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転生聖女の逃亡放浪記〈総合評価520&110000PV感謝!〉  作者: 宮本高嶺
第七章 オセリエ伝統皇国・エオール革新統国相克記 前編
284/362

284 相反する己

私の仲裁であっさりと矛を収めた二人のネイ。

だけど剣呑な態度はそのままで、更に言うと突然やって来た皇王ネイは何故か帰る事無く私と同じ馬車に乗り込み、それを見た盟主ネイも当然の様にそこに加わり、その結果。

「、、、」

「、、、」

(空気が重いんだけど、、、)

馬車の中は全身が圧し潰されそうな程の沈黙と、二人のネイの無言の応酬だ。

まだ若干の余裕があるはずなのに、それのせいで妙に狭く感じるし息苦しい。

「あの、、、その魔力を引っ込めてくれませんかね、、、ついでに殺気も」

「そいつが引っ込めればな」

「そやつが引き下がればの」

うーん、これはいっそ気が合うのではないだろうか、、、いや、そもそも同一人物か。

いよいよ現実逃避を始めた己の思考を客観視しながら、窓から空を見上げるのだった。


そんな道程がようやく終わり、戻ってきたのは盟主ネイの館だ。

広間に案内され、そこに用意されていた椅子に座る。

そして、その私を挟む形で向かい合う二人のネイ。

自分の領域だからか、いよいよ互いに遠慮無く魔力をぶつけ合う。

いや、これは魔力じゃない、、、似てはいるけど、もっと別の何かだ。

それが、二人の間で見えない火花を散らしていた。

それはつまり、表では隠していた本当の力を二人は放とうとしているという事であり、

「いや、それって私も巻き込まれますよね?」

「安心せい、ちょっと分け御霊を躾けるだけじゃ」

「安心するが良い、この分からず屋に理解させるだけじゃ」

うん、これはきっと永遠に終わらなそうだ。

というか、この二人は同じなのに、何でこうも対立しているのだろうか。

いや、元凶は間違いなく私なのだろうけども、こうして見ていると何と言うかもっと別の、根本的に別の事で争っている様にも見える。

もう一度止めようかと思ったけど、ここは敢えて静観してみるのもいいかもしれない。


そこから始まったのは静かな殺し合いだった。

二人のネイは微塵も動く事無く、ただ二人から放たれた未知の力だけが現象を象り、ぶつかり合っていた。

不思議なのは、この広間を所狭しと暴れ回り、力をそのまま放出しているにも係わらず、何も壊れないのだ。

その光景が不思議で面白く、つい魅入ってしまう。

「つくづく嫌になるの、己との戦いというやつは」

「そのまま返すぞ、この戯けが」

何よりも面白いのが、この言葉の応酬だ。

二人は椅子に腰掛けたまま、片や腕を組み、片や足を組み、鋭い視線だけをぶつけ、時折舌戦を繰り広げる。

勿論、その間も力のぶつかり合いは絶え間無い。

常人ならこの光景に卒倒しているか、そもそもこの力に中てられて気を失うかしているだろう。

私の場合は、、、割と混ざりたいと疼いていたりする。

まぁ、流石にそんな事をすればいよいよ収拾が付かないだろうし、寧ろ二人も手を止めざるを得ないだろう。

いや、というかこれに対抗する術が果たしてあるのだろうか。

端から見てて思ったのは、これは魔法に似た別の物であるという事。

同時に、それを操る二人?もまた別格であるという事も。

魔力とは違うと言えど、その扱い方は似通った部分が殆どだ。

だからこそ分かる、あの力の操り方は最早異常と呼べる領域だ。

私も、複数の聖痕という反則があれど同じ様な事が出来るからこそ理解出来る、、、ネイの力の操り方は人には決して真似出来ない。

私で言うなら、全ての聖痕を全開にして、尚且つそれを非常に繊細な調整で操らないといけない、みたいな感じだろうか。

それを、ああも軽口を叩きながら平然としてのけるなんて、、、


などと考えている内に、状況に変化が訪れる。

広間の中を荒れ狂っていた力が唐突に消え失せる。

一陣の風が吹き抜け、静寂が訪れると同時に、二人のネイが放っていた殺気も萎んでいく。

「終わりですか?」

「うむ、埒が明かんでな」

「うむ、ぼちぼち頃合いでな」

さっきまでのやり取りが嘘の様に凪いだ二人がこちらに顔を向け、小さく笑みを浮かべる。

やはり、私に向ける感情だけは全く同じ。

寧ろ、その一点だけがこの二人の共通点と言ってもいい程だ。

何なら、今の今までしていた戦いも私を巡ってのものだから、そういう意味で言えば根本はやはり同じなのだろう。

だからこそ分からない、何故ああまでこの同じ二人は仲違いをしているのだろうか。

皇王ネイは私を聖痕遺跡に連れて行くなと言っていた。

盟主ネイは私は真実を知るべきだと言った。

相反する思いを抱く二人のネイ。

その中心には私が居て、その先には邪神が居る。

いや、、、正直な感想を言えば、ネイが見据えているのは常に邪神だけだ。

私はそこに付随しているおまけに過ぎない。

だからこそ、分からないのだ。

私の過去に、彼女はどう関わっているのだろうか。

失われた記憶に、何故彼女についても含まれているのだろうか。

そして何よりも、それを為したのが彼女自身によるものというのが最大の謎だ。

彼女は一体何を隠しているのか、それが果たしてどんな過去を呼び起こし、どんな未来を齎すのだろうか。

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