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転生聖女の逃亡放浪記〈総合評価520&110000PV感謝!〉  作者: 宮本高嶺
第七章 オセリエ伝統皇国・エオール革新統国相克記 前編
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279 存在しない聖痕

ほんの軽い相談のつまりだったけど、盟主ネイは驚きの表情のまま私の体を調べている。

端から見ると如何わしい事をされている様にも見えるけど、それをしている当人は寧ろ鬼気迫るようにも見える。

「其方よ、本当に複数の聖痕を持っておるのか!?」

「え、ええ、、、」

「どういう事じゃ、これは一体、、、」

無言で私の体に触れていた盟主ネイが顔を上げ、眉を顰めながら問い掛ける。

それに対する私の返事にも納得がいかないようで、真剣な眼差しのまま腕を組んで考え込んでしまう。

明らかに尋常ではないけど、一体何が気になるのだろうか。

それを問おうと口を開こうとして、だけどその前に彼女が先に口を開いた。

「気配が無いのじゃ」

唐突に、説明も無くそう言われ、私は思わず胸に手を当てて聖痕の存在を確かめてしまう。

それに気付いた彼女が軽く頭を振り、

「いや、何と言うべきか、、、其方からは確かに聖痕の気配がある。但し、それはその胸の聖痕の()()()()なのじゃ。どれだけ探ろうと、他の聖痕の気配が微塵も感じられないのじゃ」

「そんなはずはっ!」

それこそ有り得ない。

これまで、この身の聖痕のお陰で何度も窮地を凌いできたのだ。

「待つのじゃ、其方が嘘を申したなぞ思うておらぬ。じゃが、嫌な予感がする、、、其方よ、聖痕を見せてくれぬか?」

そうだ、グダグダ考え込んでないで聖痕を見せれば良かったのだ。

彼女の言葉に頷くと、全ての聖痕に意識を向け、魔力を僅かに流す。

それに呼応して、僅かな光を発しながら体の各部から聖痕が浮かび上がる。

「この通り、九つあります」

自分でもその数を確かめ、彼女にもそれを告げる。

だけど、予想に反して盟主ネイは目を見開き、私の聖痕を見つめたまま身動ぎ一つしなくなった。

いや、、、その瞳や唇は微かに震えていて、何度も口を開きかけては閉じるを繰り返していた。

その様子はさっき見せた物とは遥かに違い、最早どんな感情を抱いているかすら窺い知れない。

それでも、揺れる瞳は何度も私の聖痕を行き来し、何かを確かめていた。

そして、

「、、、何と言う事じゃ」

ようやく発したのはその一言。

そのまま無言で浮かび上がる聖痕を見つめ、それをなぞるように両手で空を撫で始める。


それから無言の時間が過ぎ。

「、、、すまぬのぅ、もう良いぞ」

ようやく落ち着いたのか、盟主ネイは力無く告げる。

魔力を断ち聖痕を消した後、私は彼女に促されて椅子に座り直す。

勿論、彼女も向かいに座るのだけど、そのまま項垂れる様に俯いてしまった。

「あの、、、どうしたのですか?」

心配になって声を掛けてみるけど、返事は無く、代わりに右手だけが微かに上がり振られる。

そのままその手を動かし、お茶の入った器を持つとゆっくりと口を付ける。

その一連の動作は、まるで年老いた人のそれのようで不安を覚えてしまう。

「、、、ああ、すまぬ。何と言葉にすれば良いか、、、妾も分からなくなってしもうての」

「いえ、、、それで、私の聖痕に何が?」

僅かに顔を上げた彼女は小さく溜め息を吐くと、

「、、、其方の持つ聖痕。その胸にあるのは既に話した通りじゃ。だが、他の物はのう、、、有り得ぬのじゃ」

「有り得ない、とは、、、」

「ああ、よもや数千年の時を経て相見えるなぞ夢にも思わなんだ、、、それらはのう、邪神に討たれた兄弟姉妹の聖痕に相違無い」

邪神に討たれた神々とは、邪神が力を付ける前の時に敗れた存在。

つまりそれは、彼等がその力を人々に託す事無く居なくなったという事であり、だから、、、

「待ってください。その神々は聖痕なんて!」

「そうじゃ。彼等は力を残さずに逝ってしもうた。当然、聖痕もな。じゃが、其方の聖痕の紋様は間違いなく彼等の物。これが驚かずに居られようてか」

これまで聞いた話を思い返せば、彼女の反応も納得だ。

だけど、事実としてこの身に聖痕は宿っている。

これは一体どういう事だろうか、、、

恐らく、彼女もそれでこんなにも憔悴しているのだろう。

本来有り得ない、存在しないはずの聖痕。

それが私に宿っているのだ。

私も驚いたけど、彼女の受けた衝撃は想像すら出来ない。

だけど、いつまでもそこで思考を止める訳にはいかない。

この身に聖痕が宿っている以上、必ず理由はある、、、邪神の聖痕と共にあるのなら尚の事。

「何か、思い当たる事は無いのですか?」

「、、、あるにはある。其方も勘付いておろうが、間違いなく邪神めが関係しておる」

「確か、邪神は討ち取った神々の力を取り込んでいたのですよね?だとしたら、封印された後に、それらをも聖痕化して放ったという可能性は?」

私の考えに、彼女は暫し考え込む。

「、、、確かに、それは無くも無い。じゃが、それらを放つという事は自ら力を弱めるという事に他ならぬ。彼奴がそのような愚を犯すなぞ有り得るだろうか、、、」

確かに、一度は改心したフリをしてまで他の神を欺いたのだ。

そうまでして力を求めたような奴が、何を企んで手にした力を解放したのだろうか。

盟主ネイが言ったように、嫌な予感が脳裏を掠めていく。

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