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転生聖女の逃亡放浪記〈総合評価520&110000PV感謝!〉  作者: 宮本高嶺
第七章 オセリエ伝統皇国・エオール革新統国相克記 前編
285/365

285 傾く天秤

ネイ同士による喧嘩から一晩。

皇王ネイは本当に驚くほどアッサリと帰り、盟主ネイはやけに上機嫌でお茶を傾けている。


あの後、二人のネイは無言のまま睨み合った。

どうやらそれが互いの意思を交わす時間だったらしく、暫しの間無言の応酬が続いた後、皇王ネイは来た時同様、唐突に消えた。

盟主ネイは、その直後こそ暫く立ち尽くしたまま虚空を見つめていたけど、すぐに元通りになった。

そのままその日は解散となり、私は離れにて一夜を過ごした。

そして今は盟主ネイと共に朝食を済ませ、一息ついているという所だ。

ただ、彼女の機嫌が良い理由だけは分からない。

昨日の皇王ネイとのやり取りで何かがあったのだろうけど、何だか問い質す気にならない。

とは言え、この後の予定くらいは確認しないといけないし、もしも何も無いとなればここからお暇して己探しに行かないとならない。

「今後の予定などはあるのですか?」

「ん?そうさのぅ、妾の為すべきはもう済んでおるでのう。其方はどうしたい?」

これは意外というか、言外に好きにしても良いと言っているのだろうか。

なら、遠慮する必要は無い。

私は私の目的を果たしに行こう。

「では、私の旅の目的を追いに行きます」

「、、、そうか。まぁ仕方なしよな、ここはいつでも使うが良い」

「随分あっさりと許しますね」

「他意は無いぞ。其方が求めるものは其方にしか分からぬでな、それを妨げる理由なぞ妾には無い。じゃが、前にも言うたが聖痕は極力使うでないぞ、其方が危うい状況なのは変わらぬ。邪神を封印に追い返しこそすれど、それも一時凌ぎじゃ。努々、忘れるでないぞ」

寛容ではあるけど、だからと言って無責任でもない。

彼女も彼女で状況を見定めたいのだろう。

それには、私がある程度自由に動く必要があるという事か。

勿論、私とて過去の過ちを繰り返すつもりは無い。

「気を付けます。では、失礼します」

まぁ、彼女が言葉にしないのなら、私も敢えては言わずにおく。

どうせ彼女の事だ、何かしらあれば飛んでくるだろう。


館を後にし、町で買い出しを済ませる。

まだ朝早くという事もあって大半の店はまだ閉まっていたけど、それでも朝早くからやっている店もあったお陰で準備を整える事が出来たのは幸いだった。

しかも、エオールは自国の領地の調査をしているらしく、地図が当然の様に売られていたのも助かった。

荷物を鞄に収め、地図を片手に町を後にする。

ちなみにだけど、何故か隠されていたエオール首都の呼び名については、この地図に答えが示されていた。

「そもそも呼び名なんて無いんじゃないの、、、」

そう、前にも言った通りこの国は他の諸国とは違う在り方をしている。

特にそれが顕著なのが、個より群、という点だ。

それは人同士に限らず、この国そのものにすら適応されていた。

要は、全ての町が首都と呼ぶ事が出来るし、逆にわざわざ首都を定める必要も無いという事だ。

それらは全て対外的、外交的に必要だからと仮に与えただけの呼び名に過ぎず、ともすれば彼等は国という括りすら必要無いと考えてもいそうだ。

だからこそ、エオールという国における謎も明白となる、、、盟主ネイだ。

彼女は何を思ってこの国を興したのか、そしてどんな理由でこうも他とは違う在り方を是としたのか。

彼女からすれば、これもまた人の進化の一つの形なのかもしれないけど、どうあってもそれは異質だ。

私ですら理解は出来ても納得はいかないのが本音なのだ、他の国々がエオールを忌避するのも頷ける。

「なら、ついでにその辺りも調べてみようかな」

心に芽生えた好奇心はそう簡単に引っ込みはしない、それなら私の過去を追うついでにそっちも追ってみよう。


地図によれば、エオールには大小含めて町が十五もある。

これは国土の広さからすればかなり多い。

同じくらいの大きさであるオセリエは八だと言うし、中央大陸の三国もそれぞれ十前後だ。

逆に、西大陸は町の数は十と国土の広さからすると少な過ぎるように思うけど、その分一つ一つの街が非常に大きい。

こんな風に、それぞれの国はその土地に合わせた町の数や大きさになるのが自然だ。

それを、エオールは敢えて無視している。

十五ある町は、地図上で見る限りどれもが同じ規模となっている。

これは町の大きさだけでなく、そこに住む人々の数も同じという意味だ。

これで先ず一つ、首都問題に答えが出る。

町の規模も、人の数も同じであるなら、そこで行われている営みもまた同じとなる。

普通の国は王を頂きに、そこから末広がりに国が形成される。

だけど、エオールはそれを平らに形成したのだ。

その意図はともかく、それで齎されるのは何か、、、格差だ。

どの国も、形は違えど基本は王を始めとする特権階級と、その下につく貴族などが居て、次に一般市民となる。

そして、上二つと下には大きな隔たりがあり、それは時に天秤の様だと言われる、、、常に片方に傾き続ける理不尽な天秤と。

それは国という大きな括りの中と、個人という小さな括りの二通りあり、前者はどう足掻いても傾きを直せはしない。

だけど、個人については努力次第でどうにかなる事も少なくない。

エオールはそれを、常に均衡を保つようにしたのだ。

だからこそ役割もまた均等になっていて、それこそが首都を定める必要の無い理由だ。

だけど、果たして本当にそんな事が可能なのか、そして維持する事が出来るのか。

「天秤は必ず傾くものなのだけど、、、果たしてどうなっているのかしらね」

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