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転生聖女の逃亡放浪記〈総合評価520&110000PV感謝!〉  作者: 宮本高嶺
第七章 オセリエ伝統皇国・エオール革新統国相克記 前編
299/362

299 拒絶

プリエールの一言を、私の内にある何かが理解する事を拒んだ。

だって、グレイスは私が殺したのだ。

聖痕を奪い、魂も諸共に喰らったのだ。

そんな、憎まれて、恨まれて、疎まれて当然の私を、なんで、、、

「、、、グレイスが私を護る訳無い。知っているんでしょ、私がかつて何者だったのか」

「はい、知っております」

「貴女がグレイスと同じ立場だったとして、そんな相手を護ろうだなんて思う?思わないでしょ。事実、私は何度も不自然な不調に見舞われた。どう考えても、グレイスが私の内で力を抑え込んだのよ。聖痕にまで影響を及ぼすなんて、本物の聖女であるあの女以外に誰が出来るっていうの」

努めて冷静に、私は思いを吐き出す。

感情的にならずに済んだのは、静かに話を聞いてくれるプリエールのお陰だろう。

その彼女は、一度目を伏せると私を見つめ、次いでネイへと視線を向けた。

「、、、ワルオセルネイ様、彼の邪神めはここまで彼女の精神を汚染しているのですか」

「、、、悔しいがな。我とて分かってはおっても、手出し出来ぬ。魂は彼奴が真っ先に奪い取った領分じゃ。それに、あの時の言葉が真実だとしたらば、恐らく、、、」

「私は私よ!邪神でも聖女でも無い!」

二人の会話に私は怒声を上げる。

だって私の内に、私以外の存在が何人も居るなんて話がそもそもがおかしいのだ。

グレイスにしても、邪神とやらにしても、何故私の中で好き勝手しているのだ。

それに、その話だって本当かなんて分からない。

皆が皆、私を騙して弄んでいるだけかも知れない。

だってそうでしょう、他ならぬ私が、聖女とも邪神とも直接対話した事なんてないのだから。

周りが勝手にそうだと言っているだけで、私自身はその存在を確かめた事が無い、確かめる術が無い。

怒りを露わにした私に、ネイとプリエールは驚きの表情のままこちらを見ている。

何故かは分からないけど、それすらも無性に腹立たしく思えてしまい、私は感情を抑えられなくなる。

「皆して私を見て、私じゃない何かを指差して!聖女が何よ!邪神が何よ!そんなの私の知った事じゃ無い!私は今も昔も私なのよ!」

思い返してみれば、魔王の頃だってそうだ。

結局、親も友人も町の連中も、私自身なんか見てやしなかったのだ。

だって、産まれてから数年間は普通に過ごして、彼らとも親しく接していたのだ。

なのに、訳の分からない力のせいで化け物呼ばわりされて、何もかもを取り上げられて、挙げ句の果てには私自身が捨てられた。

あの時だって、アイツらは私じゃなくてその力だけを見ていた。

泣き叫んで助けを求める、憐れでちっぽけな存在なんて気にも留めなかったのだ。

そして転生した今も。

誰も彼もが私で無く、別のものを見ている。

聖痕、聖女、邪神。

どれも私が望んだものなんて一つも無い。

そうだ、私には何一つ無いんだ。

唯一の縁だった、母でさえ私の為では無く、己の使命とやらの為に私を産んだのだ。

「っ!いけません!それ以上、負の感情に飲み込まれては!」

「うるさい!母さんもお前も、私なんか見ていなかったくせに!」

膨れ上がる感情に押されて言葉が吐き出される。

その言葉にプリエールが祈るように手を組み、必死に叫ぶ。

「そんな事はありません!姉も私も、貴女を救いたいのです!どうか、私は信じられずとも姉だけは、貴女の母だけは信じてあげて!」

嘘だ、と誰かが私に語り掛ける。

お前に関わる全ての人間は敵なのだ、と。

その言葉は、プリエールの言葉よりも私に溶け込み、私を見てくれているのだと思わせてくれる。

理屈なんて分からない、理由なんて必要無い。


・・・全てを憎め・・・


ただその言葉にだけ従い、私は聖痕を解放する。

「いかん、邪神めが干渉しておる!」

「何という、、、お願い、リターニア!話を聞いて!」

二人の言葉を無視し、私は内なる衝動が赴くまま魔力を解き放つ。

それは私を中心に強烈な衝撃波となり、辺りを吹き飛ばす。

ただ二つの影、ネイとプリエールだけが障壁を張って難を逃れたけど、それに構う事なく私は更に魔力を解放する。

より明確に的を定めた魔力は光をも飲み込む黒い刃と化し、二人の障壁に突き刺さる。

「この禍々しい力は、、、」

「彼奴めの力!?このままでは本当に喰らわれてしまうぞ!何としてもリターニアを止めるのじゃ!」

まだ無駄口を叩ける余裕があるのか、、、なら、そのまま押し潰してやる。

魔法を維持しながら更に魔力を集めていき、刃の数を増やしていく。

それはあらゆる方向から二人に襲い掛かり、その姿を覆い隠してしまう。

最早声すらも聞こえなくなり、それでも障壁はまだ健在のようだった。

だけど、もう関係無い。

そのまま魔力を増大させて二人を、、、

「っ!?」

それに気付いた時には遅かった。

前触れ無く、背後に気配が現れると同時に、私の背に何かが触れる。

そこから強烈な力が広がり、吹き飛ばされる様にして私は地面を転がっていき、即座に反動を利用して起き上がる。

「可愛い顔してやるじゃない」

視線の先、毅然とこちらを見つめるプリエールが、そこに立っていた。

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