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転生聖女の逃亡放浪記〈総合評価520&110000PV感謝!〉  作者: 宮本高嶺
第八章 マンベル・秘されし者達の蒐集録
327/364

327 予感

空へと飛び立った飛空機関船。

遠く離れたスコーネは、こちらに視線を向けこそしたものの、特に何かをするでも無く私達を見逃した。

そうして海の上を悠々と飛んでいく飛空機関船ではあったけど、船内の雰囲気は重く苦しい。

あれだけ明るかったデゾイトなんかがいい例だろう、母に庇われ、その結果手足を失わせる事態を招いたと自責の念に囚われているのが透けて見えるようだ。

いや、私も人の事は言えない。

こうして長い時を経て転生したのに、結局はまたこうして悲劇を齎す結果になったのだ。

(いえ、何を今更、よね。ここに至るまでにも何人も殺して、結局滅んだ国だってあったじゃない。これが魔王の所業じゃなくてなんだって言うのよ)

自身の考えを否定する、それすらも最早惨めな足掻きでしか無い。

そして、そんな私を嘲笑うかの様に船は海を超え、次なる町へと降り立とうとしていた。


この事を知ったら世界中の研究者達は卒倒するか、怒り狂うか。

中央大陸の北、海路では立ち入る事すら出来ない海の先にまさか陸地が存在していたなんて。

大きさとしてはヤーラーンの本島より少し小さい位だろうか、そんな島がぽつんと海の只中にあった。

飛空機関船の甲板から見下ろすその島の様相もまた、これまでに見た事が無い形だった。

面白い事に、島の外周に沿う形で町が作られていて、中央には多くの飛空機関船が降りれるように広場が整備されているのだ、、、それも、町よりも遥かに大きく。

現状、その広場には一隻の飛空機関船しか停まっていない、、、但し。

「なんて大きさ、、、」

思わずそう呟いてしまう程に、その船は巨大だった。

何せ、広場の半分以上をその船が占領しているのだ。

「あれは来たる時に備えた特別船です」

静かに隣にやってきたプリエールが重々しく口を開く。

「数代前の巫女様より受け継がれてきた一つの予言、、、聖痕が満たされし時、邪悪なる者は戻る、と」

「、、、何だか、何処かで聞いた様な話ね」

思い出したくも無い事だけど、かつての私が残した一言、それは一人の女によって予言へと仕立て上げられた。

結果的にそれは現実となったけれど、、、今となってはそれすらも怪しく思えてくる。

(まさか、アルジェンナも邪神の影響を受けた?元々、そんなに心の強い子では無かったけど、、、それとも、それも聖痕のせいなの?)

これまでの事を思い返すと、その全てに邪神の手が掛かっていたのではとすら思えてしまう、、、特にウルギス、ヤーラーン、この二つの国には。

もしも、本当に邪神の意思とやらが全ての事に関わっているとしたら、私のここまでの旅は一体何だったのだろうか、、、誰かの思惑通りに動いていた、哀れな操り人形に過ぎないのだろうか、、、


鬱々とした考えに囚われた私を乗せた飛空機関船が広場は降り立つ。

そこで待ち構えていた人達が手際良く動き回り、移動桟橋が接舷される。

何かしら決まりがあるのか、乗ってきた人達は右舷側から降りていき、左舷側からは数人の人影が登ってきた。

「っ!オイト!」

その中の一人、かなり高齢な女性が悲鳴染みた声を上げながらオイトへと駆け寄る。

名を呼ばれた彼女は、多少の驚きを見せつつも予想はしていたのか、デゾイトの肩を借りながらゆっくりと立ち上がる。

「お久しぶりです、母様」

「何を呑気に!報せを聞いた時は血の気が引きましたよ!ああ、なんて事、、、痛かったでしょうに。それにデゾイトも、無事で何よりよ」

「お婆さま、、、私は、その、、、」

聞こえてくる会話からすると、オイトの怪我の原因までは聞いていないようだけど、その所為でデゾイトが居心地悪そうな俯いてしまう。

それを察したオイトがデゾイトの頭を優しく撫でながら、三人で船から降りていく。

「、、、」

「あの御三方が気になりますか?」

無意識の内に三人の背を目で追っていたのだろう、私の隣に立つプリエールがそっと声を掛けてくる。

その姿に、有りもしない記憶の底から誰かの影が浮き上がり、自然と言葉が溢れる。

「、、、私に残ってる家族の記憶は、恐怖に歪んだ両親の顔。その前には、慎ましくも幸せな時間があったはずなのにね」

「っ、、、リターニア様、、、」

「私は私の意思で全てを壊した、、、もしもそれが、私以外の何者かの意思が関わっていたのだとしたら、、、あの日あの時抱いた私の思いは、一体何処に行けばいいのかな、、、」

プリエールからの返事は無い。

それはそうだろう、こんな事をいきなり言われても、答えようが無い。

何よりも、私以外に理解なんて出来る訳も無い。

だけど、、、今ならまだ間に合うかも知れない、だから。

「プリエール」

「何でしょうか」

桟橋へと歩き出す。

何故かは分からない、だけど、きっと私が彼女と言葉を交わせるのはこれが最後な気がする。

だから、ちゃんと伝えておく。

彼女なら、私の母と血の繋がった彼女なら、聞き届けてくれるだろうと。




「、、、私が魔王に戻ってしまったら、邪神を目覚めさせてしまったら、迷わず殺してね」




答えは待たない。


これは、頼みでは無い。


これは、願いでは無い。




世界を守る為に必要な、、、犠牲なのだから。

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