248 一つの末路
ラウが徐に取り出し、リアメノに押し当てた物。
見間違う事なんて無い、あれは例の青い宝石だ。
それがリアメノに触れ、吸い込まれる様にしてその内へと消えていった。
「あれ、、、でん、か、、、?」
「さぁ、貴女の最後の仕事です。せめてこれ位は役に立って見せなさい」
リアメノから離れたラウが、最後の一押しに聖痕を発動させ、大量の魔力をリアメノの叩き付ける。
声すら上げる事無く吹き飛んだ彼女が地面を転がり、そのまま動かなくなる。
「お前!」
私の声を無視してラウが馬車に乗り込む。
行かせまいと飛び出そうとしたその時、尋常じゃない魔力の嵐が吹き荒れて私を押し返してきた。
予め対策していたのか、ラウの乗った馬車は平然と走り出していき、遠ざかっていく。
追いかけたいけど、それを許してくれる状況ではない。
何せ、吹き荒れる魔力の出所は、倒れたままのリアメノなのだから。
障壁を張って魔力を受け流すけど、それでもじわじわと体が押し返されていく。
それでも何とか顔を上げ、そして、、、
「ア、、、イッ、ギ、アアアアアアアアアアアッ!」
突然、悲鳴を上げるリアメノ。
その体が魔力によって浮き上がり、次第に歪んでいく。
手足の先が蠕動して歪に膨れ上がる。
その変化が広がっていき、体も崩れる様に膨張していく。
ドレスがはち切れ、瞬く間に彼女の体が数倍にまで巨大化していく。
唯一、最後まで原型を留めていた頭が微かに動き、私に方に向く。
口元が動いて何かを言おうとして、だけどそれは音になる事無く、頭も一気に弾けて膨らむ。
込み上げる吐き気を、胸を抑えて堪える。
一人の人間が一分と掛からずに悍ましい物へと変貌していったのだ。
下手をすれば見ている者すら正気を失いそうだけど、そんな事は私には許されない。
少しづつ魔力の波が収まり、その頃にはリアメノだったモノは、巨大な肉塊へと変わり果てていた。
人の形は何とか保っている、、、一応は。
但し、手足は異常に太く短く、代わりに指が蔦の様に細長く伸びて蠢いている。
その体は、巨大すぎて支えられないからか、あらゆる所から骨の様な物が飛び出して地面に突き刺さっている。
そして頭は、、、見るに堪えない。
可愛らしかったリアメノの面影なんて微塵も無い、目は幾つもに別れてその全てが別の所を見つめて蠢いていて、口はもはやただの穴と化している。
それらの最後に目に付いたのが例の宝石だけど、それはもう頭の後ろ半分と一体化している。
そう、元の大きさよりも明らかに巨大になっているのだ。
恐らく、ラウの魔力を受けたからだとは思うのだけど、、、今は考えている暇は無い。
変化が完全に終わったのか、魔力の波は収まった。
それとほぼ同時に、リアメノが動き出す。
両手を振り被り、その先の蔦が大きく後ろに靡く。
私が身体強化を掛けて地面を蹴った瞬間、空気を切り裂く鋭い音が響き、それよりも早く私の居た地面が爆発を起こす。
だけどそれで終わらない、今度は足の蔦がそれぞれ意志を持ったかのように蠢き、私を絡め取ろうと伸びてくる。
それを躱し、魔法を放って焼き払おうとする、、、けれど。
「なっ!?」
私の放った炎は蔦にぶつかり、燃え上がる。
だけどそれはすぐに収まってしまい、薄っすらと煙を上げてはいるけど蔦は無傷。
「これは、、、あの宝石と同じ状態って事!?」
立て続けに様々な魔法を放つけど、どれもが効果無し。
一応、衝撃は受け流せていないから蔦を押し返す事は出来ているけど、すぐにまたこちらへと伸びてくる。
何本かが私の目前まで迫り、それらを身を捻って回避、同時に両手から黒炎の剣を取り出し、擦れ違った蔦を切り裂く。
そのまま他の蔦も切り裂いていき、本体へと迫り、、、
「っ!」
背後に気配を感じ、身を屈めながら横に飛び退く。
そこを、突き出された槍の如き勢いで蔦が通り過ぎる。
さっき地面を穿った手の蔦が反転して私を狙って伸びて来ていたのだ。
その蔦はリアメノの体に突き刺さる勢いで伸びていき、だけどその直前で折れ曲がる様に私の方へ向きを変えてまたしても襲い掛かってくる。
身体強化を更に強め、その蔦を躱して擦れ違いながら切り裂いていき、本体へと距離を詰めていく。
その私の背後から、短くなった蔦が伸びて追いかけてくる気配を感じるけど無視して体を切り裂く、けれど。
「これは、、、」
傷自体は与えられた、けれど、それは瞬く間に塞がっていく。
膨張は止まっているけど、その代わりに内を流れる膨大な魔力が治癒力を爆発的に高めているのだろう。
となると、下手に攻撃を続けるとその刺激で更に膨張が始まる可能性もある。
であれば、取るべき道は一つなんだけど、少しでも隙を見せれば蔦に貫かれるのは目に見えている。
手足を切り落とせば丸裸になるのだけど、恐らくそれも回復されるだろう、、、なら、何で蔦は切り落とせている?
嫌な予感が背筋に走り、弾け飛ぶ様に後方に飛び退る。
その体を掠めて、明らかにさっきよりも数の増した蔦が今の今まで私が居た地面に突き刺さる。
「これは、、、失敗したわね」
顔を上げて見つめた先、土煙の中から立ち上がる様に蠢いている蔦の数が、指の数よりも遥かに多くなっていた。