261 最後の対峙
こうして人気の無い城を歩いているのは何故だろうか。
いや、そもそも城に人が居ないのは普通有り得ないし、経験もしようがない。
にも拘らず、こうして二度目の経験をしているのは何故だろうか。
何て事を考えていても仕方がないのだけど、何と言うか、自分の不運を呪いたくなる。
特に、今回の騒ぎは完全に巻き込まれた側だし、真相を知るであろう奴は思わせぶりな事だけしか言わなかった。
だからこそ、全ての決着と共に、真相をも求めて奴の下へと向かっている。
いい加減、現実から目を逸らすのは止めにしよう。
階段を登っていくと、魔力とは違う力が渦巻いているのを感じ始めている。
それも、進むにつれてどんどん濃く強くなっていっているのだ。
それが一体何なのかなんて、この期に及んで考えるまでも無い。
例の宝石、、、この力はそれが放つモノだ。
そこに居るであろうラウが何かをしているのか、或いは、これだけの力を放出する状態にまで成長しているのか、、、どちらにしろ、厄介な状況となっている。
(皇帝はラウに準備をしろと言っていた、、、これがそうだとすると、、、)
皇帝の言葉の通りなら、これもまた私に仕向けた事なのだろう。
既に呪縛は解けたとはいえ、あの宝石については未知数だ。
色々と聞きたい事はあるけど、こうなると猶予など与えずにすぐにラウを仕留める必要もあるかもしれない。
何が起きてもいいように、聖痕はまず三つでいく。
障壁を張り、体の内にも余分に魔力を巡らせ、城内に渦巻く力を押し退けて階段をゆっくりと登っていく。
そうして辿り着いた最上階。
謎の力はいよいよ目に見える程にまでの異常な濃度に至り、周囲の家具や調度品なんかは宙を漂い、壁の一部は溶ける様に崩れ始めていた。
そんな光景の中、不気味なまでに綺麗なままの扉を押し開ける。
その先に、想像通りの人物と、想像を超える光景が待っていた。
「おや、、、」
困惑するラウが私をまじまじと見つめる。
恐らく、予定通りなら私は裸で来ることになっていたのだろう、けれど。
「皇帝は死んだわ。この意味が分かるでしょ?」
「、、、」
私の告げた事実に、ラウが口を閉じる。
だけど、その表情は何処か嬉し気にも見える。
「そうですか、、、父は死にましたか、、、」
ポツリと呟き、顔を両手で覆い、そして。
「クッ、、、ハハハハハ!やっとくたばったか!貴女には感謝し切れませんよ!ハハハハハ!」
突然、大きく仰け反りながら狂笑を上げるラウ。
一頻り笑い転げ、息を整えたラウが私へと右手を伸ばす。
「何のつもり?」
「邪魔者は消えました。後は仕上げをすれば全てが終わる、、、私も貴女も解き放たれるのですよ」
そう言いながら左手を後ろへと向ける、、、その手が示す先にあるのは、各地で見た悍ましい像の集大成とでも呼ぶべきモノだった。
「、、、先に一つ聞かせて。ソレに使われてるのは、各地の町から攫った人達?」
私の問いに、ラウが口元を歪ませる。
「無論です。あんな穢らわしい生き物達が私の役に立つのです。これほど名誉な事はないでしょう?」
予想はしていたけど、やはりこうして目の当たりにするとかなり堪えられない感情が沸き上がる。
背後に聳える奇怪な像は、これまで見てきたどれよりも巨大だった。
今居るのは城の最上階、恐らくは皇帝の居室なのだろう、そこにある像は明らかに床を貫いて天井にまで届いている。
果たしてそれが何処から伸びてきているのか、そして、どれだけの数の女性が犠牲になったのか、、、そこにはフェイネルも含まれているのだろう。
考えるだけでも反吐が出そうになるけど、何とか堪える、、、別に、今更ラウにどう思われようとどうでもいいけど。
「それで?それを使って何をするつもりなの?城が崩れる程の力、貴方も無事では済まないわよ?」
優雅に手を広げたままのラウが一瞬だけ目を見開き、だけどまたすぐに笑みの形へと表情を戻す。
「おや、悲しい事を仰る。私の望みを理解してくれていると思っていたのですがね」
微塵も悲しさを感じさせない表情のまま、大袈裟に身振り手振りしてみせるラウ。
これまでも彼の作り笑いは見て来たけど、、、今見せているものはまた別種のものに感じる。
その原因は、恐らく、、、
「ラウ、、、貴方、壊れたのね」
元々、一つの体に二つの魂を宿すなんて有り得ない事だ。
しかも、彼等はそれぞれが自我を持ち、それぞれの考えで行動していた。
辛うじて危うい均衡を保っていた存在が、今この場を覆う宝石の力によっていよいよ本格的に終わりを迎え始めているのだろう。
「さぁさぁ!私と共に参りましょう!最早あの耳障りな声も消え失せた!私と貴女、二人が一つとなり、新たな神として世を統べましょう!」
いよいよ変な事を言いだしたラウに向けて右手を向け、魔力を集める。
掌に集まった魔力を雷に変換し、それを槍の形へと変え、そして。
「終わりよ、眠りなさい」
別れの言葉と共に放つ。
それは真っ直ぐラウの胸を貫き、、、
「おや、、、これは、、、」
胸に空いた穴を不思議そうに見つめるラウ、、、だけど、彼は倒れない。
「まさか、、、アンタも死んでたの!?」
私とラウがほぼ同時に動きを止めた次の瞬間、像から伸びてきた蔦が彼を無造作に掴み、そのまま取り込んでいった。