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転生聖女の逃亡放浪記〈総合評価520&110000PV感謝!〉  作者: 宮本高嶺
第六章 ヤーラーン帝国淫蕩録
233/363

233 迫り来る悪意

広くは無い宿の部屋で、女と睨み合う。

突然の凶行、だけど、それ以上に彼女の様子に戸惑いしか抱けない。

さっきまで会話していた時と何ら変わらない表情で、私を殴り倒そうとしてきた彼女。

まだ名前すら聞いていないのに、道中の会話で少しは打ち解けたつもりだった。

けど、何がどうしてか、こうして敵対する状況になっている。

何よりも、彼女の状態が異常さを物語っていて、余計に混乱を招いているのだ。


何処か間の抜けた、のんびりとした笑みを浮かべたまま、手に持った棍棒を構える姿は、悪い夢の様な光景だ。

そして、さっき口走った事もまた、気掛かりな点だ。

「、、、ラウの下に、ですって?」

「あ、いけませんよ。ちゃんと殿下って呼ばないと。あっ、貴女は旦那様か、それよりご主人様の方が良いのかな?」

悪い冗談、では無さそうだ。

少なくとも、彼女は本気でそう考えているのだろう。

確かに、私はアイツに捕まっていたけど、少なくとも妻として娶られる話はまだ公にはされていないはず。

なら、何故彼女はその事を知っているかの様に話している?

、、、一つだけ、思い当たる節はある。

最も最悪な考えだし、到底成し得ない事ではあるけど、既に前例は見ている。

「、、、貴女、記憶を弄られたわね」

「えぇー!そんな事ありませんよ!私は私です!そして、貴女を殿下の下に連れて行かないといけないんです!」

そう言うや否や、またしても棍棒を振りかざして飛び掛かってくる。

それを躱して、仕方なく軽い雷撃を放って意識を刈り取り、、、


「ぁ、、、ダめ、、、デすよぉ?こイツが、コワれテもいイのか?」


不気味な人形のように、不自然な動きと口調で振り返りざまに棍棒が振るわれる。

体を反らしてそれを躱し、意を決して窓を破って外に飛び出す。

二階の高さから風を纏って飛び降り、雨が降り始めた地面に着地する。

その背後で、ベシャリと何かが落ちる音。

振り返ると、女が地面に倒れている姿があった。

その下に、血が流れていて、何が起きたのかを理解する。

「何て事、、、」

まさか、体勢すら整えず、窓から飛んだのか、、、

あれではもう助からない、そう思ったその時だった。

「アアア、、、デンカ、ノ、、、モトヘ、、、」

女が呻きながら立ち上がる。

首が不自然な方に折れ曲がり、目からは生気が失われているのに、それでもまだ動いている!

だけど、事態はそれで終わらなかった。

彼女の呻きを合図に、周りの建物から次々に人が出てくる。

その手に、手近にあった物を持ち、ジリジリと私を取り囲む町の人々。

その中には、ここまで同行していた双血の楔の奴らも混ざっていて、町人と同じ様に私を包囲していた。

何が起きているのか分からないけど、生気の失われた彼等の顔を見て、この町はもう駄目だという事だけは悟ってしまう。

そして、この異常事態が誰の手によって引き起こされているのかも、、、


「サァ、デンカノモトヘ、、、」


彼等が、口々にその言葉を放つ。

いや、それはもう意味のあるものではない。

ただ、それだけを音にする物に、彼等はされてしまった。

「クソ野郎、ここまでするなんて、、、!」

口汚くラウを罵り、だけど今は目の前に集中する。

どの道、彼等をこのままにはしておけない。

右目の聖痕を使い、彼等の状態を確認する、、、けど、すぐにやめる。

ほんの一瞬見ただけで、彼等がもうどうしようもない状態だと分かってしまった。

何をどうしてこんな風にされたのかは分からないけれど、既に手遅れだ。

胸の聖痕に魔力を流し、解き放つ。

せめて苦しまない様に、聖痕の力で静かな終わりを与える、、、私に出来るのはそれだけだから。


雨が強まる。

私以外、誰も動かなくなった町の中で、その光景を目に焼き付ける。

何か、弔いでもするべきかと考えたけど、今回はウルギスの村とは規模が違う。

しかも、建物は全て無傷で、何なら住人も他の人々も、一人を除いて怪我すら負ってない。

「、、、ただの自己満足だけど、せめて貴女だけでもね」

その、ただ一人の負傷者、私と共にここへ来た双血の楔の彼女を町外れに埋葬する。

町の方を振り返り、沈黙に沈んだ景色をもう一度心に刻み込む。

そして、奥底から湧き上がる怒りを今は鎮め、駆け出す。

振り返りはしない。

それよりも、大橋へ向かった連中の状況を確認するのが先決だ。

どこまでラウの手が及んでいるのか分からないけれど、あの記憶を好き勝手に書き換える能力は危険過ぎる。

或いは、ヴァネス達もリアメノに関する部分だけでなく、他にも何かされている可能性もあるのだ。

もしもそうだとしたら、、、いや、今は考える暇は無い。

身体強化を掛け、川沿いを駆けていく。


大橋に辿り着く。

だけど、その光景に私は雨に打たれたまま立ち尽くした。


大橋が崩落している。


根本を残して、架かっていた筈の橋が崩れ落ちていた。

残骸が川の中に飛び散り、火の手も上がっている。

陸地では、その瞬間を見たのだろう、多くの人々が顔を覆い、或いは空を仰ぎ見ている。

その中に、ヴァネス達の姿は無かった。

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