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転生聖女の逃亡放浪記〈総合評価520&110000PV感謝!〉  作者: 宮本高嶺
第七章 オセリエ伝統皇国・エオール革新統国相克記 前編
275/365

275 盟主ネイ

建物の中へと入ると、その光景に私は目を丸くした。

何せ、そこはオセリエの宮殿と全く同じ造りだったのだ。

内装も、側付きも、奥にある薄布も、そっくりなんて物じゃない、全く同じなのだ。

ただ、その薄布の奥から伝わる重圧は皇王の比ではない。

一瞬でも気を抜けば忽ち飲み込まれる、そう思わせる程の気配が放たれている。

無意識の内に身構え、その場から動けずに居ると、

「、、、ふむ。成程のう」

奥から声が響く。

何処か気怠げで、それ故に妙な色気すら感じさせるその声に、室内の空気が変わる。

重苦しい圧が和らぎ、代わりに、何か柔らかい物で包まれた様な安心感が伝わってくる。

だけど、私はそれが無性に気味悪く感じ、思わず顔を顰める。

「、、、あい分かった」

その僅かな変化に声の主が再び声を発する。

途端、またしても空気が変化し、普段通りの物に戻る。

一体何が起きているのか、まるで分からないままの私の前で薄布が翻る。

そして、奥から姿を現したのは一人の女。

身長は私よりも少し高く、体付きも出るところは出て引き締まる所はしっかり細く、その身に纏う妖艶な空気と佇まいは威厳に満ちていて、、、だけど。

「貴女は、、、」

「うむ、一目でそうと分かるかえ。流石、我が愛し子よな」

そのどれよりも目を引いたのが、彼女の顔だった。

そう、化粧やらで多少違いはありはするけれど、目の前の女性の顔は、どうみても皇王ネイなのだ。

あの幼い姿の彼女が成長したら、間違いなくこんな感じになると分かる程に、この女性は皇王ネイに似ているのだ。


呆気に取られる私の傍に歩み寄った女性は、少し屈んで私と目線を合わせると、澄ました顔に笑みを浮かべた。

「まだ混乱しているようじゃの。ま、仕方の無い事じゃ、まずは茶でも飲んで落ち着くがよかろう」

そのまま彼女に誘われ、いつの間にか用意されていた椅子に座る。

その向かいに彼女も座ると、目の前にお茶が用意される。

視線で促されてそれを口にすると、渋みの中にある僅かな甘みが心を落ち着かせる。

それを見た彼女が笑みと共に頷くと、側付き達が部屋から出て行く。

「まずは妾の事じゃの。察しの通り、妾はネイじゃ」

「ネイ、、、オセリエの盟主と、同じ?」

私の疑問に、彼女は僅かに目を細める。

「うむ。ここ、エオールにおいて妾は盟主ネイと呼ばれておる。して、まずは其方の疑問から解消していこうかの」

そう言い、盟主ネイは右手と左手、それぞれの指を一つ立てる。

「彼方のネイと、此方のネイ。結論から言えば、我らは同一の存在じゃ」

「同一?それは、つまり」

「うむ、彼方の妾より聞き及んでおろうが、今ここに居る妾は分体じゃ。力を分け、二つの国の主として有る為のな」

両手を広げ、それを重ね合わせる盟主ネイ。

その手をゆっくりと解き、私へと向ける、、、その意図に、私は何となく事情を察する。

「、、、魔王の影響、ですか」

「うむ、気を悪くするでないぞ。そも、当時この地に民を統べるに足る者も居らなんだ。故に、妾は己を明かして新たな国造りを手伝ったのじゃ」

それを言われると何も言い返せないけど、だけどまだ疑問もある。

それが顔に出ていたのだろう、盟主ネイは頷くと、両手を少し広げてみせる。

「其方の疑問も最もじゃ。オセリエとエオール、この地の国が別たれたという話は知られておるからの。じゃが、それこそが妾の策なのじゃ」

「では、わざと国を分裂させた、と?」

「そうじゃ。無論、本来の意図を知られぬ様、尾鰭を付けて噂を流布したがの」

まるで悪戯を成功させた子供の様な笑みを浮かべる盟主。

だけど、その笑みはすぐに消え、鋭い視線が私を射抜いた。

私は理由を問おうとしたのだけど、それを察した彼女が機先を制したのだ。

「その問いは駄目じゃ、今はまだ言えぬ。じゃが、それもまた其方の為とも言える。今はそれで妾を信じてはくれぬか?」

「、、、それは」

「分かっておる。彼方の妾がしくじったのであろう。彼方と此方は独立しているが、それでも多少の事は把握しておる、、、アレは過去に囚われ過ぎなのじゃ」

刺すような視線が消え、代わりに彼女の手が私の頬に触れる。

「妾とて思いは同じじゃ、どうあっても同じ存在が故にな。じゃが、アレは過去に縛られ、同じ過ちは犯さぬと盲目になってしもうた。それが其方を傷付け、不信を買うと気付けぬ程にの」

「何故、貴女は私をそこまで、、、」

私の問いに、彼女は目を伏せ、小さく息を吐き出す。

そして、目を開くと、意を決したように彼女は口を開いた。

「、、、それもまだ言えぬ。じゃが、一つ言えるとするならば、其方の記憶が不完全なのは妾の干渉故じゃ」

彼女が、ネイが、私の記憶を封じた?

突然の告白に、私は言葉を失う。

そんな私に、彼女は言葉を続ける。

「魔王の記憶、それ即ち、邪神の記憶。良いか、其方は其方の意思で魔王になったのではない。そも、全ては我等が末妹、自らを邪神と呼ぶ彼奴の策なのじゃ。彼奴の痕跡をこの世界から消す、その為に記憶を封じたのじゃ」


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