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転生聖女の逃亡放浪記〈総合評価520&110000PV感謝!〉  作者: 宮本高嶺
第八章 マンベル・秘されし者達の蒐集録
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303 頂きに君臨する者

突然、頭の中に声が響く。

何が起きたのか分からず、周囲を見渡してみるけど私以外には誰も居ない。

そんな私の様子が面白いのか、目の前のトカゲが目を細めてまた口を開いた。

『それは我の声よ。思念を直接お主に飛ばしている』

「、、、人の言葉を操る、、、魔物では無いの?」

思わず発した私の言葉に、今度は不機嫌そうに眼を見開いて喉を唸らせる。

『我をあのようなケダモノと同じにするでないわ。いや、そもあれらは所詮()()()に過ぎぬがな』

鼻を鳴らして嘲る様に呟いたあと、再び私へと語り掛けてくる。

『して、お主は何故ここへ足を踏み入れたか?』

「えっ、いや、私はマンベルへ行こうとしてて」

『なんと、幾星霜を経てようやく彼の求道者達へと至る者が現れたか。しかし、、、』

何処か嬉しそうな声音で語り掛けていたトカゲだったけど、何やら考え込む様な素振りをして言葉を切り、その巨大な顔を私へと近付ける。

最初こそ敵対的な様子で現れ、話の最中はそれも消えていた、、、のだけど。

「そっちにその気が無いなら、私も事を構えるつもりは無いわ」

私を見つめる目からは明らかな警戒の色、それとこれは、、、何だろうか、何とも言い様が無い物を感じる。

トカゲが手を出さない限りは、と思うものの、正直この巨大なトカゲとどう戦ったものかと悩んでしまう。

それこそ以前、断絶山脈の麓近くで山の如き大きさの魔物と戦った事はあるけど、あれは見掛け倒しだったし、大量の魔力を搔き集めての極大の魔法をぶつけたから呆気無く決着が付いただけで、今この場で、それも明らかに知性のある存在を相手にするとなると、どう足掻いても苦戦する予感しかない。

私が考えを巡らせている間も、トカゲは値踏みする様に私を観察し、時には鼻先を近付けて臭いを嗅いだりもしていた。

『ふむ、、、その身が纏う気配は間違いないのだが、、、何とも面妖な、混じり合っておるのか』

ようやく納得したのか、トカゲは顔を離すと天を仰ぎ、次いで後方を振り返り、、最後に私へと顔を向ける。

『我がここを守護して以来、訪れた人間は其方が初めて。ましてや、マンベルを目指すとなると、尚の事見極めねばならぬ』

「それは、つまり、、、」

『案ずるでない。其方が申した通り、我もまた荒事は好まぬ。それに、其方に本気を出させてしまえばこの山諸共聖域が崩壊しかねぬ』

コイツ、私が聖痕を九つ持っている事を見抜いている、さっきはそれを確かめていたのかも知れない。

だとすると、本当にただの魔物では無く、全く別の存在だという事になる。

そして、私の予想は違う形で証明される事になる。


巨大トカゲは一度大きく翼を広げると、

『我はお主に付いて行こう』

当然の様にそう告げてきた。

「はっ?いや、その姿で人里に降りるつもり!?」

こんな姿をした奴がいきなり現れたら大騒ぎどころじゃない。

それを理解していない訳は無いはずなのに、一体何を言い出すのだろうか。

だけど、トカゲは私の言葉に違う形で答えを見せてきた。

トカゲがいきなり魔力を高め、それを内側に蓄えていく。

瞬く間に魔力は臨界し、その巨体が眩い光に包まれ、直視出来なくなる。

腕で目を覆い、念の為に障壁も展開しておく。

そして、光が収まり、

「ふぅ、もう良いぞ」

今度は確かに、ハッキリとこの耳に言葉が届く。

他に誰も居らず、そもそもその声はさっきまで頭の中に響いていた声と同じだった。

「まさか、、、」

腕を下げ、自身の予感が果たして合っているのかを確かめる。

「うむ、初めてにしては中々ではないか?」

視線の先、巨大なトカゲの姿は無く、代わりにそこに居たのは一人の女だった。

背は私よりも高く、燃えるような真紅の髪を地面に届かせんばかりに伸ばした全裸の女は、それを恥じらう事無く仁王立ち、こちらを見つめていた。

縦に裂けた瞳だけが、彼女が人ならざる者であると証明していて、それは即ち。

「貴女、、、さっきのトカゲ、なの?」

「トカゲではないと言うとろう。しかして今はその通り、お主を見倣い姿を変えてみた。どうじゃ?おかしな所はあるかえ?」

信じられない事に、あの巨大トカゲは人に化けた。

目の前で起きた事でなければ到底信じられない状況だけど、目の前の女が放つ強大な魔力は確かに先程のトカゲのそれと同じだ。

「姿を変える魔法?」

「魔法とはちと違うがの、まぁ細かい事は気にするな。それよりもほれ、早う先へ行こうぞ」

呆然とする私を余所に、何故か乗り気で歩き出そうとする元トカゲだけど、

「いや、ちょっと待ちなさい!」

「ん?なんじゃ?」

歩き出そうと足を踏み出した姿勢のままこちらを振り返る彼女に駆け寄り、私は最大の問題を指摘する。

「言いたい事は色々あるけど、まずは服を着なさい!」

「服、、、?おお!お主が纏う毛皮か!成程、人は裸で過ごさぬのか!」

そこは理解しているのか、早々に納得すると再び魔力を集め始め、それが彼女の体を覆って服へと変化していく。

「服まで造り出すなんて、貴女一体何なの?」

呆れる私に、元トカゲは笑みを浮かべ頷く。

「うむ、我こそは聖域を守護する幻獣、賜りし名はスコーネである!」


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