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転生聖女の逃亡放浪記〈総合評価520&110000PV感謝!〉  作者: 宮本高嶺
第七章 オセリエ伝統皇国・エオール革新統国相克記 前編
290/364

290 神の箱庭

日が沈んで少しした頃に次の町へと到着した。

街道はオセリエよりも整えられているけど、代わりに人の姿は一切無し。

果たして誰が街道の手入れをしているのか、まぁそれは放っておくとして、やはりこの町も先の二つの町と同じ造りをしている。

国外の人はまず訪れる事が無さそうだし良いのだろうけど、事前に情報を得ていない人が見たら混乱するのは確実だろう。

何せ、私も未だに戸惑うくらいなのだから。

そんな同じ様な光景の町へと足を踏み入れようとして、ある事に思い至る。

「いや、、、宿なんてあるの?」

他所の人を招いていないのだ、店は普段の生活に必要な存在だけど、宿となると話は違う。

勿論、別の町から来た人がそのまま一夜を明かしたりする事もあるだろうけど、その場合、わざわざ宿で泊まったりするのだろうか。

この国の風土からして、宿そのものが存在してない可能性もある。

町の入り口で暫し考え込み、今もこちらに向けられている視線に意識を向け返す。

途端、視線が途切れ、代わりに何かを訴えかけるようなものに変わる。

「これは、、、お誘いって事かしらね」

下世話な感じはしないけど、それでも何かしらの意図が込められているのも確かだ。

若干の迷いはあるけど、このまま野宿をしてもまた面倒な事になりそうだし、何よりも、伝手も何も無いのだ。


町の中は人通りも無く、ただ家々から溢れる光に照らされる。

「やけに明るいわね。まさか暖炉でもある訳でもないし、魔導具にしてはどの家にもあるっていうのも不思議ね」

魔導具が普及しているとはいえ、決して安いとは言えない程度には照明魔導具は高価だ。

勿論、種類も色々あるし、安価な物もあるにはあるけど、そういう物は大体が蝋燭より少し明るい程度だ。

だけど、この町の建物から溢れる光はどう見てもそんな程度ではないし、どの光もほぼ同じ明るさだ。

或いは、この国の産業として魔導具を制作している可能性もあるけれど、これだけの質の物をそう簡単に作れるとは思えないし、何よりも魔力を込める為の魔法を扱える者が居ないはず。

見る物全てが新鮮というのは何度も経験したけれど、見る物全てが疑問になるのは流石に初めてで、どうにも気疲れしてしまう。

ともあれ、夜の光景を横目に町を歩き、気配の元へと向かう。


辿り着いたのは、町の中心、、、と呼んでいいのかは分からないけど、他よりは少しだけ開けた場所だった。

広場と呼べる程広くは無く、だけどそこそこの人数が集まれる程度には広い、といった感じか。

人の姿は見えないけど、気配は確かにこの辺りから放たれている。

障壁を展開してその広場の中心へと歩いていくと、暗がりからヒソヒソと囁き合う声が聞こえてくる。

何だか似たような展開を少し前に見た気がするけど、今度は何というか、より好奇心が強い様に受け取れる。

それはそれでやっぱり居心地は悪いけど、前の町よりかは幾分はマシだ。

とは言え、いつまでも見せ物になるつもりもないから、こちらから切り出すしか無さそうだ。

「顔くらい見せたらどう?無駄な時間を使うつもりは無いのだけど」

辺りを見回しながら声を上げる。

途端、暗がりの騒めきが静まり、完全な静寂が辺りを包む。

どうやら、私の様子を窺っているようで、色んな感情の込められた視線が向けられている。

そして、その内の一つがようやく動きを見せる。

暗がりからゆっくりと姿を見せたのは一人の女。

服装こそエオールの国民が着ている物だけど、その身に纏う雰囲気は何となくエオールらしくない。

どちらかというとフェオールの貴族のそれに近く、更に言うと、女が私に向ける目は嫉妬というか、まぁ好ましくは無い感情が籠められている。

(今の今までこんな視線は無かったのだけど、、、何かお気に召さなかったのかしら)

「アンタが噂になってる盟主の客人?確か、聖痕の聖女だとか」

わぁ、この刺々しい感じの話し方、フェオールの貴族令嬢達を思い出すなぁ。


触れたくない思い出だから今まで話題にも出さなかったけど、実を言うと私はフェオールの王城に居る間に学園に通っていた事があるのだ。

勿論、周りは全員貴族の子息子女だけ。

そんな中に私の様な田舎育ちの小娘が、王家の名の下にやってきたとなれば、周りの連中がどんな目をするかなんて考えるまでもないだろう。

特に、貴族としてやがて跡を継ぐ、或いは跡継ぎを産むという、産まれながらに責任を負っている彼らからすれば私は全てが後から与えられた、恵まれた存在の様に見えただろう。

あの閉ざされた箱庭での一年はそれはそれは、、、()()()()()()日々でしたとさ。


で、何で急にそんな事を思い出したかと言うと、今私の前に出てきた彼女の視線や態度が、まるであの時のご令嬢方そっくりなのだ。

嫉妬や羨望、怒りや悲しみ、そんな色んな感情が混ざり合った複雑な視線。

こうして改めて思い出してみると、この国もある意味同じなのかもしれない。

神によって造られた国、、、要するに、この国は神の箱庭なのだ。

但し、あの学園とは違い、この国は全てが神によって定められているのだろう。

だとすると、、、神は、ネイはこの地で何を為そうとしているのか。

邪神の封印を護る為、だけでは何も説明が付かないのだ、この国の在り方は。

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