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転生聖女の逃亡放浪記〈総合評価520&110000PV感謝!〉  作者: 宮本高嶺
第六章 ヤーラーン帝国淫蕩録
253/363

253 存在証明

ラウの創り出した青い宝石、それが私の肌に触れる。

「おや、、、」

だけど、それは何かに弾かれる様にして押し留められる。

勿論、私も障壁を張っているけど、明らかにそれとは別の何かによって宝石は私に届かない。

ラウが力を込めて押し当て続けるけど、次第に宝石は輝きを失い、やがてただの魔力へと霧散していく。

「一体何をしたのです?これに抗えるなんて有り得ないのですが」

そう言われても、私も分からないのだから答えようが無い。

いや、それよりも、今が好機。

障壁に回していた魔力を身体強化に切り替え、手足を繋ぐ鎖を引き千切る。

「しまっ」

「遅い!」

呆けていたラウの顔を殴り、腹を蹴り飛ばす。

吹き飛ぶラウへと飛び掛かり、顔を掴んで床に叩きつけ、そのまま抑え込む。

「うっ、、、ぐ、、、」

息が詰まっているのか、藻掻いてはいるけどその力は弱弱しい。

今の内に、問い質さないといけない事がある。

「アンタ、さっき何て言ったの?」

「っ、、、貴女もご存じでしょう。神の存在を」

やはり、私の聞き間違えじゃなかった。


神。

遥か昔、存在したとされる大いなる存在。

だけど、それはお伽話に過ぎない。

以前、ゼイオスもこの事について触れていたけど、私達が住む世界に神なんて居ない。

数百年前の古い文献の中に唯一、()()()()()という言い回しが見受けられた程度で、それ以外の事は何一つ分からない謎の存在。

その文献によると、文献が書かれるよりも前の時代には神を崇拝する者達も居たとされてるけど、今の時代に何一つ残されてない事から、そんな時代も、そして文献自体もただ妄想を書き連ねただけと見做されてきた。

かく言う私も、神なんてものが居るとは微塵も思っていない。

だって、この身には絶大な力を宿す聖痕がある。

文献曰く、神とやらは途轍もない力を持つ存在だとされている。

でも、もしもそうだとしたらこの聖痕は何の為に存在するのか。

その神とやらがどれだけの力を持つかは知らないけど、聖痕があれば何もかも事足りるのでは。

かつて、魔王であった頃に己の力について調べた事もあるし、その文献とやらも実を言うと見た事がある。

細部までは覚えていないけど、そこにはあって然るべき文言が無かった、、、即ち、()()だ。

それを踏まえて、私は一つの結論を出した。

神とはつまり、聖痕を宿した人の事を指すのだと。

では、神無き世界という言い回しは何か。

恐らく、聖痕を持つ者が長い間生まれなかった、或いは表立たなかった時期があった。

それを指した言葉こそがそれだろう。


その、神という言葉をラウは使った。

それが一体何を意味するのか。

「アンタが何を言いたいか知らないけど、まさか自分がその神とやらになった気でいるの?」

「まさか、有り得ませんよ。何せ私は、いえ、このヤーラーンこそ神が造りし国、彼の者の玩具なのですから」

ヤーラーンを神が造った?

「それは一体どういう、、、」

「これは異な事を、、、神は言いましたよ、()()()()()()()()()()()だと」

「私が?いえ、それよりも神が言ったってどういう事!?」

そう、その言い方はまるで、ラウは神と会った事があるみたいで、、、

「ナイレン!」

ラウの言葉と同時に背後から猛烈な殺意が飛んでくる。

咄嗟に身を屈めて横に飛び退く。

そのすぐ後ろを風が突き抜けていき、椅子やベッドが吹き飛び粉々になる。

「完全に忘れてたわ、アンタの事」

「、、、」

ラウを庇う様にして立つのは、ここしばらく姿を見なかった彼の侍女、ナイレンだった。

最後に見たのは確か、エオローでラウに捕まった時か。

あの時も折を見ては私に殺気を向けていたけど、、、何だろうか、今目の前に居る彼女は、本当にナイレンなのだろうか?

またしても妙な違和感を感じるけど、今は気にしている場合じゃない。

彼女の背後で立ち上がったラウが頬や腹を治癒し、私を鋭く睨む。

「やれやれ、こうなっては仕方がありません。ナイレン、殺さない程度に躾けろ。しくじれば次は無いぞ」

ラウの命令にナイレンが微かに体を震わせる。

ラウの本性を知った今、彼女がどんな事をされたかなんて想像に難くない。

そうか、彼女から感じる違和感はそれだ。

以前は無表情の中にも人間味があったけど、今はそれすらも無い。

まるで人形の様に感情の失せた目で私を見つめ、それでも殺気だけは放っている。


そうして睨み合う私達を置いて、ラウは部屋を出ていく。

静寂と、痛い程の殺気が部屋を包む。

「ナイレン、貴女はラウとゼムの事を知っていたのね?」

私の問いに返事は無く、ただ、微かに伏せられた目が全てを物語っていた。

そんな彼女の態度に、もう会話は不要だと悟り、私も静かに腰を落として備える、、、けれど。

「、、、知っていますとも」

感情を殺した、静かな声が聞こえる。

途端、突き刺すような殺気が消え失せる。

「ナイレン?」

「、、、殿下は、、、ラウとゼムの事は誰よりも知っていますとも」

口を開いた彼女の顔を見て、私は言葉を失った、、、その目から、一筋の涙が零れていたのだから。

だけど、それすらも忘れる程の言葉が、彼女から告げられた。




「私は、あの子達の母なのですから」

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