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転生聖女の逃亡放浪記〈総合評価520&110000PV感謝!〉  作者: 宮本高嶺
第八章 マンベル・秘されし者達の蒐集録
305/363

305 隔絶された地にて

そして、ついに私は断絶山脈を超えた。

かつて多くの人が成し得なかった偉業、と言えば聞こえはいいけど、正直大変だったのは登りだけだ。

降りはまぁ、何というか反則のような連れが出来たお陰で平穏そのもの。

そしてその当人は、

「ほほう!これがお主らが住まう地か!何とまぁ、真っ白な事か!」

一面の雪景色に、まるで子供のようにはしゃいで駆け回っていたりする。

私は気にせず真っ直ぐ歩いているのだけど、ちゃんとその気配を追って移動しているのか、付かず離れずの距離を維持して付いてきている。


中央大陸とはいえ、断絶山脈を跨いだ北の地は未開の地だ。

山を降りたその先は一面雪に覆われ、道なんてものは見当たらない。

だけど、幸いにも雪は降っておらず、微かだけど陽射しも射している。

お陰で、ある物を見つける事が出来た。

遠くに微かに見える煙の様な白い筋。

しかも、それは一つや二つではなく、数えられない程にたくさん上がっているのだ。

「狼煙、じゃあ無いわね。でも暖炉の煙にしても数が多過ぎるし、、、」

左目の聖痕を使って観察してみるけど、分かったのはやけに細長く高い煙突らしき物が乱立していて、そこから煙が延々と吐き出され続けている光景だけだ。

「ほほう、器用なものじゃのう。神の気配も感じるが、それは一体何じゃ?」

突然横に現れたスコーネが目を丸くしながら私の顔を覗き込んでくる。

「貴女、聖痕を知らないの?」

「あいや、知ってはおるぞ。実物は初めて見るがな。しかし、我は神同士の諍いには関わってはおらぬでな、後にワルオセルネイより顛末を聞いた程度じゃ」

少しだけ期待してみたけど、やはり彼女も詳しい事は知らなかったようだ。

彼女が語ったように、断絶山脈を棲家にしていたとなれば余程の事が無い限りは下での出来事は感知しようがないのだろう。

人智を越える力を持っていても、神とはまるで違う存在という事なのかもしれない。

そんな会話をし、考えを巡らせているうちにいよいよ町らしき影が近付いてくる。

断絶山脈とは打って変わって、雪原には獣も魔物も居なかったお陰でとても順調なのは助かった。

もしかすると、これも障壁とやらの影響なのかもしれないけど、だとするとここに住む人々はどうやって生活しているのだろうか。

その答えは、もう間も無く分かるだろう。


辿り着いたのは確かに町だった。

ただ、この雪に閉ざされた地にも拘らず、町の中には雪が全く積もっていない。

それどころか、町に近付くにつれて感じていた妙な生暖かさが、町の中では薄らと暑さを感じる程になっている。

事実、町の住人であろう人々は皆、上着どころか薄着姿がほとんどだ。

そして、その人々は外からやってきた私達に足を止め、何事かと視線を送っている。

「む、何やら見られておるな。我の服はおかしいか?」

「そもそも私達がここに来た事自体が異常なのよ。恐らく、初めて他所から来た存在よ、私達」

確かに、スコーネの創り出した服は妙に露出が多いけど、それは関係ないだろう。

とは言え、いつまでも好奇の目に晒されるのも良い気分ではないから、さっさと先へ進みたいのだけど、こちらが動くよりも先に向こうに変化が起きた。

人混みを掻き分けて一人の女が私達の前へと踏み出てきたのだ。

見た感じは若そうだけど、顔に薄らと見える皺からすると四十代辺りだろうか。

「何用ですか」

私達を見ても眉一つ動かさなかった女が、その見た目通りのやや低い声で質問をする。

あからさまな警戒、それと私にだけ向けられる敵意、それだけで、この女がプリエールの縁者だと察せられる。

「教導者とやらに会いにきたわ。つべこべ言わずに案内しなさい」

そちらがそのつもりなら、と私も一切遠慮せず要求を伝える。

果たして、これでどう動くか、、、

「ではここで要件を話しなさい。私がご所望の教導者です」

これは予想外、などでは無い。

明らかに周りの人々が彼女から距離を取り、尚且つ一目置いているだ。

どう考えても只者では無く、聞いた通りの実情であればこの女がそれなりの地位にいる事などはすぐに理解出来る。

ただ、初めから警戒されていては、私の望み通りに事が運ぶか読めない所だ。

「、、、プリエールなら明日にでも戻るわ。でも、彼女を待つ気は無い」

「っ、、、それは、どういう意味でしょうか」

やはり、プリエールの名前を出したら僅かに彼女の感情が揺れた。

言葉にも動揺が出ているから、やはりあの女と関わりがあるのは間違いない。

「それを説明する必要がある?一緒に居ない時点で理解出来るでしょ?私の要求は一つよ、、、巫女の下は案内しなさい。さもなければ」

右手を真横に翳し、黒炎の中から鎌を取り出す。

「この場に居る連中を皆殺しにするわ。お前も、手足の一つは覚悟なさい」遠巻きにこちらを見ていた連中が悲鳴を上げながら逃げていく。

お陰で、ようやく鬱陶しい視線が無くなった、、、けれど、不快な感情が一つだけ、目の前に残っている。

「、、、貴女が例の、、、」

私の脅しに平静を保つ女がポツリと溢す。

そして目を閉じると、

「よろしいでしょう。付いて来なさい」

意外にもあっさりと首肯し、そのまま踵を返して歩き出したのだった。

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