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転生聖女の逃亡放浪記〈総合評価520&110000PV感謝!〉  作者: 宮本高嶺
第六章 ヤーラーン帝国淫蕩録
244/362

244 果てなき悪意

移動を始めてそう時間も掛からずに隣の町へと到着。

規模としてはさっきの町とそう大差なく、だけど打って変わって賑やかで平穏だった。

ただ、一歩町に足を踏み入れた瞬間、喧騒が消え失せる。

念の為にと張っていた障壁に何かがぶつかり、弾かれていく。

だけど、残念ながらそれどころではない。

「、、、ある意味、さっきよりも酷いわね」

外から見えていた光景は、やはり幻影だった。

門を潜ると、本来の景色が姿を現した。


建物は軒並み破壊され、そこかしこに死体が転がっている。

その多くが既に腐乱しているから、相当前に滅ぼされたのだろう。

そして、幻影によってそれを隠蔽し、足を踏み入れたら魔導具か何かによる迎撃を受け、死体の仲間入り。

実際、入口付近には明らかに旅人や商人といった風情の恰好をした死体が多くあった。

それらを横目に、障壁を展開したまま歩き出す。

入った瞬間に飛んできた迎撃は今も続いていて、恐らくは動く物か魔力か、何かしらを検知して自動で攻撃する様にしてあるのだろうけど、正直それは気にしていない。

障壁を展開したままなのは、この惨状を見れば想像が付くだろう、、、この町の空気は人が吸っていいものではない。

常人であれば恐らくこの空気だけで死に至るだろう、それくらいには空気は穢れ切っているし、そもそも見て分かる程の瘴気が漂っている。

恐らく、この町を覆う幻影は隠蔽であると同時にこの淀んだ空気を外に出さない為の物だろう。

どう考えても意図した所業、であれば、これはウルギスのそれよりもなお残酷で、悪意に満ちている。

町一つを滅ぼし、死体を放置し、迷い込んだ人をも飲み込む死の坩堝、それが目の前の光景だ。

それから、念の為に町を調べてはみたけど、当然生存者は居ない。

例え生き延びた人が居たとしても、疾うにここから去っているだろう。

私も町を後にする、、、前に、ここは魔法で焼き払う。

これ以上の犠牲者を増やす必要は無いし、放置されたままの死体もそのままには出来ない。


煙を上げて町が燃えていく。

その光景を見つめながら、嫌な想像が浮かんでくる、、、この島は既に滅んでいるのでは?と。

既に二つの町が終わりを迎えているのだ、この先にある町が果たして無事であるかという保証は無いし、それに加えてラウの言葉が本当だとしたら、双血の楔も事実上壊滅していて、であるなら、彼等の本拠地があるという町も無事であるのか、、、いや、下手すればそもそもそんな町すら存在しない、ラウによって植え付けられた偽の記憶である可能性すらあるのでは、、、

「あぁ、マズいわね、これは」

自分の思考が絡まり始めている事に気付いて一度考える事を止める。

これも奴の策略なのだろうか、だとすれば効果は覿面だし、抑えていた怒りが込み上げてくる。

訳が分からなくなりそうな自分自身を宥めすかして次の場所を目指す。

最早意地の張り合いの様相を呈しているけど、事実、これ以上あの下種クソ野郎の思い通りにはしたくないしなりたくもない。


血の上って熱くなった頭を冷やしながら次を目指す。

地図上だと次の町までそこそこの距離があるけど、今のままでは私が何をやるか私自身分からないから、敢えて歩きで移動している。

同時に、こんがらがった考えも纏め直す。

いや、そもそもの大前提としてだ、ヤーラーン帝国は本当に存在していたのだろうか。

恐らく、国が興った事は事実だろうし、少なくとも今も存在自体はしているはずだ。

ただし、そこにある真実は全て入り口であるエオローで堰き止められている。

多くの人がそこで満足し、自身の場所へと帰っていく。

そう考えてみると確かに、不自然な程にヤーラーンへと渡る人は少ない。

もちろん、エオローがそれだけ充実した観光地であるのも事実だし、そもそもヤーラーン自体がそういった事業を展開している訳でも無い。

要は、必要でもない限り、わざわざ行く地ではないのだ。

ただ、それはヤーラーンに限った話ではない、どの国であろうと、わざわざ用もなく遠出する人など居ない。

だからこそ、エオローにはヤーラーンに関する話が流れてきているのだろう。

人の出入りを最小限に抑え、真実が露呈しない様にしている。

嘘と虚構、そして悍ましい真実を未知の力で覆い隠し、エオローをも利用して盤石にしている。

果たして、それがどれ程までに及んでいるのか。

良くも悪くも安定していた状況が何故こうも目まぐるしく動き出したのか、、、そうだ、一番気にすべき事をすっかり失念していた。

「、、、あの壁は、本当にラウが造らせた物なの?」

エオローとヤーラーンを隔てる様に建造された謎の壁。

そもそも、私がこんな事に巻き込まれたのはあれが原因だ。

最初は双血の楔が造り上げたと目されていたけど、後から聞いた話ではラウによるものだとなった。

だけど、奴の口からその事は聞いていない、ゼムがそう言っただけに過ぎない。

改めて、初めてラウに出会い、話を聞いた時の事を思い出す。

「、、、何かおかしい」

そこに、何か違和感が生まれる。

自分でもはっきりと説明出来ないのだけれど、何と言うかこう、何かがズレている。

それも、致命的な何かが。

顔を上げ、目的地とは違う方角に顔を向ける。

それを確かめる術は一つ、壁を直接確かめる事だけだろう。

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