246 破滅への序曲
取って返して再び東の島。
やるべき事が一つに絞られたから、そのままの勢いで次の町を目指そうと空を飛んでいたのだけど。
何事も無く空を飛び続け、陸の上に辿り着いた直後だった。
「なっ!?」
突然、纏っていた風が四散し、体が落下していく。
聖痕に魔力を送り、もう一度風を纏おうとするけど、ある程度まで集まった所でやはり風が消失してしまう。
藻掻いている内に地面が近付く。
海の上、そして崖をも飛び越す為にそれなりに高い位置を飛んでいたのが仇になり、同時に猶予も作ってくれた。
だけど、それも何も手が打てなければ意味が無い。
内心で焦りつつ、もう一度聖痕に魔力を流してみる。
(少なくとも魔力の流れは問題無い。聖痕も全部機能している。ならなんで!?)
手応え的には何処にも異常は無い、なのに、肝心の魔法が発動しない。
(いや、それなら!)
咄嗟に全ての聖痕で身体強化を掛けてみると、何故かそれは上手くいった。
地面が目前に迫り、更に魔力を増やして着地に備える。
そして、、、
大きく窪んだ地面から這い出し、地面に転がって息を整える。
瞬間的とはいえ最大魔力を使ったせいで体も頭も重い。
とはいえ、何とか窮地を凌げた、、、地面には大穴が空いたけど。
どうやって助かったかというと、それはもう力技だ。
身体強化に、魔力の直接放出。
大穴が空いた原因はその魔力放出だ。
落下の反動を打ち消す為に、咄嗟に魔法ではなく、魔力を放ってみたらこれもまた上手くいき、こうして生還できたのだった。
息を整え、体の状態を確かめながら立ち上がる。
流石に全くの無傷とはいかなかったけれど、精々が掠り傷程度だ。
それを魔法で治療してみると、しっかりと傷は消えた。
つまり、私の魔法はちゃんと使えているし、この着地に至っては聖痕の力無しでは到底成し得なかった事でもある。
魔力を体内で循環させてみると、何処も違和感無く巡っていくのを感じ取れている。
そのまま風を搔き集め、体に纏う。
その浮力で体が浮き上がり、地面から少しづつ離れていく。
ある程度浮き上がった所で前後左右にと動いてみるけど、これも問題無し。
そのまま着地し、少し様子を見てみる、、、けど、変化無し。
「さっきのは一体なんだったの?今は大丈夫なのに、、、」
もう暫く自身を観察してみるけど、本当に何も異常が無い。
だけど、あの時は確かに風を纏う事が出来なかった、あれは一体何だったのだろうか。
自分が落ちてきた空を見上げて、ふとある可能性に思い至る。
「、、、確かめる、しかないわよねぇ。他に影響が無いとも言い切れないんだし」
正直、たった今の出来事があるから気は進まないのだけど、、、
大きく息を吐き出し、深く息を吸う。
そして、身体強化を掛け、風を纏い、一気に空へと飛び上がる。
一直線に上昇し、空を貫く。
(やっぱり、ここまでは順調。だけど、そろそろ、、、)
思った通りなら、もうそろそろ私が飛んでいた辺りに届くはず。
意識を研ぎ澄まし、その瞬間を待つ、、、そして。
「来たっ!」
ある位置に届いた瞬間、やはり纏っていた風が勝手に解けていく。
勢いは残っているから、緩やかに上昇が続き、やがて落下へと転じ始める。
その前に、予め魔力を回しておいて両目の聖痕を励起させ、周囲を見回す。
「やっぱり、結界が張られてる。起点は、、、」
島どころか、恐らくはヤーラーン、そしてエオローをも覆う規模の、途轍もない大きさの結界が空に張られている。
そして、魔力の流れを追って視線を動かすと、、、
「帝城、、、あそこが中心なワケね」
それを視認し、落ちていく体に意識を向ける。
今度は予め備えていたから難無く着地し、、、まぁやっぱり大穴は開ける事にはなったけど。
それはともかく、辺り一帯を覆う超大規模な結界、それがあるという事が分かり、それの起点が帝城だという事も分かった。
加えて、結界の特性も身を以て理解出来た、あれは触れると一時的に魔法の制御が出来なくなる。
効果時間としてはほんの数分程度だけど、それで十分だと証明されている、、、つまり、これもまた私を逃がさない為の対策だ。
少なくとも、エオローに入った時は何も起こらなかったからその後、恐らくは私がラウに囚われている間に展開されていたのだろう。
ただ、流石にこの規模はこれまでの幻惑とは訳が違う。
恐らく、元々何かしらの理由で準備をしていたか、別の用途で準備していた物を転用したと思うのだけど、前者だとするとあまりにも私に対する執着が長過ぎるし深過ぎるし、後者だとしてもじゃあそれは一体何だったのかという疑問が生まれる。
ただ、どちらにしろこの結界は魔導具では不可能な領域だ。
だとすれば、これもまたあの謎の宝石を用いたものだと考えるのが妥当で、であれば当然誰かが犠牲になっている、、、そして、考えたくは無いけど、この規模の結界を展開し維持するとなると、あの宝石はどれだけの大きさになるのか、あれが人を利用しないとならないのであれば、、、人一人では到底済まないだろう。
「、、、姿の見えない町の人、、、」
無意識に言葉が漏れる。
もしもこの先の町でも姿が見えない人が居るとしたら、そしてその人達が何処にも居ないのだとしたら、、、最も最悪な想像が過り、それを振り払う様に頭を振る。
そう、たとえこの先に何が待ち受けていようと、私は立ち向かわないといけない。
・・・辿り着いた先に、イングズをも上回る破滅が待ち受けているとも知らずに・・・