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転生聖女の逃亡放浪記〈総合評価520&110000PV感謝!〉  作者: 宮本高嶺
第六章 ヤーラーン帝国淫蕩録
262/365

262 欲望の行き着く先

突然の事に、私はただ目を丸くする事しか出来なかった。

像に飲み込まれたラウは、もう姿すら見えない。

いや、彼の事はもういいだろう。

寧ろ、目の前の状況の方が明らかにマズい。


ラウを取り込んだ像は意志を持つように脈打ち始め、アチコチから蔦を生やし始めている。

その内の幾つかは私目掛けて伸びてきて、咄嗟に私は部屋から飛び出す。

何故かは分からないけれど、アレには直接であれ間接的であれ触れるのはマズい気がするのだ。

早めに対処した方が良いのは間違いないのだけど、魔法ですら放つのは駄目な気がする。

せめてこの嫌な気配の原因を突き止めてからでないと、私からは手出しが出来ない。

だけど、当然向こうはそれを待ってはくれない。

階段を駆け下りる私の周りで城が崩れていく。

そして、その崩れた壁の内側からあの像と同じものが姿を現す。

それを見た瞬間、全身に寒気が走る。

「まさか、、、城全体が変化している?いえ、これは、まさか!」

城の崩壊は瞬く間に全体へと波及していった。

一部は亀裂が走ると同時に崩れ落ち、やはりその内側には同じ変化が起きているのが見えた。

つまり、始めから私は敵の腹の中に居たという訳だ。

ようやく皇帝の力の絡繰りが分かったけど今更だし、状況は更に悪くなっていく。

身体強化を掛けて全速力で城から脱出する。

城の外壁は既に崩壊が始まっていて、私が外に出た頃には本来の外装はほぼ失われていた。

代わりに、城の大きさをした不気味な建物がそこに姿を現していた。

何よりも恐ろしいのは、これだけの大きさでありながらやはり見た目は人の肌と同じなのだ。

リアメノの時の様に、魔力を与えて無理矢理肥大化させたらこうはならずに、城を破壊していただろう、、、つまり、これだけの大きさに至るまでの人が犠牲となり、一部と成り果てているのだ。

ラウをも取り込んだ今、アレはいよいよ制御を失い暴走する、、、それは確実にヤーラーンを超え、エオローをも喰らい付くし、その先へと至るだろう。

だからこそ、全てを賭してでもアレを破壊しないといけない。


全ての聖痕に魔力を送り、それを受けた聖痕が魔力を増幅し、力強く輝きを放ち始める。

八個になった聖痕が齎す莫大な魔力は、それだけで体を補強し、自然と放出される分だけで体が浮き上がる程だ。

同時に、目の前の物もそれに反応する。

軋みを上げながらゆっくりとうねり、あちこちから蔦のような物が生え始める、、、いや、その先端は複数に分かれていて、さながら巨大な手のようだ。

それは何かを求める様に宙を掻き、或いは私へと伸ばされている。

「リアメノの時と同じ、、、まさか、取り込まれた人の意識がまだあるっていうの、、、」

あの宝石は魔力を吸収する性質があるのは予想が付く。

であれば、それに取り込まれた人からまず奪われるのは当然魔力だ。

そして、あんな姿になり果ててもそこに自我が残っているとしたら、彼女達は何を求めるか。

いや、それはもう嫌というほど思い知った。

一番確実に終わらせるには、やはり宝石を砕くしかない。

だけど、目の前の像にはその肝心の物が見当たらない、、、つまり、核として中心に埋まっているのだろう。

「吹き飛ばすしかないけど、、、やるしかないわね!」

これまでと違い、一切の出し惜しみは無い。

有り余る魔力を両手の間に集め、極限まで圧縮する。

それに釣られて異形の手が一斉に動きを止め、鎌首を擡げる様にこちらへと向く。

だけど、大量の手は何故かそれ以上動こうとしない。

それどころか、こちらを向いていた手が一つ残らず自らの本体に巻き付いていく。

「身を守ってる?でも、そんな動きをするなんて、、、いえ、まさか、、、」

本当に彼女達に意識が残っているとしたら、、、魔力を求める本能よりも、終わりにして欲しいという最後の願いが勝ったのだとしたら、、、

「、、、ええ、終わらせる。必ず!」

極限まで圧縮した魔力に更に魔力を注ぐ。

だけど、もちろんこのまま解き放って意味がない。

ここまで巨大化した像を支える宝石だ、下手すればこの魔力も吸収し尽くす可能性もあるし、逆に耐え切れずに吹き飛んだとしたら、その威力はリアメノの時の比では無い、、、確実にヤーラーンは跡形も無く吹き飛ぶだろう。

だから、更にもう一つ仕込みをする。

限界まで高めた魔力を右手で握り、槍の形にする。

そこに、左手に生み出した黒炎の槍を押し込み、魔力で覆われた槍を作る。

左手を大きく前に突き出し、槍を握る右腕を後ろに引き絞る。

像を覆う手が一斉に動き、一部分にだけ隙間を作る、、、つまり、そこに、、、

「貫けええええええええ!」

迷うよりも先に右手を振りかぶり、槍を解き放つ。

魔力放出により加速する槍は光と化し、像へと吸い込まれる、、、そして。


音も無く崩壊していく像。

私の放った槍は彼女達の導きにより、正確に核である宝石を貫いた。

魔力で覆われた槍は、その魔力を吸われながらもそれを上回る勢いで像を貫いていき、宝石を直接破壊した。

その結果、あれは膨れ上がる事も無く、爆発を起こす事も無く、こうして静かに最期を迎えた。


像は瞬く間に消え去り、後にはもう何も残らない。

そこにあったはずの城も、この国に生きていた人々も、、、或いは、私も何かを失ったのだろうか、、、




全てが終わり、感傷に浸る。

だけど、、、


「まだ、、、終わりは、、、しませんよ」


像のあった場所、そこに、しぶとく生き残っていたヤツが居た。

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