251 双血の真実
闇の中から意識が浮かび上がり、ゆっくりと目を開く。
何だかぼんやりとする頭のまま辺りを見回し、そこでようやく何が起きたかを思い出す。
浴室のドアを開け、目の前に居た者の姿を見た。
それはどう考えてもゼムでしかない、のだけど、何故か私は彼の姿を見た瞬間にあの感覚に囚われた。
そして、油断し切っていた私は抗う事すら出来ずに快楽の奔流に呑まれ、無様に気絶した。
それを思い出し、立ち上がろうとして、
「最悪、、、」
そこでようやく、私がベッドの上に寝かされていて、手足が縛り付けられている事に気付く。
いつかの事を思い出し、この後起こる事にも予想が付いた。
「さっさと出てくれば?」
今更隠れた所で、こんな悪趣味な事をする奴なんて一人しかいない。
そう思って私から声を掛けたのだけど、、、
「ったく、色気の欠片もねぇな」
扉を開けて入ってきたのは予想外の人物だった。
「ゼム?アンタ、どうして、、、」
「驚く事か?ここには俺とお前しか居ねぇんだぞ?」
さも当然の様に言い放ち、ベッドの側の椅子に腰掛けるゼム。
言動に不審な所や違和感はない、、、だけど、側に来た事で一つだけ変な感覚が走る。
「アンタ、、、本当にゼムなの?」
私の問いに答えは無く、代わりに意味深な笑みが向けられる。
その表情はまるでラウそのもので、それは双子だから似ている、何て物とはまるで違う、、、そう、どう見てもその笑みの浮かべ方はラウ本人だ。
そもそも、ゼムはそんな笑みを浮かべた事は無い。
それに加えて、私が感じた感覚。
これまで、ラウとゼムを明確に区別出来ていた要素は二人の気配の違いだ。
こればかりは、同じ生い立ちでも過ごしてきた環境によって差が出る。
皇太子として英才教育を受け、王族として立ち振る舞ってきたラウと、王族を追い出され、地下組織のリーダーとして生きてきたゼム。
この二人が纏う気配に違いが出るのは当然で、だからこそ私もそれを把握して二人を見分けてきた。
だけど、今目の前に居るゼムからは、、、彼の気配もある、だけど、同時にラウの気配も漂わせているのだ。
今までゼムと接してきてこんな事は一度も無かった。
だからこそ、私は戸惑いを隠せない、、、いや、嫌な予感と言った方が正しいかもしれない。
そんな私に気付いたのか、ゼムが立ち上がり、私の顔を覗き込みながら笑みを浮かべる、、、ラウがいつも浮かべているあの感情の無い笑みを。
「流石に勘付くか。いや、普通は分からねぇんだぞ?だからこそ何年も好き勝手出来てたんだからなぁ」
そう言って、左手を私の胸に押し当てる。
その瞬間、体が熱くなり、息が荒くなり始める。
「これ、は、、、」
「散々味わってきただろ?だがまぁ、お楽しみは後で、だ。お前をこうして鎖に繋ぐのは二回目だしな。それに、散々手こずらされた仕置きもするんだ、そうなりゃお前はもう終わりだ。だからな、先にお前の疑問を解いてやる」
ゼムが離れる。
それでも火照り疼き始めた体は静まらない。
そんな私を無視して奴が魔力を操り始める、、、そして、ゼムの左足の甲が強く輝き始める。
「う、そ、、、」
「ハハハハ!さすがのお前も気付かなかっただろ?だが、驚くのこれからだぜ?」
声高にそう告げ、更に魔力が高まる。
そして、左足に浮かび上がる聖痕。
それが眩い光を放ち、次の瞬間、右足の甲へと移動した。
「ふぅ、、、さぁ、これで理解出来ましたか?」
笑みを浮かべて私を見下ろすのは、気配も、口調も仕草も、何もかもがラウだった。
聖痕は発現する位置にも意味がある。
前にも言った事だけど、だからこそ目の前で起きた事に理解が及ばない。
聖痕が移動するなんて見た事も聞いた事も無いし、そもそも絶対に有り得ない。
だけど、、、
「フフフ、貴女でもそんな表情を浮かべるのですね。お陰で少しは溜飲が下がりましたよ」
さっきまでとはまるで違う、骨の髄まで仕込まれた優雅な足取りで私に近付くラウ。
「くっ、、、だ、め、、、今は、、、」
彼が近付くにつれ、私の体の熱がどんどん高まる。
手足が拘束された今、それを隠す事も耐える事も出来ず、確実に快楽に屈し始めていく。
そんな私をすぐ傍で見下ろすラウが満足そうに頷き、右手を私の顔に添える。
それだけで全身が痺れ、甘い吐息が零れてしまう。
だけど、、、それでも耐えないといけない。
「ゼムと、、、ラウは、双子じゃ、ない、、、?」
「いえいえ、私達は確かに双子でしたよ。ですが、ご存じでしょう?かつて我が国は双子によって大いなる災禍に見舞われた。では、それ以降どうしたと思います?」
「、、、間引いた、のね?」
「ええ、そうです。ですが、それは普通の間引きとは違う。双子は元々一つの物が二つに別たれた存在。であれば、それをあるべき形に戻さねばならない、、、この意味、お分かりで?」
それは、いくら何でも有り得ないし、悍ましい事だ。
だけど、、、もしもコイツの言う通りなのだとしたら、いま目の前に居る男は間違いなく、ラウでありゼムでもあるという事になる。