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転生聖女の逃亡放浪記〈総合評価520&110000PV感謝!〉  作者: 宮本高嶺
第六章 ヤーラーン帝国淫蕩録
260/362

260 呪いの終わる時

それは突然だった。

胸の奥で何かが弾け、全身を貫く様な感覚が走り抜けたと思ったら、私を悩ませていた物が全て消え去っていった。

その瞬間は心地良い眠りから急激に目覚めさせられ、驚きよりも苛立ちが勝ったけど、それは皇帝も同じだったらしい。

「どういう事だ、、、」

私の胸に当てていた手を見つめポツリと呟く姿に、これが彼によるものではないと理解する。

それでようやく、私も状況を理解する。

そして、考えるよりも早く右手を伸ばし、皇帝の喉を握り締める。

「ごっ!?な、にを、、、!」

目を見開き、抵抗する皇帝。

だけど、その力は明らかにさっきまで見せていた物よりも弱弱しい。

「おのれ、、、『平伏せ』!」

聖痕が一瞬輝き、、魔力の籠められた言葉が放たれ私の耳を打つ。

だけど、最早何も起こりはしない。

更に力を入れ、喉を握り潰す私に皇帝が目を見開いて藻掻く。

両手が私の手を握り、必死に引き剥がそうとしている、けれど。

「どうやら、神とやらはアンタを見放したようね」

それを無視して、胸の聖痕に魔力を籠める。

理由は分からないけれど、ようやく訪れたこの好機を逃しはしない。

普通とは違う聖痕の反応に、何かを悟ったかのように皇帝が抵抗を止める。

「おぉ、、、その、、、輝きは、、、」

私の胸元に浮かび上がる聖痕、それに何を見たのか、彼が震える両手を伸ばして光に触れようとする。


「移痕の儀、展開」


皇帝の手は、私に届く事無く床に落ちる。

胸の聖痕の輝きが収まり、代わりに、新たに宿した聖痕に魔力を流す。

「終わりは呆気ないものね、って、前にも似たような事言ったわね」

喉元に浮かぶ聖痕を確かめ、魔力を抜いていく。

と、その時だった。

足元に転がる皇帝の死体、それが急速に干からびていく。

「これは、、、」

何が起きたのか分からず、辺りを見回してみるけど誰の気配もせず、魔力も感じない。

そこでふと、皇帝の言葉を思い出す。

「確か、数百年前には死んでいたって言ってたわね。だとすると、聖痕を奪った事で彼に掛けられていた力も消え去った?」

考え込んでいる内に、皇帝の体は完全に枯れ果て、そのまま皮膚も崩れ去り、最後には骨さえも粉々になって床に積もった埃の様になってしまった。

唯一、身に纏っていた服だけがそこに残され、ここに一人の人間が居た事を証明するだけになった。


皇帝の末路を見届けた後。

改めて体の状態を確かめてみると、体の芯にあった違和感は綺麗に無くなっていた。

皇帝の言葉にも反応は無かったし、本当に呪縛は消えてなくなったらしい。

だけど、こうしてみてもどうして突然解決したのかが分からない。

唯一、思い至る可能性は、皇帝の力に屈しかけた時のあの感覚だ。

それを思い出そうと胸元を触れてみるけど、当然何も感じない。

それどころか、こうして落ち着いてみると、何故かは分からないけれど何かが欠けた様な、今までずっとあった物が抜け落ちて穴が開いてしまったような気さえしてくる。

勿論、それは気のせいだろうし、寧ろ聖痕を手に入れたのだから更に満たされたはずなのに、、、

「この感覚は何なの?どうして、こんなに、、、」

例えようの無い感情が込み上げ、どうしようもなく泣き叫びたくなる。

それを何とか飲み込んで、一度大きく息を吐き出す。

謎は残ったままだけど、意識を切り替えて最後の一仕事を片付けに向かう。

「っと、その前に」

腹立たしい事に、皇帝に服を破かれてしまったせいでまたしても裸だ。

いや、何ならこの国に来てから、裸でいる時間の方が長い気すらしてきた。

しかも、それだけじゃなかった。

「うわ、最悪だわ」

更に悪い事に、腕輪型魔導具がいつの間にか無くなっているのにも気が付く。

思い返してみてもいつ消えたのか分からないけど、もしかしたらリアメノとの戦いの爆発で吹き飛んでしまったのかもしれない。

あれには、服だけじゃなくて保存食やお金も入れていたから、結構な痛手だ。

ともかく、まずは服を探さないといけないかな、と手近なクローゼットから漁る事にするのだった。


人気の無い城内を一人歩く、、、勿論、裸ではない。

正直、予想はしていたけどこの帝城に皇帝とラウ以外は住んではいないようで、となれば当然女物の服なんて物も無く、、、と思っていたら、ある一室にだけやたらと服が詰め込まれているのを見つけたのだけど。

「ここ、、、もしかしなくても私が居た部屋?」

目隠しをされていたから見覚えは無いのだけど、何となくそんな気がする。

何せ、そこにあった服はどれも私にピッタリなサイズだったのだから。

ただ、ドレスやら小洒落た服はともかく、エオローで捕まった時に着せられたような、やたらと布の少ない、というか裸同然のような物も多数あったのは、、、当然焼き捨てた。

ラウが準備していたというのは気に食わないけど、王族だけあってセンスは悪くないし、素材も良い。

念の為、一度魔法で異常がないか確認して、更には水で洗って風で乾かしてから着る事にした。

そうしてようやく一段落し、改めて城の上階を目指しているのだった。

気を引き締め直し、そこで待ち受けるであろうラウの下を目指す。

私の問題が解決した今、いよいよ決着の時は来た。

そして、全ての謎も解き明かす、、、それがどんなものであろうと。

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