333 崩れゆく心
地面へと倒れ伏すプリエールと、その体を何としてでも受け止めようと駆け出す巫女。
そして、その隙だらけの姿を見逃してあげる私では無く、無防備な巫女の首目掛けて鎌の刃を振り下ろし、、、
「っ!?」
突然、寒気を感じる程の殺気がぶつけられ、咄嗟に飛び退る。
「プリエール!何故!?」
その間に巫女がプリエールの下へと駆け付け、その体を抱き起こす。
端から見れば感動的で反吐が出る光景だけど、私はそれどころでは無い、、、何故なら、
「嫌な気配が濃くなったから飛んで来てみりゃ、コイツは何の冗談だ、ええ?」
私と巫女を遮る様にして、一人の男が立っていたのだ。
一体何時、何処から、どうやって現れたのかまるで分からなかったけど、唯一つ言える事がある。
「アンタ、幻獣ね?」
「おうよ、ワリィが巫女さんを殺らせるワケにゃいかねぇんだ、オレの使命だからな。つっても、こんな状況になるまで気付けなかったんだから、マヌケにも程があるわなぁ」
砕けた口調ではあるけど、その実一切の隙が無いどころか、気を抜けば一瞬でこちらの首が切り落とされる、そんな確信さえ抱いてしまう程に目の前の男が纏う気配は尋常ではない。
「トゥテラリィ様、、、」
「ワリィ、遅くなっちまった。相変わらずメルダエグニティスの瘴気は厄介だぜ、、、クソが」
巫女に声を掛けられた男、どうやらトゥテラリィという名らしいけど、ソイツが巫女の頭を優しく撫でる。
そのまま視線をプリエールへと向け、そして、
「トゥテラリィ様、彼女は、、、」
「分かってる。相変わらずクソみてぇな事しかしねぇよな、あの腐れ邪神様はよぉ。だがよ、、、あの嬢ちゃん、まだ自分のままだぜ?」
流石は幻獣、私の事もお見通しらしい。
「ならどうする?おしおきでもする?」
挑発の笑みを浮かべて鎌を構える。
「ああ?テメェ、オレとやり合おうってぇのか?いい度胸じゃねぇか!」
果たしてあの幻獣が怒っているのは私の言葉か、或いは巫女を泣かせた事か、まぁどちらでもいい、、、どうやら間に合ったようだからね。
「なら、望み通りぶっ飛ばして、、、ぬぉ!?」
トゥテラリィが飛び出そうとしたその瞬間、空から何かが降って来て奴が派手に吹き飛ぶ。
そのまま地面に突き刺さったそれはすぐさま飛び上がると私の横に降り立ち、
「カカカ!ようやくお目覚めか、良い気配を纏うておる!」
人の姿のスコーネが豪快に笑いながら私に首を垂れる。
「未だ完全では無いとは言え、まずは祝福を。以後、我は其方の僕として存分に暴れようぞ」
「あっ!それズルいですぅ!私も私も!たっくさん殺しますからね!」
いつの間に戻って来ていたフェアレーターが張り合うけど、まぁこの子は好きにすれば良いと思う。
それよりも、まずすべきなのは。
「っだああああ!やりやがったなぁ、スコーネェ!」
「ギャンギャン吠えるな、トゥテラリィ」
同じ幻獣同士、やはり既知の仲らしい。
二人が睨み合い、それだけで周囲に膨大な魔力が迸り始める。
私とフェアレーターも身構え、いつ何が起きてもおかしくない状況へと変わったその時。
地響きの様な音が聞こえ、それと同時に体に重圧が掛かる。
「これは、、、結界?」
「ハッ!時間通りだ、流石は巫女さんの護衛だぜ!」
トゥテラリィが軽く視線を上げて彼方を見つめる。
それで、まんまと嵌められた事を悟る。
「コイツ、意外と策士ね」
「うむ、昔からこういう狡い真似ばかりしよる。じゃが、此度は我も迂闊じゃったの」
「バカスコーネまで抑え込めるたぁ思わなかったがよぉ、お陰で手間が省けた。言ったろ?オレの使命は巫女さんを守る事だって」
勝ちを宣言したトゥテラリィ、奴は戦闘態勢を解くとプリエールの亡骸ごと巫女を抱き上げ、そのまま転移で姿を消してしまう。
それと同時に、体に掛かる圧がより一層強くなり、気を抜くと地面に膝を突いてしまいそうになる。
「中々に面倒な結界ね」
「うぅ、、、何だかイライラしますよぉ」
私やスコーネはまだしも、魔物へと生まれ変わったばかりのフェアレーターは相当辛そうで、立っているのもやっとという感じだ。
正直、このまま放っておいてもいいのだけど、せっかくの手駒だ、ここで潰すには少し惜しい。
「この規模、島全体を覆っているわね。となると、起点は四方かしら」
「強化もしておるのう。であれば、起点以外にも幾つかの結節点がありそうじゃ」
確かに、スコーネの言う通りだろう。
それに、これだけの規模で、尚且つこれだけの効果が発揮出来るなんて、術者も相当な手練れだ。
「スコーネは結節点を探して破壊しなさい。フェアレーターは私と来なさい。起点を潰すわよ」
私の命令にスコーネは迷う事無く頷き、駆け出していく。
結界のせいで飛ぶ事が出来ないのだろうけど、それでも彼女の足なら問題無いだろう。
私も自分の仕事を済ませる為に、まずはここから一番近い東側の起点を探しに行く。
何も言わずとも付いてくるフェアレーターと共に林を抜け、未だ火の手が上がり続ける町へと向かう。
「フフ、、、」
果たして、そこにはどんな素晴らしい景色が広がっているのだろうか、それを想像しただけで思わず笑みを浮かべてしまうのだった。




