242 壊れた町
どんな小さな町であっても、その中心には広場がある。
それはただの開けた場所であれば、何かしらの像だったりが置かれていたり、噴水なんかがあったり。
大きな街になれば公園などになっていたりもする、謂わばその町を象徴する場所だ。
そして、当然この町にも広場があった、、、はずだ。
見渡した限りでは、町の中心地なのは間違いない。
だけど、広場であったはずのそこは、町人が運んでいた箱で埋め尽くされていた。
彼等はこの箱を何処かへと運び、また箱を持ってここに戻ってきているようだった。
それが何を意味するのかはさておき、問題なのはその中心。
広場の中央に位置する場所、そこに、形容し難い奇怪な何かが置かれている。
少し離れたこの位置からだと、何かしらの像にも見えるけれど、、、その見た目は決してそんな物ではない。
そう、あの見た目は、魔法師団が持っていた謎の装置と似ている、、、即ち、人の肌の様な外見に、そこかしこが脈打ち、そして、やはり謎の宝石が陽射しを受けて青く輝いている。
但し、像と呼んだ様に、今回の物はほぼ人の形を保っている。
いや、保っていると言っても、その表面はまるで溶かされた様に爛れていて、手足の形もほぼ見えないし、体なんて男か女かすら見分けがつかない。
極めつけは顔だ。
例の宝石は、その顔に当たるであろう部分に埋め込まれているのだ。
しかも、目の代わりだとかそんな生易しい物ではない、顔がほぼ全て宝石で埋め尽くされている。
これがもっと別の何かであれば、まだ芸術作品とでも呼べただろうけれど、これはそんな域を遥かに飛び越している。
私でさえ、目を背けていたい位には悍ましく、そして吐き気を催す。
だけど、、、私はそれから目を離せなかった。
決して認めたくない予感が、一目見た時から拭えない。
それを確かめる様にゆっくりと近付き、その像の傍に辿り着く。
表面は見るに堪えない有様だけれど、体格そのものは維持されているようで、、、恐らく、かなり大柄な人物で、であれば恐らくは男だったのだろうか。
宝石が埋め込まれた頭部、そこに、記憶にある快活な笑みが重なる。
「、、、ヴァネス、、、」
理由なんて分からないし、決して認めたくはない。
けれど、私の直感が、これがヴァネスであると告げていた。
けれど、、、だけど、何がどうしてこんな事になっているのか。
自分でも自分の考えを受け入れられず、顔を背ける。
その視線の先に、一つの木箱が置かれていた。
他の木箱と違い、大きさは片手で持てる程度で、アチコチが赤黒く変色している。
吸い寄せられるようにそれを手に取り、留められていない蓋をそっと持ち上げる。
その中には、予想通りの物が収められていた、、、あの宝石がある場所に本来あったはずの物、、、ヴァネスの顔だ。
抉り取られ、恐怖と苦痛と驚愕に染まった彼の顔が、その小さな箱の中に無造作に放り込まれていた。
「、、、何があったのよ。どうしてこんな事に、、、」
蓋を戻し、そっと箱を像の側に下ろす。
今すぐにでも宝石を破壊して彼を解放してあげたいけれど、、、もう少しだけ。
前回の時は、全てが終わった後に色々と気になる事が出てきて失敗した。
ここでまた同じ失敗は出来ない。
彼の犠牲を無駄にしない為にも、今だけは心を殺して調べる必要があるのだから。
私を凝視しながら箱を運搬し続ける町人達を無視して、変わり果てたヴァネスを調べる。
とはいえ、変質した体はやはりというか私の聖痕が拒絶してしまい、詳しく分からなかった。
ただ、直接触れてみて分かったのが、脈動している事からも分かるように、こんな状態でもまだ生命活動は続いてる。
前に見た物もそうだったけど、ここまで変容が進み、今回に至っては顔まで剥ぎ取られている状態なのに、肉体的には生存している。
視線を上げ、その失われた顔に埋め込まれた宝石を睨む。
前回と明確な違いがあるとするなら、この宝石の大きさだろう。
片手に収まらない程の大きさのそれに手を伸ばし、そっと表面に触れてみる。
「、、、何も起きない」
前は何か違和感があったけれど、今は何も感じない。
そのまま表面をなぞり、少し力を込めたり魔力を流したり、と試したけれど変化は起こらない。
ただ、やはり魔力の流れは見えた。
この宝石を中心に、町全体を覆う程の魔力が放たれている。
ただ、それが何にどう影響しているのかが見えない。
少なくとも私には何も感じられないから、無意味に垂れ流している訳ではないのだろう。
だとすると、これは町の人達に対して作用しているのだろう。
像から目を離し、町の人々を観察する。
「彼等がこんな状態なのはこの魔力のせい?だとすると、そもそも何かしらの魔法を掛けられて、それを維持、或いは増幅している?」
近くに箱を置きに来た町人が居たから、右目の聖痕で状態を観察する。
「、、、彼等も生きてる、死体を操っている訳じゃないのね。だとすると、精神操作?いえ、今回なら記憶操作の方が正しいかもしれないわね、、、」
そこで、ふと視線を感じて後ろを振り向く。
そこに、
「、、、彼がここにいるなら、当然貴方もいるわよね」
虚ろな瞳をこちらに向けるキネレイが佇んでいた。