表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生聖女の逃亡放浪記〈総合評価520&110000PV感謝!〉  作者: 宮本高嶺
第六章 ヤーラーン帝国淫蕩録
231/362

231 幕間・破滅への綻び

重苦しい闇が満ちる。

元より、光など存在しないその空間に、唯一在る事を許されていた弱々しい光。


グレイス・ユールーンは胸に抱いた壊れかけの闇を必死に抱き締め、護り続けていた。

ところが、それがここに来て急激に軋みを上げ始めたのだ。


リターニアの内から、外の様子は窺い知れない。

だが、それでもリターニアの内に居るグレイスは、彼女の事を把握している。

故に、彼女が何処に向かい、その身に何が起きているのかも正しく把握している。

いや、当の本人以上に、より正しく、深く理解していた。


崩れかけの闇を己の光で包み込み、何度も祈りを捧げる。

それでも尚、迫り来る終わりの時に、グレイスは顔を上げる。

「どうして、、、まだ封印は解けていないのに、、、」

彼女の言葉に、答えは無い、、、筈だった。






「本当に、人間という生き物は醜くて、愚かで、不愉快で、、、面白いわ」






グレイス以外に何者も存在しない筈のそこに、声が響く。

身構えるグレイスの前に、それはゆっくりと姿を現す。


それは、女だった。

姿形こそリターニアに似てはいるが、致命的に違う、、、いや、根本的にその存在は違うものだった。


対峙するグレイスが自らの胸を抑え、必死に息を整える。

それを、女が侮蔑の笑みで眺める。

「ほぅら、私を見ただけでその有様。いつまで耐えるつもり?」

その言葉に、グレイスが女を睨む。

「貴女が諦めるまでです。決して、リターニアを貴女の手には渡しません」

「、、、アハッ!」

途端、女が腹を抱えて笑い出す。

そのまま前のめりになり、直後。

「くだらない」

「っ!?」

決して目を離さなかったにも拘らず、女がグレイスの目の前に迫っていた。

突然の事に、グレイスも息を呑む。

その顔に、女の手が優しく触れる。

「フフ、可愛いわね。健気で、献身的で、慈愛に満ちていて、、、反吐が出るわ」

それは、まるで手品か何かか。

グレイスの顔に触れていた手が軽く振るわれた、たったそれだけで、グレイスは抱えていた闇から引き離された。

「そんな、、、」

身構える暇すら無かった。

グレイスが闇の空間を転がり、それでも護るべきものの為に立ち上がる。

「ウフフ、、、さぁ、いよいよ始まるわ!後は、我が下僕が成すべきを成せば、最後の楔が抜け落ちる!」

「させません、そんな事!」

駆け出したグレイスが手を翳し、女に向けて魔力を放とうとし、

「アラアラ、いいのかしら?この子が壊れちゃうわよ?」

女が手に持った闇を見せつける様に前へと突き出す。

「お願い!リターニアを返して!その子に罪は無い!」

咄嗟に魔力を霧散させたグレイスが必死に叫ぶ。

それを、女は嘲笑う。

「いいえ!いいえいいえいいえ!この子は罪!貴様ら人間共の全ての罪!だからこそ存在している!存在する事が許されている!コレが愛されるなど有り得ない!コレが祝福されるなど許されない!お前が護るに値しない!」

「全ての命は愛される為にあります!祝福される為にあります!決して、貴女の為に在るのではありません!」

グレイスの言葉に、女が深く溜め息を吐き、手に持つ闇を無造作に放り投げる。

即座に反応したグレイスが、己が身を省みる事も無く飛び出し、全身で闇を受け止める。

「アハハ、スゴいスゴい!流石は()()()の祝福を受けただけはあるわね!」

その光景に、女が腹を抱えて笑い転げる。

言葉は褒めているのに、そこにある感情は侮蔑だけだった。

「うっ、、、満足しましたか?なら、消えなさい」

「いいえ?」

またしても、女が突然移動し、グレイスの顔を覗き込む。

その、血の色をした瞳に、グレイスは初めて恐怖を抱いた。

その顔に女の両手が伸び、そっと包み込む。

「これから起こる事を教えてあげる」


身動ぎする事も、目を逸らす事さえも許されない。

「コレの身に起きてる事は理解してるでしょ?聖痕が言う事を聞かない、、、当たり前よね?()()()()がここに居るのだから。とっくにね、コレを生かすも殺すも私の掌。だけど、それだと意味が無い。余計な不純物だけを消し去れば良い、、、筈だったのに」

「がっ!っ!ぁっ!」

グレイスの顔を包む手に力が込められる。

痛みに踠く彼女を、女は無視して彼方を睨む。

「愚かにも、この人形を護ろうとする奴が居るの。しかも、厄介な事にソレは人形と深く結び付いている。だから、まずはそこから始める事にしたのよ?」

力が緩み、代わりに顔と顔が触れる程近くに迫る。

「な、にを、、、」

「フフ、物事には順序があるって言うじゃない?だから、まずは体。下僕がどう壊すか眺めてたけど、ウフフ、いいわねぇ、快楽!気持ち良くなって壊れていけるなんて、ある意味幸福でしょ?そうして徹底的に体を嬲り、汚し、犯し尽くして、その果てに、望まぬ男に純潔を奪われる。その時、コレの心は完全に砕け散る、、、」

そこに至って、グレイスは女の策略に気付き、目を見開く。

「まさか、、、」

その呟きに、女がグレイスの額に口付けをする。

まるで、祝福するかの如く。

「ええ、その通り!その時、コレは憎しみを抱くでしょうね?聖痕の発動を邪魔し、その身が穢される原因を作り出した者を!そうでしょ?裏切りの聖女サマ?」

「あ、、、ぁぁああああああああ!」

グレイスの慟哭が闇に響く。

それを聴きながら、女が舞い踊る。

「あぁ、その時が楽しみだわぁ!必死に護り抜いてきた者に、最後の最後に拒絶され、目の前で全てが崩れ去るのを見ている事しか出来ない貴女の姿を見るのが!」

その最後に、涙を溢すグレイスの髪を掴み上げ、無理矢理目を合わせる。

真紅の瞳から、赤い光が怪しく奔り、闇を染め上げていく。

その光景に、グレイスが手を伸ばして抗おうとし、、、






「我が望みの邪魔をした報いを受けよ」






絶望の叫びが、虚しく響いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ