235 幻惑を打ち破れ
鎌を振り抜き、ローブ姿の敵を切り裂く。
だけど、
「ったく、厄介な連中!」
両断したはずの敵の姿が掻き消え、背後に気配。
即座に風を纏って自身の姿を隠し、それと同時に木を駆け登り、枝から枝へ飛び移る。
戦い始めてから数分後、今はそうして可能な限り、奴らの前に姿を晒さない様に立ち回り続けている。
理由なんて言うまでも無い。
いつぞやの時のように、魔力を当てられたらその瞬間、私の敗北は確定する。
なら、距離を取って魔法で攻撃すればいいのでは、と思うだろうけど、それも効果は無い。
帝都から脱した時もそうだったように、コイツらは魔法での攻撃を意に介さない。
この場でも、私が最初に選んだ攻撃手段は勿論魔法だった。
ところが、風で手足を切り裂こうと、雷で頭から撃たれようと、氷漬けにしようと、その全てを無視するのだ。
効果が無い訳では無い。
最初は幻惑を疑ったけど、確かに奴らは傷を負っている。
だけど、それに一切気を払わないのだ。
すぐに魔法から武器での攻撃に切り替えてみたら、今度はあっさりと斬り伏せる事が出来た、のだけど。
それを待っていたと言わんばかりに、奴らは魔力を私目掛けて放ち始めた。
普通の魔法とは違い、魔力のみを放つだけだと目には見えない。
私は目に宿る聖痕のお陰でそれを視認出来ているけど、だからこそ厄介さが増す。
四方八方から魔力が飛び交い、私に浴びせようとしている。
しかも、それだけでなく、私が回避した先を読んで飛んでくる魔力まであるし、ただ無闇に放たれている魔力もある。
それらが、結果として私の動きを制限し、回避を難しくしている。
見えているからこそ、それが逆に自分自身を追い詰めているのだ。
いよいよ窮地に追い詰められた時、ふと頭上の木の枝が目に映った。
その瞬間、考える事なく木を駆け上り、姿を隠した。
魔法による隠蔽をも重ね、奴らの頭上を動き回り、奇襲する戦法に切り替えたのだ。
そのお陰で奴らの数を半数近くにまで減らす事が出来たけど、そこから奴らの動きが変わった。
まず、これまで使っていなかった幻惑を使い始めたのだ。
そしてやはりというか、その幻惑を私は打ち破れなかった。
どれだけ聖痕に魔力を送っても、奴らの実態を捉えられない。
手当たり次第に鎌を振るうけど、悉くが空振り。
そうして一瞬の隙を突いて放たれる魔力。
それを躱す為に木に飛び乗り、奴らの姿を探して動き回る。
今はまだ何とかなっているけど、幾ら姿を隠しても揺れる木々は誤魔化せない。
少しづつ、少しづつ奴らの包囲は狭まってきていた。
いつまで経っても陽が沈まない。
ローブ姿の集団、帝国魔法師団第一部隊と戦い始めてかなりの時間が過ぎたはずなのだけど、未だに空は青空。
照り付ける陽射しは高く、穏やかなまま。
それもその筈、この辺り一帯は結界が張られ、その内側に幻惑が展開されているのだ。
ジリ貧になり始めた時、ふと律儀に付き合う必要が無いと気付いた私は、この場から離脱しようした。
ところが、ある程度進んだと思ったら元の場所へと戻されていたのだ。
何処をどう進んでも同じで、案の定、聖痕で打ち破ろうとしたら魔力が散ってしまい。
そうこうしている内に奴らの包囲が迫ってきてまた木々を飛んで逃げ回る事になった。
その途中、空の様子がおかしいと気付いて、ようやくここが結界の中、更には幻惑の檻だと気付いたのだった。
そこから、何とかもう何人かを斬り伏せる事が出来て、敵の残りは六人。
ただ、これも幻惑の可能性があるから当てにはならないだろう。
少なくとも、地面に倒れてる死体は本物の様だから、せめてそれを支えにしておきたい。
「っていうか、アンタら揃いも揃って不気味なのよ!」
頭上から急襲しつつ文句を垂れるけど、鎌は空振り、地面に突き刺さる。
少し離れた所に実体が現れ、私に向けて魔力を放ってくる。
ここまで戦ってきて感じてのだけど、コイツらには凡そ感情と呼べるものが無い気がする。
どんな動作でも、まるでそうする事だけしか頭に無いかの様に振る舞っているのだ。
手傷を負わせた時にも思ったけど、こうして奴らの動きをよくよく観察しているとより一層そう感じるのだけど、、、似た様なものをつい最近見た。
「、、、あの町の人達と同じ、、、いえ、寧ろあっちがコイツらと同じ事をされた?」
私を捕えようとしてきた町の人達。
彼らもまた、感情など感じさせない言動だった。
そう、目の前に居るコイツらとまるで同じ。
であれば、これもラウか皇帝の力なのだろうか。
あの記憶を弄る力がどちらのものか分からないけれど、こうなると帝都の中枢に居る人達はほぼ同様だろう。
加えて、こんな幻惑や結界まで。
ここまでの規模、聖痕じゃないとまず扱えない。
でも、幾ら何でもここに立つ事無く魔法は展開出来ない。
目の前のローブ姿を斬り払いながら、何とかこの状況を打破する切っ掛けを掴みたいと観察を続ける。
その時、視界の端に何かが映り込む。
それはすぐにローブ姿に隠れてしまったけど、、、確かに、何かがあった。