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転生聖女の逃亡放浪記〈総合評価520&110000PV感謝!〉  作者: 宮本高嶺
第六章 ヤーラーン帝国淫蕩録
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229 消された記憶

双血の楔の隠れ家がある町は活気付いていた。

エオローの島主達を助け出せたから、というよりは、あの王子相手に一泡吹かせる事が出来た事の方が大きいのだろう。

途中で聞こえた話によると、あの後、要塞は私の放った炎が回り、ほぼ焼けたそうだ。

石造りだけあって形は保っているものの、中身は粗方焼失したらしい。

幾らか残っていた帝国兵も火の手が迫った事で撤退、放棄を決めたらしく、あそこは完全に無人となった。

確かに、結果だけを見れば人質を助け出す事に成功し、少なくない敵戦力も削ぐ事が出来た。

とは言え、肝心の存在は逃げ仰せているから、余り時間の猶予は無い。

奴が前に言ってた事を考えると、ヴァネス達の奪還よりも、エオローへの侵攻の方に舵を切る事も考えられる。

それを止める為にも、ヴァネス達から話を聞きに行こう。


隠れ家に着くと、警備に立っていた者がすぐに中へと案内してくれた。

「よう、顔色も良さそうだし、もういいのか?」

私に気付いたゼムがすぐに駆け寄り、声を掛けてくる。

「ええ、お陰で色々スッキリしたわ。それより」

視線の先、助け出されたヴァネス達三人も私に気付いてそれぞれ反応してくる。

ゼムと共に彼等の傍に行き、改めて無事を確認する。

「間に合って良かったわ」

「ああ、、、正直、まだ混乱してるがな、、、何せ、ラウ殿下直々の命だって捕まったからな」

ヴァネスが髪をぐしゃぐしゃに掻き回しながら深い溜息を吐く。

フェイネルとキネレイも同じなのだろう、俯いたり天井を仰ぎ見たり、動揺と困惑が滲んでいる。

一度彼等から視線を外し、ゼムに声を掛ける。

「ところで、要塞にもう一人女の子が居なかった?」

「いや?おい、誰か見掛けた奴は居るか?」

ゼムがメンバー達に声を掛けるけど、全員が首を横に振る。

まぁそうだろうとは思ったけど、やはりリアメノは居なかったか。

恐らくは帝都に居るのだろうけど、ラウの口振りからすると良い扱いはされていない可能性もある。

「なあ、嬢ちゃん。誰を探してんだ?」

そんな様子を不思議そうに見ていたヴァネスが聞いてくる。

そうか、彼等はリアメノの行方をまだ知らないんだった。

「リアメノよ。ラウより先に帝国に来ているはずなんだけど、、、その様子だと、貴方達も見てなさそうね」

そこで、三人が顔を見合わせて首を傾げる。

何か引っかかる事でもあるのだろうかと待っていると、

「いや、というかだな、そのリアメノってのは誰だ?」

「はっ?」

「あん?」

私とゼムの声が重なる。

ゼムも大方の事情は把握しているようだけど、だからこそヴァネスの言葉に驚いていた。

「誰って、、、リアメノよ。何を言ってるの?」

私の言葉に、三人がまたしても首を傾げる。

その表情は至って真剣で、とてもふざけている様には見えない。

「待って、まさか本当に分からないの?」

「ごめんなさい、、、全く心当たりがないわ」

困惑するフェイネルに、こちらも困惑してしまう。

一体何が起きているの、、、?


それから色々と質問したけど、他の事は全て覚えているのに、リアメノの事だけが綺麗に彼等の記憶から消えていた。

彼等の中では、南東島の島主は空席になっており、ドランドが代理で兼任していた事にされていた。

「なぁおい、こんな事が可能なのか?」

一緒に話を聞いていたゼムが腕を組んだまま私を見てくる。

答えを期待されているようだけど、正直私も考えあぐねている。

「、、、可能性としては、聖痕による魔法があるけど、、、こんな一部分だけ何て私でも不可能よ」

記憶を弄る事自体は、普通の魔法でも在りはする。

但し、それは一定期間の記憶だったり、或いは全てを消し去るか、その二択がほぼ全てだ。

聖痕であればもう少し細かい調整は出来るだろうけど、特定の人物の記憶だけを消し去る上に、齟齬が生じない様にするなんてそれこそ不可能だ。

そこまで手を出せば、記憶、認識が歪み、それによって自我が崩壊、最悪は死に至らしめる。

だけど、この三人は全く無事だし、彼等の中に於ける記憶の辻褄はしっかりと繋がっている。

こんな事が、果たして有り得るのだろうか、、、

いや、今はそこを考える時ではない。

悔しい事に、これで一つ判明した事があるのだから。

「一つ、ハッキリとした事があるわ」

ゼムやヴァネス達の顔を見回し、ある事実を口にする。

「ドランドが殺されたのはこの為の可能性があるわ。ヴァネス達の記憶の中で、ドランドは東の二つの島を管理していた事になっている。であれば、ドランドが生きてここに居る事自体が不都合になる」

「おい、、、おい待ってくれ!じゃあ何か!俺達は、始めから殿下の手の上で転がされてたってのか!?」

立ち上がり、私の肩を掴んで悲痛な叫びを上げるヴァネス。

その手をそっと掴み、

「、、、残念だけど、私ですら手玉に取られたのよ?アイツの手が何処にどう及んでいるかなんて、当人以外は知る由が無いわ」

残酷なようだけど、ここで余計な気遣いをしてはあげられない。

呆然として崩れる様に椅子に座り込んだヴァネスと、隣で同じ様に項垂れるフェイネルとキネレイをそのままにして、私とゼムはそこから離れる事しか出来なかった。

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