316 疑心
事態を把握した私達。
とりあえずその場は一度解散となり、オイト達教導者勢は今後の事を話し合う為集積堂に残った。
そして、私とスコーネはデゾイトと共に町に戻り、一先ず休む事になった。
「何だか大事になっちゃいましたね」
何故か肩を落としてしょんぼりするデゾイトが、それでも何とか明るく振舞う。
彼女としても、突然の事に色々と混乱しているだろうけど、それでも任された役目を全うしようとしている姿には好感が持てる、、、色々と扱いやすいからね。
オイトとしても、そこは評価しているみたいだけど、それ以上に疑う事を知らない性格に危惧を抱いているようだ。
だからこそ、蒐集者として世界を見て回り色々と経験を積ませたいのだろうし、今もこうして仕事を任されているのだろう。
その彼女は一人気合を入れ直したようで、顔を上げて最初の頃に見せていた笑みを浮かべている。
その視線がとある建物に向けられ、次いでクルリとこちらを振り返る。
「着きましたよ!お二人にはここにお泊りいただきます!」
到着したのは小さいながらも二階建ての家だった。
多少古そうではあるけど、手入れはされているようで見た目は悪くない。
デゾイトは懐から鍵を取り出すと扉の鍵を開け、中へと入っていく。
その後に続いて私とスコーネも家の中へと入る。
「へぇ、中は綺麗じゃない」
「ほほぅ、これが人の住まう巣か。狭いが居心地は悪くなさそうじゃ」
中は手入れどころか、家具なんかも揃っていて今すぐに住む事が出来る程に整えられていて、スコーネどころか私も声を漏らしてしまう。
「ここは本土から来た人や特別なお客様にお使いいただく場所なのです。まぁ、大抵の場合は知り合いの家なんかに行っちゃうので、実はここが使われるのは初めてなんですけどね~」
だからデゾイトもどこか嬉しげなのか。
多分、この町に住む人が手入れやらをしているはずだから、それがようやく利用されて苦労が報われたって所か。
なら、せっかくの持て成しだ、存分に堪能させて頂くとしよう。
「おはようございますー!」
朝から元気なデゾイトの声に顔を上げる、、、途端。
「うわー!リターニアさん、どうしたんですかそのお顔!すんごーく疲れて見えますよ!?」
「あー、ごめん、もう少し静かにしてくれるかな、、、」
彼女の目に映ったのは、昨日よりも疲れ果てているであろう私と、
「人とは何とも不便な生活をしておるのだな!じゃが、中々に面白いぞ!」
こちらも朝からご機嫌なスコーネ。
いや、正直予想をしておくべきだったのだけど、スコーネが人里での過ごし方を知っている訳が無かったのだ。
その結果、一晩中あれやこれやと世話を焼く羽目になり、しかもコイツと来たら眠りを必要としないらしく、結局夜通しで面倒を見る事になってしまい、、、つまり、私も全く眠れていないのだ。
「あわわ、何だか分かりませんが、とにかく今日の予定は変えてもらいましょう!」
そんな有様の私に気遣ってくれたデゾイトが慌てて飛び出していき、それと同時に私も気を失う様にして眠りに落ちたのだった。
そんなこんなで、目を覚したのはその日の夕方近く。
デゾイトに呼ばれて駆け付けてくれたらしいオイトが色々と手回しをしてくれたらしく、今は夕食を作っている最中のようだ。
「起きましたか、昨夜はご苦労様でした」
「なんだか色々やってくれたみたいね、ありがとう、手間を掛けさせたわね」
「いえ、スコーネ様に関する事情を把握していなかったこちらの不手際です。しかし、、、本当にあの方は幻獣様なのですか?」
挨拶もそこそこに、オイトは窓の外に目を向ける。
そこには、町の子供達と駆け回っているスコーネの姿があった。
その輪の中にデゾイトも混ざっていて、年相応か、より幼く見える笑みを見せていた。
「実は私も会ったばかりなのよ。断絶山脈の山頂を棲み家にしてたみたいで、私を観察するだとか言って、人の姿になって付いてきてるのよ」
「あの山の頂に、ですか、、、」
私の言葉に何か引っ掛かるのか、やや鋭い眼差しでスコーネを見つめながら何か考え始めるオイト。
だけど、私としてもスコーネの言葉を全て信じている訳では無い。
そもそも、幻獣なんて呼ばれる存在すら知らないのだ。
確かに、彼女の持つ力は人の域を越える物だし、私の様に聖痕を持っている訳でも無い。
でも、だからと言って彼女が未知の生物と判ずるのはまだ早い。
更に、私を観察するという目的も何だか怪しくて、少なくとも彼女の目的は、オイト達のそれとは別物だ。
確かに、時々スコーネの視線を感じる事はあるし、彼女も敢えてそれを隠していないのだけど、そこに込められた感情は、、、傅くに値するか否かを見定める切実な物だ。
私がそんな事をされる理由は無い、、、けど、もしもこの身の内に潜む者に対してだとしたら、その意味合いは大きく変わる、、、邪神に傅く、即ち、私達の敵となる。
顔を上げ、オイトの視線を追って窓の外を眺める。
子供達と戯れて笑みを見せるスコーネの姿を、果たして信じても良いのだろうか。




