理として固定化されたけど、あくまでそれは魂の巡りだけ。

一度の人生で蓄積された穢れは、魂から分離はされても浄化はされず、それはやがて魔力となって少しずつ少しずつ世界へと放たれていく、、、それこそが、邪神の策の一つである事に誰も気付かなかったが故に。

神々が邪神を倒し切れなかったのはその力の差だけでは無かった、この魂の管理を取り戻す必要があり、だからこそ封印という形を取った。

そして、聖域に魂を封じる事でその力を削ぎ落とし、いつか封印を解いて邪神の持つ役割を取り返すつもりだったのだ、、、私という誤算を見抜けぬままに。


仮に、私が存在していない状況で邪神の封印が解けたとしたら。

最終的に行き着く結末は変わらないだろう。

だけど、そこに至る過程は途轍も無く長い時間が必要となる。

となると、神々の代弁者たる巫女の下、聖痕を持つ者達によって邪神は討ち果たされる可能性も生じるのだ。

邪神はそういった些細な可能性をも徹底的に潰す、、、その為に私は居るのだから。


怒りに震えながらも手を出す事の出来ないトゥテラリィと、その様を見て笑みを堪え切れない私。

既に勝敗は決したけれど、恐らくそれでも彼は諦めはしないだろう。

何せ、私を睨む目から戦意は失われていないどころか、より強くなっているのだから。

そんな様子の彼を見ていて、ふと一つの事に思い至る。

私は今後の為に幻獣と戦ってみたいと考えていたけど、そもそもそんな事をしなくてもいい。

今の私は他者の魂を取り込み、それを力にする事が出来る。

幻獣は神と同等の力を持つ存在だ、そんな魂を取り込み、余さず糧とすればそれで十分事足りる。

彼に向けた言葉は本気ではあったけど、いつ飼い犬に手を嚙まれるか分からない不安材料を抱える位なら、、、

「それで、どうするの?私の付く?それとも誇りある死を選ぶ?或いは、、、」

問い掛け、答えを待つ。

そんな私の態度に、これが最後の問いだと彼も理解して逡巡しているようだけど、、、どうやら答えは決まっているようだ。

「、、、オレの負けだ。巫女さんの魂だけは、あるべき輪廻に戻してくれ、、、頼む」

項垂れるように膝を突き、地面を睨むトゥテラリィに私は笑みを溢してしまう。

何とか声を上げるのは我慢し、後ろに下がったスコーネとフェアレーターを呼んで彼の元へと近寄る。

「スコーネ、そいつを抑えて」

スコーネがトゥテラリィの肩に手を置き、抑え付ける。

「んな事しなくたって逃げねぇよ。今のオレに出来るのは、せめて巫女さんの魂が次に向かえるようにする事だけだ」

「見上げた忠誠心ね。なら、最後まで受け入れなさいね?」

彼の最後の言葉を聞き流し、その胸に手を当てて魔力を流し込む、、、その赤い光に、トゥテラリィが目を見開いて私を見上げる。

「なっ、テメェ、これはっ!?」

幾ら弱っていようと流石は幻獣といった所か、私の真の意図に気付いたようだけど、スコーネに抑え付けられた体を動かす事は出来ず、そもそも私が触れた時点でもう終わっているのだ、、、私の聖痕と彼の魂は繋がった。

確かに、人とは比べ物にならない程に強く眩しい魂ではあるけど、念入りに心身を疲弊させているのだ、最早彼に抗う術は無い。

そして、

「テメェだけは永遠に許さねぇ!!!」

「さようなら、憐れな幻獣様」

私と彼の言葉が同時に放たれる、、、そうして終わりを迎えたのは唯一人、あとには静寂だけが残されたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ