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転生聖女の逃亡放浪記〈総合評価520&110000PV感謝!〉  作者: 宮本高嶺
第八章 マンベル・秘されし者達の蒐集録
301/363

301 プロローグ・全てを拒む地

襲い掛かる獣を黒炎の鎌で両断して一息吐く。

見上げる視線の先には、雪の白に染め上げられた巨大な山脈。


そう、ここは断絶山脈。

人が立ち入る事を拒み、過酷な環境を生き抜いた飢えた獣と、それらが変貌を遂げた魔物だけが徘徊する、死を具現する地。

そして私は、その山肌の道無き道を登っていた。


聖痕の暴走による強制転移は、幸か不幸か私を断絶山脈の麓へと導いた。

直前にそこに関わる話をしていたからだとは思うけど、正直どうしたものかは悩んだ。

突然現れたプリエールより齎された数々の事実は、私を混乱に陥れた。

その結果、感情が抑えられなくなってしまい、その果てがこの状況だ。

勿論、久しぶりに戻ってきた中央大陸は何と言うかこう、心が落ち着くというか、昂っていた感情もお陰で静まったのだけれど、、、

「それはそれ、これはこれ、なのよねぇ」

一応、表向きでは私は追われる身ではあるのだ。

形だけのものではあるし、何ならもう既にそれも取り下げられているかもしれないけれど、今の私があの子達に会う資格は無いような気がする。

せめて、自分自身を正しく知るまでは再会はお預けだ。

だからこそ、私はこうして断絶山脈を登っているのだから。


断絶山脈を超えた先、未開の地とされている中央大陸北部にあるという国、マンベル。

いや、プリエールの言葉が正しければマンベルは国という形態では無いのだろう。

巫女とやらを頂点に、その下に居る教導者達が他の者達を導いている、と想像している。

まぁ、ここで何を考えた所で一切の情報が無い以上は意味は無いのだけど、流石に目の前の光景にも飽きが来ているのだ。

だけど、残念ながらこの山を越えるには歩いていくしかない。

当然だけど、最初は空を飛んでさっさと超えてしまおうとした。

ところが、僅かでも山の懐に入ると魔法の制御が難しくなるのだ。

空を飛ぶなんて以ての外だし、通常の魔法ですらかなり丁寧に扱わないとまともに使えやしない。

そんな中で唯一の救いが、私の黒炎だ。

あれは魔法ではないから、いつも通りに扱える。

代わりに、魔法はこの山の環境から身を守る為に全力を注いでいるから攻撃には使えない。

それ以外にも、疲労の回復や傷の治療、とにかく体に関わる事に魔法は割り振っているから、戦闘は全て黒炎で行うしかない。

まぁ、形状も自在に変えられるから、相手に合わせていけば幾らでも対処できるし、私以外の魔力反応は聖痕で把握出来ているから、なるべく無駄が無いように移動も出来る。

という訳で、思っていたよりかは快適に山を登れてはいるのだけど。


かつてこの山を踏破しようと挑んだ先人達、その殆どが戻る事は無く、極僅かな生存者も断絶山脈には行くな、とだけ言い残して息絶えたという。

フェオールなんかも、過去に調査団を結成して挑んだ事があるらしいけど、まぁ結果はお察しだ。

ただ、その時に得られた事も幾つかあり、特に関心を惹いたのが、その生態系だ。

熊や猪、それ以外にも身近に居る獣達は確かにそこに居た。

だけど、外見も攻撃性も、耐久性までもが比較にならない程に強力で、手練れなら一人でも余裕なはずの獣を相手に数人掛かり、その上で少なくない犠牲もあってようやく狩る事が出来たというのだ。

実際、フェオールの調査団が撤退を選んだ最たる理由が、山の環境よりも獣の存在が大きかったと報告書には記されている。

私もこうして目の当たりにしてみて、その報告書が嘘でも誇張でも無いと理解したのだ。

通常、黒炎から創り出した武器で斬られた相手は、例え擦り傷でも致命傷足り得る。

何故なら、その刃は体では無く、魂そのものに傷を与えるからだ。

魂は脆い存在だ、どれだけ魔力を多く持とうが、鍛錬を積もうが、僅かにでも綻びが生じれば忽ち弱り、死へと向かってしまう。

つまり、黒炎の刃で僅かでも傷を負った相手は、すぐに弱り身動きが取れなくなり、死へと至る、、、筈なのだけど。


岩と見紛う体躯の猪を黒炎の槍で突く。

これで五度目、それもその全てが急所の筈なのに、未だにコイツは倒れない。

漸く足がふらつき始めはしたけれど、その目はまだ光を宿して私を見据えている。

「これは確かに厄介、ねっ!」

愚痴を溢しながらもう一度槍を突き出す。

猪もその見た目と傷に反して機敏に動いて切先を躱そうとはしたけど、流石にそれはもう通用しない。

槍を即座に引き戻し、足で蹴って無理矢理方向を変えてもう一度繰り出す。

不意を突かれた猪は、今度は避ける事が出来ずに左目に槍が突き刺さってしまう。

それでも尚、猪は全身を振り回して抵抗をする。

だけど、

「いい加減、倒れろっ!」

槍を掴む手を離す事なく振り回されていた私は、手首を捻り槍を抉り込ませる。

絶叫を上げて動きを止めた猪、その隙を逃す事など当然無く、私は槍を更に奥へと押し込む。

槍先が何かを貫く感触が伝わり、体を震わせた猪はゆっくりと倒れていく。

地響きが木霊して、漸く場に静寂が戻る。

私も息を吐き出し、だけどすぐにまた山頂へと歩を進める。


決して人が近寄らない、この山脈の麓に誰かしらの気配が近付きつつあった。

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