312 蒐集者
オイトに連れられてやってきたのは、町の西にある広場だった。
いや、広場というよりはこう、何かを置く為の場所と言った方が正しいのかもしれない。
町を背にする形で大きな建物が幾つも建ち並び、中にも外にも多くの人が忙しく動き回っている。
それだけでなく、広場でも多くの人があちこちに行き交い、何かを準備していた。
「これは、何か作ってるの?」
「いいえ、ここは発着場です」
「発着?馬車か何か、、、では無さそうよね」
私の問いに、オイトは答える代わりに顔を上へと向ける。
その視線を追って私も顔を上げ、
「ああ、そういう事」
「ほほう!これまた何とも壮観じゃな!」
呆れ半分の私と、相変わらず無邪気なスコーネが声を上げる。
そう、空からゆっくりと降りてくるのは町の上を飛んでいたのと同じような飛空機関船。
但し、町中で見上げた物よりもかなり小さく、と言っても数十人は余裕で乗れそうな大きさではあるけれど、それがこの広場の中心に降り立とうとしていた。
低く唸るような音と、回転する羽のような何かが風を切る音が近付いてくる。
それにつれて、飛空機関船から発生している風が広場を吹き飛ばさんばかりに吹き荒れていく。
その中を、広場に居る人々は慣れた様子で動き回り、船が降りてくる準備をしている。
そうして船は地面へと近付いていき、その船体の下部から足のような物が何本も出てくると、ゆっくりと地面にその巨体を下ろした。
羽の回転が収まり、強烈な風が止むにつれて、今度は周りに居た人々が忙しなく動き始める、、、と、同時に。
「あれは、魔導車!?」
町の側にある建物から、二台の魔導車のような物が走り出てきたのだ。
ウルギスで見たそれは、まだ馬車を彷彿とさせる造りではあったけど、今目の前を通り過ぎたのは操作する為の場所がやけに小さく、その後ろ側は斜めに立て掛けられた金属の板が載せられている。
その二台は飛空機関船を挟み込むように進んでいくと、その船体の側面に斜めの板が繋がるようにして動きを止める。
「あれは乗降用の専用機関車です」
「成る程ね。海と違うから、桟橋の方も動けるようにしたって訳ね」
オイトの注釈に返事をしていると、まさにその移動桟橋を伝って船員らしき人達が降り始めてきた。
屈強そうな男達に混ざって、いつか見たようなローブ姿も幾つか降りてくる。
その内の一人が何かに気付いたように顔を上げ、小走りでこちらへと近付いてきた。
そして、
「へぶっ」
「転んだ、、、」
地面に足を取られたのか、見事に転ぶとそれきり動かなくなってしまった。
いや、微かに肩が震えているから、もしかして、、、
「はぁ、全くあの子は」
見兼ねた様子のオイトが溜息と共に歩き出し、突っ伏したままのローブの誰かの腕を持って立ち上がらせる。
「うぅ、、、また転んでしまいました〜」
「あれ程落ち着きを持って行動しなさいと注意したでしょう。ほら、土を払って、顔も拭きなさい」
言われるがまま、ローブに付いた汚れを叩き落とし、顔を差し出された布で拭く。
その様子はまるで親と子のようで、、、何だか分からない気持ちになる。
漸く落ち着きを取り戻したローブの人物の手を引いて、オイトがこちらに戻ってくる。
「お恥ずかしい所をお見せしました。この子はデゾイト、私の娘でございます」
「あ、わわ!デゾイトでごじゃいましゅ!まだ蒐集者の身ではございますが、よろしくお願いします!」
薄らと赤くなった鼻のまま、花が咲いたような笑顔で頭を下げるデゾイト。
これまた変わった名だから、やはり本当の名では無いのだろう、、、というか。
「蒐集者?」
彼女の名乗りの中に、聞き慣れない言葉が含まれていて、そちらの方が気になってしまう。
「はい!あっ!おか、じゃなくて、オイト様!これはお教えしても?」
「構いませんよ。ちょうど、その事についてもお話ししようとして貴女を探していたのです」
こういう場では親子では無く、教導者とその配下という関係なのか、ややこしいし面倒そうではあるけど、まぁ所詮は他人事なのでどうでもいい。
「では、改めまして。蒐集者とは、この世界をその目で、耳で、肌で探索し、知り得ぬ事、知らねばならぬ事、そして只人が知ってはならぬ事を蒐集し、教導者様、そして巫女様へとお伝えする者であります!」
元気良く、淀みなく語るデゾイト。
その様をオイトは表情を崩さずに聞いている、、、けど、微かに口元が緩んでいるのは気付かなかった事にしておこう。
それにしても、
「随分と大きく出る役目ね。この世界を、ねぇ」
それはまさに、私が現在追い求めているものでもある。
但し、そこには私自身の事も含まれている、、、つまり、かつての魔王の事についても。
彼女達が一体いつから活動をしているかは分からないし、そもそもプリエールと同じ力を持っているとしたら、その存在を察知出来ていなかった可能性もあるけど、あの頃にそんな気配は微塵も無かった、、、と思う。
或いは、封じられている記憶の中にそれがあるとしたら、やはり私は己を知る為にも全てを思い出さないといけないのかもしれない。
表向き、立場を弁えるオイトとデゾイト。
だけど、並んで立つその姿からは、やはり拭い切れない親子の繋がりが感じられて、、、