228 揺れる覚悟
夜の風に冷えた体が朝陽に照らされて暖まっていく。
「あれ、、、寝てた、、、?」
ぼんやりとする頭で昨夜の事を思い返す。
確か、泉に飛び込んで汚れを落とした後、服を着替えて、、、そのまま眠ってしまったんだ。
改めて自分の体を確認するけど、一先ず大量の返り血は落とせている。
ただ、近くに脱ぎ散らかしたままの服は、流石に酷い有様だ。
仕方なく、それは処分しておくとして、問題は。
「、、、内側の方は、どうにもならない、か」
要塞でラウの目の前に立った時の事を思い出す。
屈辱的ではあるけど、あれへの対策を考えないとこの先も同じ事の繰り返しだ。
そもそも、あの時も私は対策を講じていた。
体がどうにもならないなら、外部からの刺激を無理矢理断てば良いはず、そう考えて周囲に障壁を展開させていた。
だけど、実際にはラウの姿を見ただけで駄目だった。
勝手に障壁は解かれ、体は言う事を効かなくなり、自然に言葉が出てきた。
怒りと恥辱を抑え付けて、冷静にあの時を思い出す。
まず、最も効果的だったのは、ラウが裸だった事だろう。
特に、男の象徴が雄々しくそそり立っていたのが、私の理性を破壊した要因だ。
加えて、彼の体臭や声、その全ても相俟ってより私に働き掛けたのだろう。
現に、こうしてあの光景を思い出しても何も異変を感じないし、劣情を催す事も無い。
なら、目と耳、鼻を塞いでしまえば良い、、、訳が無い。
奴に触れられる事もまた、今の私には致命的だ。
魔法による補助で警戒する事も出来るはずだけど、それに頼った結果がアレだ。
更に困った事に、聖痕も今は当てに出来ない。
遠距離からの暗殺が現状の最善策ではあるけど、奴も聖痕を持っている以上、成功率はかなり低い。
「やっぱり、私自身をどうにかするのが一番なんだけど、、、」
試しに治療をしてみるけど、やはりラウと皇帝から与えられた物だけは消せない。
何なら、昨日鞭で打たれた部分は綺麗に治せているのに、だ。
そっと胸に触れて、己の内に問い掛けてみるけど、当然何も返っては来ない。
大きく溜め息を吐き出し、諦めて手を考える。
、、、実を言うと、一つ、確実に成功する作戦がある。
ただ、、、それをするには、相手が必要になる。
要は、私がラウの妻になる条件から外れてしまえば良い訳で、それを可能とする方法がある、、、私が純潔を失えばいい。
勿論、私とて色々あるけれど、そもそも一人の女だ。
出来る事なら、心から愛する人と結ばれたいし、そういう行為も子を成す為に捧げたい。
でも、既にそんなささやかな望みを抱き続けられる状況では無くなった。
流石に相手は選びたいけど、行きずりの誰かに抱かれるのも、、、想像するだけでも吐き気がする。
一人、まだ許してもいい奴はいるけど、、、いや、それも色々と面倒になる。
ふと、視界の端、地面に転がる木の枝が映り込む。
「、、、いくら何でもそれは、ね」
一瞬、それが頭を過るけど、すぐに打ち消す。
ともあれ、最終手段として考えておく必要はあるから、あとは私が覚悟を決めるだけだ。
今はとにかく、次にラウと向かい合う時に備えて対策を考えるのが先決で、、、
「誰!?」
気配を感じて立ち上がり、周囲を見回す。
だけど、人影は無い。
背筋に走る緊張感は確かに警戒を促しているのに、肝心の相手が見当たらない。
ゆっくりと視線を巡らせ、意識を研ぎ澄ませ、、、
「跪け」
突然、耳元で声が聞こえたかと思うと、考えるよりも先に体が反応する。
力が抜け、ストンと地面に膝を突く。
それでも、何とか倒れるのは堪え、首を回して背後を見ると、、、
「こ、うて、い、、、?」
そこに、居るはずの無い人物が、、、皇帝ヘル・ゼス・オ・ヤーラーンが立っていた。
冷酷な眼で私を見下ろし、感情の無い声で、私に告げる。
「果てろ」
それだけだった。
たったそれだけで、私は絶頂を迎えた。
快感も、苦痛も無い。
ただ、条件反射の様に体が反応して、私の意志など入り込む余地が無かった。
「なんで、、、」
「まだ思考出来るか。ならば」
皇帝の顔が近付き、耳元で囁く。
「壊れろ」
「ぁっ、、、ぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああ!!!」
全身が痺れ、頭が、体が、何もかもが狂おしい程の快楽で破壊されていく。
絶頂に絶頂が重なり、そこに更なる絶頂が押し寄せる。
頭の中で何かが焼き切れ、目や耳、鼻から血が流れだす。
下半身は体液や尿でぐちゃぐちゃになり、カクカクと痙攣し続ける。
両手で頭を抱え、必死に耐えるけど、それも無駄になり、そして、、、プツンと、意識が途切れた。
「えっ、、、」
朝陽に照らされて目を覚ます。
夢を見た気がするけど、何も覚えていない。
「、、、気のせい?」
辺りを見回してみるけど、何も変化は無い。
昨日着ていた服は処分したし、ラウへの対策もちゃんと考えた。
この後は、とりあえずゼムと合流して、ヴァネス達から話を聞く、、、うん、問題ない。
立ち上がり、体の調子を確かめるけどこちらも異常無し。
最後に大きく体を伸ばし、身体強化を掛けて駆け出す。
気にする事は何も無い。
なら、まずは顔を見ておくべき奴らの所に行くとしよう。
・・・私が眠っていた場所のすぐ近く、その地面に、私の物ではない足跡が残っている事に気付く事無く、、、