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転生聖女の逃亡放浪記〈総合評価520&110000PV感謝!〉  作者: 宮本高嶺
第一章 フェオール王国逃亡記
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25 歪んだ真実

思わず足を止め、アルジェンナを見つめる。

そう、今ここで、彼女に突き付けなくてはいけない事がある。

「お前、これまで何人喰ってきた?100年以上の間、命を繋ぎ止める為に。その腐った妄執の為に」

「わ、私は、、、ただあの人ともう一度、、、」

「ブライムは死んだ、それが全てよ。お前のやってきた事は、そもそもから間違いなのよ。ブライムの子と結ばれて、それが何故ブライムと結ばれるなんてなるの。聖痕に呑まれたお前が欲したのは、愛する人ではなく聖痕よ。それにすら気付けなくなった時点で、お前はもう、死んだも同然だったのよ」

「違う、、、違う違う違う違う!」

「もう目を覚ましなさい。いえ、お前はもう眠らないと。苦しいんでしょ?おかしいと思ったのよ」

ミレイユの体、アルジェンナの体。こうして見て、やっと理解した。

「あなた、ミレイユを喰おうとして失敗したのね。恐らく3年前に。一時的に魂が交わり、そこでまた元に戻った。でも1つだけ誤算が起きた」

恐怖からか、あるいは今も体が、魂が崩れているのか、アルジェンナが震える。

「聖痕が、ミレイユに持っていかれたのでしょう。だけど、魂が喰われかけたせいであの子は死に掛け、聖痕が失われる事を恐れたお前は、あの子の心臓に魔導具を埋め込み無理矢理生き永らえさせた。またあの子を喰らい、聖痕を取り戻す為に」

すぐにそれをしなかったのは、ミレイユと聖痕が同調していないからだろう。こんな移譲の仕方は異常どころではない、聖痕はミレイユを持ち主として認めていない。そしてミレイユもまた、そもそも自身に聖痕があると認識すらしていない。

そんな状態でまたミレイユを喰らっても、いや、そもそも聖痕はもうアルジェンナには戻らないだろう。今の状態が、奇跡なのだから。


だけど、それでも2人は聖痕の力が使えている。

魂が溶けあい、混ざった事で聖痕を持つミレイユと、聖痕の所有者であるアルジェンナ、2人で1つとでも言うべき状態になった。


あの夜、ミレイユに触れられた私が急に心を開かれそうになったのは、間違いなくベオークの聖痕の力だ。だけど、彼女には聖痕の残滓はあっても聖痕そのものが見えなかった。

逆に今、アルジェンナは聖痕を持っていないのに、聖痕の力を揮うかのような芸当を見せた。2人が根幹で繋がり、聖痕を共有している状態だからこそ、こんな事態になっている。

私が気付かないのも当然だ、こんな事、分かる訳がない。100年以上も生き永らえ、願いを叶えようなんて、()()()()()()()()()


「レオーネは昔からミレイユは病弱だと言ってたけど、少しづつ魔力を喰らってたんでしょ。あの子が死なない程度に、自分を生かす為に」

本当なら、ミレイユの存在すら隠し通すつもりだったのかもしれない。そうでなければ、これまで居たはずの子供達が消えた事に、誰も気付かないはずが無い。ミレイユにとっては運良く、アルジェンナからすれば運悪く、レオーネに見初められ、家格としても十分な彼女は未来の王妃として選ばれた。


だけど、アルジェンナはいよいよ弱っている。聖痕が正しく機能していない上、本来なら3年前に得ていたはずの魔力を補えていない。

狂ったこの女は、もはや形振り構わないだろう。だからこそ、ミレイユを呼び出した。

そして多分、ランヴェルトは、、、

「これ以上は見苦しいだけよ。ミレイユは私が保護する。レオーネにも真実を告げるわ。王家にとっては耳の痛い話でしょうけど、知らないままでは済ませられない」

アルジェンナの策略がどんな物だったのかは分からない。けど、今のこの国がこの女によって歪められているの確かなのだろう。


そもそもがおかしいと思った。何故()()()()が予言何て形になっていたのか。

そして、偶然にもブライムに掛けられた呪いによりフェオール家には聖痕が戻らず、ベオーク家に至ってはそもそも聖痕を持つ者が今日まで生き延びていた。

幾つもの偶然が重なり、結果としてこの国は聖痕に振り回され続けてきた。100年もの間。

18年前がその100年の節目。何の意味があったかは分からないけど、フェオール家に聖痕は戻り、そしてまた、()()()()()()

ここの因果関係は分からない、けれど偶然ではない。聖痕同士は否応なく引き寄せ合う。

フェオールと私、この因果は余りに大きい。何せ、世界を巻き込んだのだから。

ならば、どちらが先かは問題ではない。18年前に因果が集い、再び状況が動き出した。


 ・・・100年前の決着を、付けろと言わんばかりに・・・


そうこうしている内に、ようやく体が調子を取り戻してきた。頭の傷ももう塞がった。こういう時は聖痕が便利で助かるけど。

「、、、させない」

ふと、足元で蹲るアルジェンナが零した。

「もう諦めなさい。策を弄してこの国を操っても、もう何も戻らない。これ以上恥を晒す前に、英雄として死になさい」

「黙れ!裏切者が!私がお前を魔女として残してやったのは情けだ!お前の名はもはや私しか知らない!私が死ねばもう2度とお前は聖女に戻れない!分かるでしょ!()()()()()()()()()()!」


やっぱり、こいつも勘違いをしている。

確かに、私のこの髪は()()()から貰った。さっきの話と同じ、私とあの子の魂は混ざっている、その影響だ。いつかの偽名もそう、あの子の名を借りた。

本当の名にしても、そもそも私の母は街の人には名乗っていないそうだ。私が生まれた時に、リターニア・グレイス、とそう呼び息絶えた。それこそただの偶然だ。母の家がグレイス家だっただけかもしれない。それももう確かめる術は無いし、必要も無い。

だからこそ、私があの子と同一にされるのは許し難い。


だけど、、、


「アルジェンナ、あなたがグレイスを恋敵として憎んだのはしょうがない。私から見てもあの2人はお似合いだった。でも、そこで留まるべきだった。あの子を魔王の下に1人で行くよう仕向けたのね。あの子の性格を知っていたから。確か幼馴染だったんでしょ。それこそ、お姉様と呼んで慕うくらいには」

「今度こそ!邪魔はさせない!ミレイユを喰って聖痕を取り戻し、フェオールと今度こそ!」

「もう何も聞こえてないのね。ならいいわ、そのまま朽ち果てなさい。この世界は、未来は、今を生きる者が切り拓き、掴む物よ。お前でも、私でもない。過去の呪縛は過去で終わらせるべきだった」

アルジェンナに、そして自分に語り掛ける。

壊れたように震えるアルジェンナを置いて、私はバルコニーへと足を向けた。手摺に足を掛け、

「お姉様」

「何」

振り返らずに応える。

「せっかく再会したんです。聖女になるチャンスをあげます」

ウフフ、と。暗い笑みを零しながらアルジェンナが壊れていく。

「私、100年の間にある事が出来るようになったんですよ。意のままに魔物を生み出す事が!」

まるで魔王のような事を言い出す。だけど、

「まさか、3年前のあれは、、、」

そう、かつて私が住んでいた町に魔物の群れが押し寄せた。偶然だと思ってたけど、あの時ミレイユが近くに居たと、レオーネが言っていた。

3年前、、、

「あの時は変に暴走して雑魚が寄り集まったけど今度は違うわ」

振り返ると、そこにはもう誰も居なかった。

「さぁ、お姉様、聖女様。もう一度、この国を救って見せてね」

声だけが夜の闇から響き、月明かりに溶けていった。

愛って、怖いですね(遠い目

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