334 燃ゆる町にて
町の状態は想像以上だった。
見渡す限り、あちこちから火の手が上がり、既に多くの人が倒れている。
それに、建物も幾つか崩れていたり、他にも戦闘の痕跡が見受けられた。
「中々順調ね」
「はい、先に飛空機関船を奪った奴らを招き入れたんです!」
そういえばそんな連中もいたわね、色々あってすっかり忘れていた。
あの混乱で情報はこちらに届いていなかっただろうから、そいつ等は先んじて島に降り立って潜伏していたのだろう。
統制はフェアレーターが取れるから、その指示で動き町を攻めた、といった所か。
とは言え、所詮は有象無象、この結界が展開された時点で殆どが身動きすら出来なくなっているだろうけど、駒らしく最低限の仕事はしたようだし、見掛けたら魂を喰らってあげよう。
「それにしても、結界の起点になるような物なんて何処に隠しているのかしらね」
燃える町の中を歩きつつ、周囲を見回すけどそれらしい物は見当たらない。
それに、結界のせいで魔力の流れも追えないから少々厄介ではある。
手当たり次第吹き飛ばしてもいいのだけど、それもまた結界に干渉されるだろうから面倒だけど、、、
「、、、」
「あれぇ~?」
視線の先、噴水広場となっているそこに人影が一つ、私達を待ち構えるかのように佇んでいた。
私もだけど、それ以上にフェアレーターは目を丸くして驚いているけど、それも仕方が無い、、、何せ、彼女は目の前で顛末を見ていたのだから。
「、、、よくも、その子まで巻き込みましたね」
静かな声に、ありったけの怒りが込められているのが嫌でも伝わる、、、そして、それは私にとってとても心地が良い。
「いいの?その感情は私に利するわよ?」
私の言葉に冷静さを取り戻したのか、影はゆっくりと右手を動かし、私へとその指先を突き付ける。
「この結界があろうと、今の私では貴女を止められないでしょう。ですが!例え、残りの手足を失おうとも、娘だけは返して頂きます!」
叫びと同時に膨大な魔力が渦巻き、広場を取り囲む。
どうやら逃がす気は無いらしい、なら、思う存分楽しませてもらうとしましょう。
「フフ、面白いわ。死に損ないに今度こそ終わりを与えてあげるわ、、、オイト」
片手片足を失い、実の母からも命を狙われ、そして今目の前には魔物へと変貌した娘の姿。
これだけあれば怒りなんて感情では生温い程の激情に駆られてもいいのだけど、流石は教導者と言った所か。
失った手足、その先から魔力で編んだ擬似的な手足を形成し、こちらへと向かうオイト。
狙いはただ一人、この私。
「ダメですよぉーだ!」
それを阻むのはフェアレーター、踊る様に私の前へと身を晒し、だけど敢えて何もせずにオイトの振り被った左手にその身を晒す。
「っ!」
私の与えた魔力によって変貌を遂げた肉体ではあるけど、顔貌自体は元のままなのだ、それを殴るなど母親ならば出来やしない。
そして、それは致命的な隙を生じさせ、
「アハハ、はいざんねーん!」
その行動を嘲笑いながら、フェアレーターがオイトの頭を躊躇い無く蹴り飛ばす。
一切の容赦の無い一撃に、オイトは瞬きの間に近くの建物の壁へと激突、そのまま中まで吹き飛んでいく。
「気を付けなさい、フェアレーター。首を斬られたはずなのに生きているなんて、まともじゃないわよ」
「そうですよねぇ〜、もしかして幻影だった?なら、あの人ったら私すら信用してなかったって事?、、、ふざけやがって」
いつもの口調から一転、唐突に怒りを見せた彼女が地面を蹴り飛ばしてオイトの後を追って建物の中へと飛び込んでいった。
左目の聖痕で中の様子を見てみると、中々に面白い光景が繰り広げられていた。
瓦礫の中から這い出し立ち上がったオイト。
そこに、フェアレーターが飛び込んだ勢いのまま両足を揃えて蹴りを喰らわせたのだ。
一瞬だけ目を見開いたオイトの姿が見えなくなり、直後数軒離れた建物から轟音が響く。
それを追ってみると、煙の中から蹴り飛ばされたオイトが全身血塗れになりながらもゆっくりと立ち上がる姿が見えた。
そしてそこにゆっくりと歩み寄るフェアレーターも。
何か言葉を発しているようで、口元が動いているのが見えたから、私も後を追ってみる。
「お前もどうせ、出来の悪い私を見下してたんだろ。何をやっても人並みにすら届かない、だから蒐集者にして追い出したんだ!」
「わた、し、は、、、」
ふむふむ、どうやら恨み節をぶつけるフェアレーターと、言葉を発するどころじゃないオイト。
察するに、そんな状態のオイトをフェアレーターが言い訳に詰まっていると勘違いしているようだ。
「見てよ、私はもう弱虫なんかじゃない。お母さんだって殺せるくらい強くなったんだから!」
「お願い、、、目を、覚まして、、、」
震える手を伸ばしながら涙を流すオイトり
その手を、フェアレーターは躊躇いなく魔法で切り落とし、そして。
「今度こそ、、、死んじゃえ」
無慈悲な言葉と共に、オイトの首が宙を舞った、、、
「それが、貴女の本音なのですね、、、」
その声と共に、目の前のオイトの姿が掻き消え、代わりに私の背後から強烈な魔法が放たれた。