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転生聖女の逃亡放浪記〈総合評価520&110000PV感謝!〉  作者: 宮本高嶺
第六章 ヤーラーン帝国淫蕩録
227/363

227 心砕け、肢体屈しようと

物音で目を覚ます。

すぐ側に気配を感じ、本能的に魔法を放つ。

「なにっ!?」

ラウの驚愕する声がすると同時にその気配が遠去かる。

「まさか、もう目覚めるとは、、、」

本気で驚いてるのだろう、茫然とする奴の顔を睨みながら体を起こし、体に付いた物を魔法で落として体も清める。

横に落ちていた服を掴んで体を隠しながら、更に魔力を高めていく。

これ以上我慢は出来そうにない。

聖痕に魔力を送り込み、棒立ちする奴目掛けて炎を放ち、、、


私の意思に反して、炎はラウを避けて壁にぶつかる。

「なっ!?」

「なんと、これ程とは!」

互いに違う意味の驚きが交錯し、大穴の空いた壁から吹き込む風に部屋の中にあった紙が舞い散る。

視界を塞ぐそれを風で隅に追いやり、もう一度魔法を放とうと手を振り上げる。

だけど、流石にラウも大人しくはしていない。

私と同じく、風を操り紙を舞い散らせて自らの姿を隠す。

「ここは私の負けとしておきましょう。ですが、必ず貴女を我が物にします、、、ええ、必ずね」

風が止み、紙が床に散らばる。

その先に、ヤツの姿はもう無かった。

すぐに穴から外を見下ろすけど、既に夜闇で何も見えない。

「、、、」

とにかく、服を着て、ゼム達と合流しないといけないのだけど、、、今になって気付いたけど、咄嗟に掴んだ服は全てびしょ濡れだった。

何故濡れているかなんて、、、考えたくもない。

その服を焼き捨て、腕輪の魔導具から新しい服を取り出して着替える、、、のだけど。

その手が、僅かに震えていた、、、

「、、、悔しい」

目から溢れる涙が床に落ちる。

それを無視して服を着て、部屋の出口へと足を踏み出そうとして、ふと、その足元に水溜まりが残っている事に気付く。

「、、、そこまで私が憎いの、、、答えなさいよ、グレイス!」

怒りに任せて魔法を撒き散らす。

机や椅子、本棚、そこに収まっていた本、何もかもを木っ端微塵に破壊しても怒りは治らない。

そのままの勢いで体の異常を直そうとするけど、その途端に魔力の猛りが静まっていく。

それがまた惨めさを増して、更に部屋を破壊していく。

そうして一頻り感情をぶち撒け、ようやく落ち着きを取り戻す。

階下から騒ぎの音が聞こえるから、恐らくゼム達の方も動いているのだろう。

扉を開けて部屋から出ようとして、最後に振り返る事無く炎を放つ。

それは瞬く間に燃え広がり、私が残した痕跡も消えていく。

その炎の熱に、心の奥底から得体の知れない感情が沸き上がり、私を焦がしていく。


階段を飛び降り、目の前に居た兵士を鎌で両断する。

「な、何者っ」

声を上げた別の兵士を縦に切り裂き、更に踏み込んで隣の兵士も切り裂く。

その次も、その次の次も、慌てふためく兵士達をただひたすら無言で切り殺す。

そうして、気が付くと要塞の一階にまで下りて来ていた。

そこは広間の様になっていて、多くの兵士達が外と上の騒ぎに右往左往していた。

「、、、殺す」

その中に飛び込み、何が起きたのか分からない兵士達を一薙ぎに刈り取る。

そして、、、


静寂。

物音一つしなくなった要塞内の中央で、私はただ佇んでいた。

屋外の方も静かになったから、ゼム達は既に脱出したのだろうか。

ぼんやりとそんな事を考えていると、扉の開く音がした。

そちらに目を向けると、ゼムが顔を強張らせながらこちらに近付いてきていた。

「、、、大丈夫か?」

何処か恐れる様に問い掛ける理由、それは、今の私の姿のせいだろう。

何せ、敵兵の中に飛び込み大暴れしたのだ。

頭の先から足元まで、返り血に塗れている。

それ以外にも、体の中身までもぶち撒けさせたから、もはや怪物が喰い散らかした様な有様だろう。

「、、、ええ、大丈夫よ」

「どう見ても大丈夫じゃねえだろ」

「大丈夫って言ってるでしょ!」

声を荒げる私にゼムが驚き、だけど私の肩を掴んで真っ直ぐ向き合わされる。

「ならなんで泣いてんだよ!そんな顔してんだよ!」

泣いてる?

そんな訳ない、と思って左手で目元を拭うと、血とは違う物が頬を濡らしていた。

「そっか、、、まだ、私は泣けるんだ、、、」

それを理解した瞬間、一気に疲れが体を覆う。

すぐにでも休みたいけど、もう少しだけ。

「ヴァネス達は?」

「無事に救出出来た。他の奴らが隠れ家に連れて行ってる」

なら、私の役目は果たした事になる。

つまり、ここに居る必要は、もう無い。

心配そうに私を見つめるゼムの手をそっと振り解き、背を向けて歩き出す。

「お、おい!」

「悪いけど、暫く一人にして。今は誰とも話したくない」

返事を待たずに要塞を後にし、双血の楔の隠れ家がある町とは逆方向に走っていく。

歯を食い縛り、叫びたくなるのを堪えて、無心で走り続ける。


木々の間を駆け抜けていくと、その先に小さな泉があった。

今の私の姿と言い、まるでいつかの様な光景に、また涙が溢れてくる。

それを誤魔化すために、服を着たまま泉に飛び込む。

体に付いた血や他の物が洗い流され、ようやく頭も冷静になる。

暫く泉の中で目を閉じて感情の昂りを静めていく。

その内、息が苦しくなり始めて泉から顔を上げる。

頭の上、夜空を見上げると、静かに光る月が優しく私を見下ろしていた

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